第八話 狙撃と可能性
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「ねえ。仁也。この矢、どこから飛んできたの?」
「わ、わからない…」
「これって…狙われてるよね?」
「あ、ああ…そ――」
俺が話している途中で、再び同じ音が俺の背後から聞こえてきた。一度聞いた音だったので反射で動くことができ、優花とともに木々に隠れた。
矢が再び飛んできたのはわかるが、狙ったうえで外してしまったのか、わざと外したのか…。
「じ、仁也…」
「優花。ここを離れるよ。なにか起こる」
「え?でも、そんな気配感じないよ」
「俺だって感じない。けど、ここにいたら一方的に攻撃されるだけだしこの場から動けなくなる。女の子の捜索ができるように俺達二人がジーク達と別行動してるんだ。その意味がなくなっちゃう」
「でも、その女の子の近くに誰かいるんでしょ?」
「え、あ、そうか。てことはこの辺りの可能性が…」
と、女の子の居場所がようやくわかってきたところだが後ろのほうがなにやら大きく光り出した。急な出来事でよくわからなかったが、とっさに魔力の流れを感じ取れた。
場所は俺達のすぐ後ろ。光は無色透明。だんだん目が開けられないほど光が強くなってきた。
「な、なんだよこれ!」
「仁也!これどういうこと?」
「俺だってわからん!」
さらに光の次には大きな逆風。というかまるで吸い込まれているようだった。木々の葉や枝やらが一定方向の場所に向かって飛んでっている。とっさのことに地面に這いつくばって木を必至に掴んで耐えることしか頭にない。
「ねえ!後ろに矢があるよ!」
「え?!」
風音があまりにも大きいせいで、会話が取りづらくなっている。
そんな状況でも優花が対応して大声で話してくれたので聞こえ、とっさに後ろを向いた。すると……。
「おいおい。嘘だろ!なんで後ろにゲートみたいなのできてんの!」
「わからないよ!」
俺達の後ろには白色の円形の枠に真ん中は紫色のブラックホールのような見た目をしていた。
「くっそ! なんでこうなるんだよ!」
なんて文句口調で言っていると、どんどん風音が強くなっていく。これってやっぱ…あれに吸い込まれてる…。
「…って」
「いやあああぁぁぁ」
「優花!」
優花は木を掴んでいた手が滑ったのか、優花はブラックホールのようなやつに吸い込まれそうになったが、とっさに俺の足を掴んで耐える。
「うおおおぉぉぉ。踏ん張れよ俺――――――!!」
と、腕力を全力で使っているがさらに吸引力が強くなった。ここまでの流れで確定だな。人為的だ。俺達の様子見て強くなってる。
「て、手が…優花!ごめん!」
「え?!」
吸い込まれないように耐えて、優花が俺の足にしがみついているこの状況はなんとかキープしたいが、急に体重が加わったせいで木に引っ掛けていた手が一気にズレて掴まっているのがギリギリの状態で離す寸前、いや手が徐々に動いているのでもう手を離すことになる。
「優花!マジでごめん!」
「え?いや、本当に?!」
そして、俺はついに木から手を離してしまった。俺の腕は我慢の限界だった。
「「うわあああぁぁぁ」」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
砂埃が大きく舞って、視界が少し悪くなる状態の山道入り口付近。
「き、切りがない…」
「これ、絶対増えてるよ」
「それは、そうですよ…魔獣ですもの。お兄様」
サリス。ジーク。クラリシア。三人の姿と、状況は悲惨の一言だった。
深い傷が大きく目立ち、無数に浅い傷がある。服は血や砂などでで汚れ、一部破れた箇所が目立つ。
一方で、ロックウルフの群れはまるで減っている様子がなく、対峙している状態。一瞬でも気が抜けない。
「クラリシア。魔力は?」
「その…集中力がだいぶ欠けているので、あと一回程度が限界です。この辺りの魔力もロックウルフのせいで中々集まりません…」
「わかった。クラリシア。楽に休んでていいよ。僕が全力で守る。サリスは?」
「私?全然平気」
「ホントに?」
「うん」
サリス自身は自分がこのまま闘うと危険な状態になるのは分かっていた。しかし、彼女の発言からは一切それが感じられないほどあっさりとした発言だ。
彼女は王族を守るという使命を抱えているようなものだ。それゆえに、彼女は弱さを見せまいと思っているようだ。
「サリス。本当?」
「だから本当だって。大丈夫」
「う~ん。じゃあ信じるよ」
「うん」
と、彼女は口にするが楽観視は当然できない。魔獣という一つの脅威は魔力との関係性以外不明の、謎多き生物。そんな生物が予想外の行動をするのはわかりきったことだろう。ただ、その予想外の行動がどういったものかはわからない。瞬時の判断力と対応力が問われる。
「サリス。これからどうやって倒す?ただ攻撃してもまた数が増えて意味ないよ」
「そうね…。そもそも魔獣の出現方法が明確にわかってないから…」
「でも、『突如として地面から発生した魔法陣によって現れる』って書物で読んだことが…」
「確かに王族が学ぶ知識だし、実際に目撃した者だって普通にいるから、増えてない可能性は当然ある」
「でも、数が一向に減ってる感じがしないよ」
「そうね」
この状況は他者からすれば圧倒的不利な状況にしか見えない。人間が三人に対して、魔獣が百十数体。絶望的と言える。しかしながら彼女の様子には落ち込む様子が見受けられない。それどころか再び群れの中に突っ込むのではと思ってしまうほどの威勢の良さを感じる。対峙しているロックウルフにも弱さを見せないようにしている。
ロックウルフは獣。狩りのプロ。隙を作ってしまえば即座に襲われる。
一方で彼女は魔法師団の団員をしていた。つまり彼女は戦闘のプロ。しかも魔法師団では珍しい人材だったサリス。
今の彼女の威勢の良さ。単にロックウルフに弱さを見せないためだけではなかった。彼女はロックウルフを全滅にまでいたることができる一つの可能性を抱いていた。
「サリス。本当にどうするの?」
「ジーク。私、わかったことがあるの」
「え?」
「サリス。それは大丈夫なの?」
「うん。大丈夫。それより、巨大なボスのロックウルフ二体をよく見て」
「なんで?あんなに離れた位置にいるボスのロックウルフがどうかした?」
「うん。すっごく妙なの」
「「え?」」
彼女が抱いていた可能性はボスの様子にあるようだ。
「だってボスのロックウルフ。様子が明らかにおかしい。ずっとあの場を動いてない。協力する姿勢がまるで感じられない。待ち構えているようなの」
「待ち構えてる…」
「でも、この個体数がいれば…」
「確かに狩りは楽かもしれないけど、待ち構える様子は本能に逆らってると思わない?チーム一体となって行動して獲物を捕らえるための確率を上げるために協力するのに。それに魔力の流れを感じているとわかる。あのボスのロックウルフのところに魔力が流れてる。確実にアレを使ってる」
サリスはここで一つの可能性をジークとクラリシアに伝えた。これは仁也達も知っていることだ。魔獣の属性攻撃とやら。
そのことは知識を豊富に持っているジークはもちろん。少し理解に遅れたがクラリシアも理解できた様子だった。が、その二人は首をひねる。
「サリス。でもやつらは土属性だし、いままでそれらしき攻撃は見てないけど」
「うん。ただひたすらロックウルフを現状の戦闘態勢で倒してて、確かに土属性の攻撃はした様子がなかったけどさっき言ったように魔力は使ってる。魔獣が魔力を使うなんて特殊な攻撃以外ありえない。きっとなんかある」
彼女は明確なことがわかっていないものの、ボスのロックウルフに焦点を置いた。今まではただ数を減らす方法、言わば単細胞が考えるような猪突猛進の方法で行っていたのだが、ここからはサリスの抱いた可能性を視野に入れ行動が始まるのだろう。
「ジーク。クラリ。私は今からボスのロックウルフを倒しに行く」
「え?」
「なんで?」
「やってみる。ボスのロックウルフがなにかやってるのわかったら、それはもう止めるしかない」
「そうだね。少しでもその可能性を信じたいよ。僕も」
「私もです。早く終わらせて仁也さんと優花さんの元に急がなければ」
「その前に体力とか残ってればいいけど」
彼らは先まで休む暇すら与えられることなく、闘っていた。彼らの体力は当然ながら戻らない。
しかし、気力というのは先より増したのかもしれない。




