表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馬小屋暮らしのご令嬢  作者: 石動なつめ
第十一章 時告げの邂逅
251/259

第八話 意外と慣れてきた


 それから、さらに数日が過ぎた。

 今のところテオが記憶を取り戻したような様子はなく、彼に近付いてくる人物も現れない。

 その間、アナスタシアはシズとテオの三人で過ごしている。


(三人で行動することにも慣れてきましたねぇ)


 ここ数日を振り返り、アナスタシアはそう思う。

 何だかんだで、一緒にいる時間が長いからだ、もちろん楽観視できる状況でもないので、警戒心が緩まないように気を引き締めなければならないけれど。


 そんなことを考えながら、アナスタシアは今日もシズとテオと共に、時告げの大通り(クロック・アベニュー)を歩いていた。

 視察の帰りだ。ちなみにローランドと相談して、テオに見せて困る場所には連れて行っていない。

 ただ外を歩くにあたって、アーデン側からの接触が頻繁に起きても困るので、帽子と伊達眼鏡で素顔が分かり難いようにしている。


(それにしても、シズさんとテオさん人気でしたねぇ)


 気さくで朗らかなシズと、物静かで物腰が丁寧なテオの二人が並ぶと、対照的な雰囲気でバランスが良いらしく、集まった人たちの反応は好意的だった。


(このまま落ち着いてくれると良いのですけれど)


 テオの記憶が戻らないことが、良い状態かどうかはアナスタシアには分からない。

 けれども何となくだが、テオからは、楽しそうにしている雰囲気が感じられた。

 だから、心の中ではそう願ってしまう。例え記憶が戻っても、レイヴン伯爵領に悪さをしないでくれたら良いな、と。


 そうしていると、領都のランドマークである時計塔の文字盤が、午後の二時半頃を示したのが見えた。

 ちょうど小腹が空く時間だ。

 そう思っていたら、ぐう、とテオのお腹が鳴った。

 顔を向けると、彼はお腹に手を当てて、少々気まずそうな顔をしている。


「あ……えっと……」

「フフ。せっかくの外出ですし、何か食べて帰りましょうか」

「おっ、いいね。それなら、あそこが……」


 そう言って、シズは通り沿いのカフェを指差した。

 ちょうど、先日ヴィットーレがのんびりしていたテラス席のあるカフェだ。


「……いいのかなぁ?」


 シズも思い出したようで、最後の方では疑問形になっていた。

 アナスタシアはくすりと笑い「いいと思いますよ」と頷き、カフェへ向かって進む。

 二人のやり取りを聞いて、テオは首を傾げていたが、特に何か言うこともなくついて来てくれた。



 ◇ ◇ ◇



 カフェに入った三人は、奥の、あまり目立たない席へ案内してもらった。

 そして席につくと、それぞれにメニュー表を眺める。


「あまり来られないから、わくわくしますねぇ」

「夕食が食べられなくなっちゃうから、ほどほどにね?」

「はーい。どうしましょう、せっかくですから、ミューレさんからおすすめをいただいた……」

「アナスタシアちゃん!? ミューレちゃんって確か、結構しっかり食べる子だよね!? ほどほどにね!? ね!?」


 そんな話をしながら、アナスタシアがご機嫌に選んでいると、ふと、テオがメニュー表を手に持って固まっていることに気が付いた。


「…………」

「テオさん、どうしました?」

「え、あ……」


 アナスタシアが声をかけると、テオはハッと顔を上げた。


「いえ、その……どうしたら良いのかと……」


 そして、ちらちらとメニュー表を見ながら言う。


(あっ、もしかして……どれを選んだら良いか分からない、とかですかね?)


 テオの自主性が薄いということは分かっていたが、どうやらこういう部分もまだまだ苦手のようだ。

 それならばお手伝いをしようと、アナスタシアは人差し指をピンと立てる。


「ではテオさんに質問です。今は甘いものと辛いもの、どちらが食べたい気分ですか?」

「……強いて言うなら辛いものでしょうか。辛過ぎるのは苦手ですが……」

「なるほどなるほど。辛いよりでお腹が大満足なもの……そうだ! オムライスはいかがでしょう! 以前いただいた時に、とても美味しかったんですよ」

「はい。では、それで」


 テオは、ほっとした様子で頷いた。

 少々誘導し過ぎてしまったかもしれない。もう少し選択の余地を残した方が良かっただろうかと考えながら、アナスタシアはひとまず、にこっと笑う。


「私もオムライスにしますね。シズさんはいかがですか?」

「それじゃあ俺もそうしようかな。……ところで、もしかしてアナスタシアちゃん、結構しっかりお腹が空いていたりする?」

「いえいえ、小腹が空いているくらいで……」

「使い方が違う気がするなぁ」

「オムライスは、小腹が空いて食べるものなのですか……?」


 頬に手を当てて、お淑やかさを演出してみたところ、シズとテオの二人から、それぞれ違う方向性のツッコミが入った。

 こんなところでも良い連携である。バランスが取れているとはこういうことかと思いつつ、アナスタシアはオムライスを三人分注文したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ