12◇X06夜闇の女神3 お小言
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「君は何故、最後まで話が聞けないのだろうね?」
穏やかで優しい、柔らかい口調だ。
でも、はっきりと見下す冷ややかな。
その癖、甘く艶が滴る、官能を擽る声だったりする。
絶対。その声も眼差しも誘惑しまくってる。
冥王様はいつも俺をオカシクさせる。
声だけ、眼差しだけ、その存在感だけでも、俺は泣きたくなるんだ。
小さくなった俺に、冥王様は大層艶めいたご様子で、溜め息を零された。
何でそんなに無駄にエロチックなんですか?だから、俺はいつも焦って失敗しそうになるんだ。
内心愚痴ると、チラリと冥王様の視線が俺の頭上に落とされたと知る。
き…………聴こえた………ので しょ う か???
もう一度、嘆息なさった冥王様に、俺は確信した。
聴こえてらしたようだ。
俺は闇大神なのに………冥王様の前ではいつも失敗ばかりしてる。
冥王様は俺の事を、さぞかし莫迦だとお思いだろう。
そう考えると、泪が堪えきれずに零れ落ちた。
見なくてめ気配で解る。見える気がする訳でも無く、観える。
女神だから、視点は眸で見るだけじゃない。
冥王様の口元が、一瞬何か云おうとしたよね。
けれど。
更にひとつ。
冥王様は溜め息。
落として。
俺に背を向けた。
そりゃそうだ。
俺が何も云わないのに、冥王様が答えられる訳が無い。
何も云われて無いから、冥王様は断る事が出来ないんだ。
俺は意地悪く白銀の髪が流れる、すらりとした背中を睨んだ。
多分。
俺は反抗的な感情を眼差しに乗せてた。
冥王様が、そんな俺の視線に気付かない筈も無い。
なのに。一瞬たりとも……その姿勢も、歩調も、欠片も乱れたりしなかった。
――冥王様の莫迦。
何で俺は、冥王様に夢中なのかなあ。
絶対。
部下の気持ちには応えない方。
何度も。
何度も。
何十も。
何百も。
永い年月の中。
冥王神に袖にされた、冥王配下の神たちを見た。
飽きる程。
本気も遊びも区別なく。
繰り返された光景。
酷いよ。
部下じゃないだけで無差別オッケーの癖にさ。
俺が少しくらいグレたって。
仕方ないよな。
眸を閉じたら、泪が頬を伝い零れおちた。
絶対。
告白なんかしてやらねえ。
そう思った。
☆☆☆
「そうか。」
「そうだよ。一生云うもんか。一生。だから冥王様は俺をフル事も出来ないでいらっしゃれば良いのさ!!」
俺は月光酒を呑みながら、くだを巻いていた。
酩酊率を上げ、泥酔を目指した。
我ながらちょう莫迦だ。
あははは。
うん。まあ。たまには俺もヘコムのさ。
そんな時は、決まってアイツが付き合ってくれんだよ。
え?お小言の理由?
ううんと……ほら、シーリンの説明聞いてさあ、まだ赤ん坊なのに勇んで跳でったから?違うな………説明を、最後まで聞かずに跳んだらしんだよね。俺。
だから………かなあ?
自業自得?ちぇ。解ってるよ。俺は致命的な失敗はしない代わりに、ちっちぇえミスが多いんだよ。
仕方ないじゃん。冥王様のお傍はさあ…………キツイんだよ。
俺は結局。
こんな言葉遣いのまんま、垂れ流しだしさあ。
なあ。
あんた。
あり得ないと思わね?
上位神がさあ。
ガラス張りに心読まれるって、有り得なくね?
ああ。
でも………。
そんなスーパーデンジャラスな冥王様が素敵です。
シビレるよなあ?なあ?思うだろ?思っちゃうよなあ???
冥王様好き。
んん?
あああ。どっかなあ?
酔ってる?そっかあ?
大丈夫。大丈夫。
まだまだイケるって〜♪
お前も呑め?
ん?シーリンの理由?
何の?
ああ。選ばれた理由か。
いや。単純よ?
眠り媛とシーリンから、トウゼ王が生まれる可能性が高いんだってさ。
そそ。あのトウゼ王。リルーラ様の大宰の一柱。代理ばかりで、本当に生まれんのかって話だけどさあ。
結局神どころか、不死にもならねえ代理クンがコロコロ変わるって云う?ねえ?
でも。
今度ばかりは。
ホントっぽくね?
冥王様とセルスト様のご両名が注目ってさあ………ちょっと凄くね?
まあ。
あれだ。
あくまで。
可能性だけどなあ。
☆☆☆




