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魔王殺しノクト(旧救世の闇魔法)  作者: 藤原 光希
ネフェルナ一族のライナ編

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82/102

82話 爆神降臨

今回もお読み頂きありがとうございます!

 赤い爆炎と、黒い炎が入り乱れる。


 王室の天井が砕け、瓦礫が降ってきた。


 玉座は半分吹き飛び、壁に刻まれた紋章も熱で歪んでいる。


 その中を、ヴォルツが笑いながら突っ込んできた。


「やっぱ面白ぇな、ノクト!」


 爆装拳ばくそうけんをまとった拳が、黒焔こくえんの渦を突き破る。


 ノクトはとっさに身をひねった。


 だが、完全には避けきれない。


 爆風が肩をかすめ、服ごと皮膚を裂いた。


「っ……!」


「遅ぇ!」


 ヴォルツの蹴りが腹に入る。


 触れた瞬間、赤い衝撃が広がった。


 ノクトの体が宙に浮き、石の床へ叩きつけられる。


 息が詰まった。


 肋骨がきしむ。


 だが、その痛みの奥で、胸に埋め込まれた黒い塊が強く脈打った。


 ノクトの瞳に、暗い光が宿る。


「……闇印解放あんいんかいほう


 ヴォルツが足を止めた。


「あ?」


 ノクトはゆっくり立ち上がり、杖を床へ突き立てる。


闇印解放あんいんかいほう――黒焔魔人こくえんまじん顕現けんげん


 ノクトの背後で、黒い炎が人の形を取った。


 巨大な魔人だった。


 顔はない。


 体はすべて黒焔でできている。


 広い肩。


 太い腕。


 燃え盛る影が、そのまま戦士になったような姿だった。


 黒焔魔人こくえんまじんがゆっくり拳を握る。


 それだけで、王室の床に黒い焦げ跡が広がった。


 ヴォルツの口元が吊り上がる。


「いいじゃねぇか。そういうのを待ってたんだよ」


 ヴォルツが地面に掌を叩きつけた。


爆界裂掌ばっかいれっしょう!」


 円形の爆発が床を走る。


 王室の床が波のようにめくれ上がり、赤い衝撃が一気に広がった。


 だが、黒焔魔人が前へ出る。


 両腕を交差させ、爆発の輪を正面から受け止めた。


 黒い炎の体が大きく揺れる。


 それでも崩れない。


 魔人は爆炎を押し割り、巨大な拳をヴォルツへ振り下ろした。


「ちっ!」


 ヴォルツは爆発の反動で横へ跳ぶ。


 魔人の拳は床を砕き、亀裂の奥へ黒焔が流れ込んだ。


 ノクトも同時に踏み込む。


 杖先に黒焔が集まった。


黒焔燼砕こくえんじんさい


 ノクトが杖先を床へ落とす。


 すると黒焔が、細かな灰のように散った。


 燃え上がるわけではない。


 黒い燃えかすだけが、静かに王室へ舞う。


 ヴォルツはそれを見て、本能的に後ろへ下がった。


「やべ――」


 次の瞬間、黒い燃えかすが一斉に反転した。


 内側へ集まり、ぎゅっと圧縮される。


 そして遅れて、黒い衝撃が広がった。


 王室の床が割れ、瓦礫と熱がまとめて吹き飛ぶ。


 ヴォルツの体は衝撃に飲まれ、玉座の残骸へ叩きつけられた。


 黒い灰が、雨のように降る。


 ノクトは荒い息を吐いた。


 だが、土煙の向こうから笑い声が聞こえてきた。


「ハハ……ハハハハッ!」


 ヴォルツが立ち上がる。


 額から血を流し、服は裂けている。


 片腕には黒焔の焦げ跡も残っていた。


 それでも目は死んでいない。


 むしろ、さっきより楽しそうだった。


「やっぱ六魔星殺しは違うな。最高に楽しいぜ」


 ヴォルツの全身から、赤黒い魔力が噴き上がる。


 空気が変わった。


 王室そのものが、爆発の直前みたいに震え始める。


「でもな、ノクト」


 ヴォルツが両腕を広げた。


「俺だって六魔星なんだよ」


 床に火花が走る。


 壁の亀裂が赤く光る。


 空気そのものが、火薬のように熱を帯びていく。


「見せてやるよ。俺の最終兵器を」


 ノクトは杖を握り直した。


 黒焔魔人こくえんまじんが背後で唸る。


 だが、ヴォルツの魔力はそれすら飲み込むほどに大きくなっていた。


爆神降臨ばくしんこうりん――終焉烈界しゅうえんれっかい


 その詠唱と同時に、王室の空気が変わった。


 そこはもう、ただの部屋ではなかった。


 爆発そのものの領域だった。


 床も、壁も、天井も、赤黒く脈打っている。


 石の隙間から火花が吹き出す。


 砕けた柱の破片が宙に浮かび、内側から破裂して粉々になった。


 爆発が起きているのではない。


 この空間そのものが、巨大な爆弾に変わっていた。


 ヴォルツの体から、赤黒い魔力が絶え間なく噴き上がる。


 皮膚には爆炎のような紋様が走り、瞳の奥では火花が弾けていた。


「どうだよ、ノクト」


 ヴォルツが笑う。


「これが俺の最終兵器だ。この空間の中じゃ、俺の意思ひとつで何もかも爆発する」


 ヴォルツは指を鳴らす。


「床を踏めば爆発。息を吸えば爆発。魔力を動かしても爆発。逃げ場なんてどこにもねぇ」


 ノクトは杖を構えたまま、周囲を見渡した。


 確かに厄介だった。


 壁に触れれば爆発する。


 床に力を込めても危ない。


 迂闊に魔力を広げれば、その魔力まで爆発に変えられる。


 これまでの派手な爆発魔法とは違う。


 これは、王室全体を自分の魔法の中に変える力だった。


 相手の動きすべてを、爆発の引き金にする魔法。


 六魔星の名は、伊達ではなかった。


「さっきまでの余裕、どこ行った?」


 ヴォルツが足元を軽く踏む。


 それだけで、ノクトの足元から爆炎が噴き上がった。


「ぐっ……!」


 ノクトはとっさに黒焔をまとって防ぐ。


 だが、衝撃までは殺しきれない。


 体が後方へ弾かれ、石床に片膝をついた。


「ほらな。動かなくても死ぬぜ?」


 ヴォルツが指を鳴らす。


 今度はノクトの左右の空間が同時に破裂した。


 見えない壁に挟まれるような衝撃が走り、黒焔が削られていく。


 ノクトは奥歯を噛んだ。


 強い。


 ヴォルツには、グラヴィルやノクティルのような底知れなさはない。


 だが、破壊力と一瞬の火力だけなら、六魔星の中でもかなり厄介な相手だった。


 まともに受け続ければ、押し切られる。


 それでも、ノクトの目は死んでいなかった。


「なるほど」


 ノクトが小さく呟いた。


「あ?」


「お前の魔法は、空間全体を爆発の条件に変えている」


 ノクトはゆっくり立ち上がる。


「けど、全部を一度に爆発させているわけじゃない。お前が意識して、爆発させる場所を選んでるんだ」


 ヴォルツの笑みが、少しだけ消えた。


「だったら何だよ」


「それなら隙はある」


 ノクトは杖を構え直した。


 背後では、黒焔魔人こくえんまじんが大きく息を吐くように炎を揺らしている。


「お前の爆発に合わせて、その一瞬を切り裂く」


 ヴォルツの目が細くなった。


「やれるもんならやってみろよ」


「ああ」


 ノクトは一歩、前へ出た。


「そのために、俺はまだ立ってるんだよ」

読んで頂きありがとうございました!


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