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魔王殺しノクト(旧救世の闇魔法)  作者: 藤原 光希
ネフェルナ一族のライナ編

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79話 黒い塊

今回も読んで頂きありがとうございます。

 ノクトは、エリシアの声で我に返った。


「エリシア……?」


 目の前には、焦った顔のエリシアがいた。


 エリシアはノクトの肩を掴み、強く揺さぶっている。


「どうしたの、ノクト!急にぼうっとして……まさか、あいつの幻術にかかってたの?」


「ああ……」


 ノクトは荒く息を吐いた。


 頭の中の整理が追いつかない。


 本当に、俺は自分の意思で父さんを殺したのか。


 ノクティルは、俺を混乱させようとしているだけなのか。


 それとも本当に、俺は誰かに動かされていたのか。


 もしそうなら、俺が父さんを殺した理由は何だったんだ。


 この世界を守りたかったからじゃないのか。


 ノクトの胸の奥に、嫌な不安が残っていた。


 その時、レオニルがノクティルを見た。


 そして、顔色が変わる。


 あの日の記憶が、はっきりと戻ってきたのだ。


 フェルナ村。


 グラヴィル。


 そして、その隣にいた黒髪の男。


「ノクティル……!」


 レオニルは怒りのままに飛び出した。


 低く踏み込み、拳を叩き込む。


 だが、ノクティルは半歩だけ体をずらした。


 それだけで、レオニルの拳は空を切る。


 次の瞬間、ノクティルの手がレオニルの腕を取った。


「……っ!」


 レオニルの体が軽く浮き、地面に叩きつけられる。


「兄さん!」


 ライナが叫び、すぐに続いた。


 ライナの蹴りが走る。


 だが、ノクティルはそれも静かにかわした。


 まるで、最初から全部分かっていたみたいだった。


 ノクトとエリシアも加わる。


 ノエルは雪の精霊を使い、仲間の動きを支えた。


 ノクトの闇魔法。


 エリシアの光魔法。


 ライナとレオニルの体術。


 ノエルの補助。


 五人が同時に攻めている。


 それなのに、ノクティルには傷一つつかない。


 しかも、ノクティルは強い攻撃を返してこなかった。


 急所を外し、重傷にならない程度にかわし、受け流し、崩していく。


 殺す気はない。


 ただ、こちらの体力だけを削っている。


 エリシアが歯を食いしばった。


「私たちの攻撃を、全部かわしてる……。これすら幻術なの?」


「分からない」


 ノクトはノクティルを睨んだ。


「俺も、あいつの魔法はほとんど知らない」


 ノクティルは、静かな目でノクトたちを見ていた。


「どうした」


 その声には、焦りがまったくない。


「あれを使わないのか」


 ノクトの目が細くなる。


 ノクティルが見たいもの。


 それは一つしかない。


 冥澄の魔法。


 ヴァルグランを倒した、ノクトとエリシアの合体魔法だった。


 ノクトとエリシアは、一度後ろへ下がった。


 そして顔を見合わせる。


「エリシア。マナは残ってるか?」


「ええ。当たり前よ」


 エリシアはノクトの手を握った。


 その瞳はまっすぐだった。


「粛清の時間よ」


「ああ」


 二人は呼吸を合わせた。


 ノクトの闇と、エリシアの光が重なる。


 完全に混ざるわけではない。


 ただ、同じ場所で響き合う。


 白でもない。


 黒でもない。


 その狭間から、冥澄のマナが生まれた。


冥澄神降めいちょうしんこう――無涯女神顕現むがいめがみけんげん!」


 二人の足元に、白と黒の魔法陣が重なった。


 次の瞬間、空気が静かになる。


 風が止まる。


 森に落ちていた影さえ、一瞬だけ遅れて揺れた。


 その中心から、冥澄の女神が立ち上がる。


 輪郭はぼんやりしている。


 顔も形もはっきりしない。


 けれど、そこにいるだけで分かる。


 これはただの魔法ではない。


 世界の境目に立つものだ。


 女神の背後には、いくつもの境界輪きょうかいりんが静かに浮かんでいた。


 ノクティルは、その姿をじっと見つめる。


「これが、ヴァルグランを倒した魔法か……」


 初めて、ノクティルの顔から余裕が消えた。


「こんな魔法が存在するのか……」


 冥澄の女神が、ゆっくりと手を上げる。


 いくつもの境界輪きょうかいりんが、ノクティルへ向かって落ちた。


 その瞬間だった。


 ノクトの視界が、また白く染まった。


 気づけば、ノクトはさっきと同じ白い空間に立っていた。


 目の前には、ノクティルがいる。


「ノクト」


 ノクティルが静かに言った。


「お前は闇魔法を思うように使えないらしいな」


「何を……」


「これは、俺からの贈り物だ」


 ノクティルが近づいてくる。


 ノクトは動こうとした。


 だが、体が動かない。


 指一本すら、思うように動かせなかった。


「くそっ……!」


 ノクティルは、自分の胸に手を入れた。


 そして、そこから黒い塊を取り出す。


 それは、まるで心臓のようだった。


 黒く濁った塊が、どくん、どくんと鼓動している。


 見ているだけで、嫌な寒気がした。


「やめろ……!」


 ノクトが叫ぶ。


 だが、体は動かない。


 ノクティルはその黒い塊を握ったまま、ノクトの胸へ手を伸ばした。


 次の瞬間、ノクトの胸を貫く。


「がああああああっ!!」


 あまりの痛みに、ノクトは絶叫した。


 ノクティルの手が、ノクトの体の中へ沈んでいく。


 そして、黒い塊だけを置いていった。


 ノクティルはゆっくりと手を引き抜く。


「これで、お前は自分の闇魔法を思うように使える」


 ノクトは胸を押さえ、膝をついた。


 体の奥で、黒い塊が脈打っている。


「もう、あの光属性の魔法使いも必要ない」


 ノクティルは冷たい目でノクトを見る。


「己の道を進め。その闇魔法でな」


 それだけ言い残し、ノクティルの姿は消えた。


 次の瞬間、ノクトの意識は現実へ戻った。


 冥澄の女神が放った境界輪きょうかいりんは、ノクティルに直撃していた。


 ノクティルの体が、音もなく崩れていく。


 そして、そのまま消えた。


「消えた!?」


 エリシアが叫ぶ。


 ノクトは荒い息を吐きながら、消えた場所を見つめていた。


「あれはノクティル本体じゃない」


「え?」


「分身魔法だ」


 エリシアの表情が変わる。


 だが、一番驚いていたのはノクト自身だった。


 分身魔法で作られたノクティルは、本体の力をすべて使えるわけではない。


 それなのに、ノクトはここまで深く幻術にかけられた。


 もし今ここにいたのが、本物のノクティルだったなら。


 自分たちは、どうなっていたのか。


 考えただけで、背筋が冷たくなった。


 その時、一人の男性エルフが駆け込んできた。


「セレフィナ様!大変です!」


 全員が振り返る。


「大量の反対派が、また森に押し寄せています!しかも今度は、魔王軍らしき者たちも混じっています!」


 空気が一気に張り詰めた。


 さっきとは違う。


 今度は、本物の戦争になる。


 ノクトは静かに顔を上げた。


「エリシア」


「何?」


「この場を任せてもいいか」


 エリシアが眉を寄せる。


「どういうこと?」


 ノクトはセレフィナの母へ視線を向けた。


「セレーネさん」


 セレフィナの母が、静かにノクトを見る。


「俺がヴォルツを討ちます」


 ノクトの声は低かった。


「あいつを倒さないと、この内乱は終わらない。俺をヴォルツの王宮まで案内してください」


 エリシアが一歩前へ出る。


「待って。まさか一人で行くつもり?」


「ああ」


「私がいないと、ノクトは冥澄の魔法を使えないでしょ」


「分かってる」


 ノクトは胸の奥にある黒い塊を感じていた。


 気持ち悪い。


 怖い。


 それでも、確かに闇のマナがいつもよりはっきり動いている。


「試してみたいことがあるんだ。もしかしたら俺は一人でもヴォルツに勝てるかもしれない。


 しかもこっちにだって、魔王軍の幹部クラスが来るかもしれないからな。


 ノクトは続ける。


「その時、エリシアがいないと森を守れない。だから、ここは任せたい。」


 エリシアはしばらく黙っていた。


 けれど、最後には小さく息を吐く。


「あなたがそこまで言うなら、止めないわ」


 その声には、不安がにじんでいた。


「でも、無茶はしないで」


「分かってる」


 ノクトは頷いた。


 エリシアは少しだけ目を細める。


「戻ってきなさい。必ず」


「ああ。必ず戻る」


 セレーネは静かに頷いた。


「分かりました。幻の入口まで、私が導きます」


 こうしてノクトは、仲間たちと別れ、一人でヴォルツの王宮へ向かうことになった。

とうとう3章も終盤に近づいています!どうぞ最後までお楽しみ下さい!

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