45話 革命前夜
前夜祭は物凄く盛り上がっていた。酒豪のライナもベロベロで、普通に歩けない状態になっていた。
「ライナ!流石に飲み過ぎだ!ちゃんと歩けてないじゃないか!」
「そんなことないよぉ!てか、ノクト全然飲んでなぁい!もっと一緒に飲もうよぉ!」
ライナがノクトに飛びつく。するのノクトはバランスを崩して、ライナと一緒に倒れた。二人の持っていたジョッキは石床に落ちて乾いた破裂音を上げる。そして泡とぬるいビールが広がった。
「うわぁ。ふかふかのベッドだぁ。」
ライナはそう呟いてノクトを抱きしめて眠ってしまった。
「おい!ライナ!こんなところで寝るなっって!」
ライナは酔っ払って眠ってしまった。ノクトは身動きができずに困惑している。
エリシアがライナを担いだ。
「ノエル。酔っ払いに効く異常回復の魔法とかはないの?」
エリシアが冗談で言うとノエルが「あるよ」と呟く。思わずエリシアも「え!?本当にあるの!?」と驚いた。
ノエルはライナの額に、指先をそっと当てた。
「酔いを雪に変えるね。醒華雪酔‥‥‥」
ノエルが小さく指を鳴らす。するとライナの口元が白く光り、口元からふわりと白い結晶が舞った。
それは雪みたいに溶けて消えると同時に、ライナがそっと目を開いた。
「あれ?アタシ何してるの?」
「この場所に雪を降らすね。」とノエルが笑顔で呟いた。そしてもう一度同じ魔法を唱える。その魔法はこの場にいる全員にかけられた。
ノエルがもう一度、指を鳴らした。
「醒華雪酔」
ぱち、と小さな音。すると淡い雪が、ふわりと場を満たした。
冷たいはずなのに、肌を撫でるだけで痛みはない。頭の奥の熱だけが、静かに引いていく。
「……うわ、酔いが抜ける……」
「マジかよ、目ぇ覚めた……!」
さっきまで千鳥足だった暁の連中が、次々に背筋を伸ばした。笑い声は残っているのに、視線が変わる。
マルクが口を尖らせた。
「どうせ明日死ぬなら今日飲む……って言いたいとこだけどよ。反則だろその雪!」
「明日生きるために、今夜は寝ないと。」
ノエルが困ったように笑う。
ライナは目をぱちぱちさせて、周りを見回した。
割れたジョッキ、床に広がった泡、ノクトの服に染みたビール。
「……あ。アタシ、やらかした?」
「やらかした」
ノクトが即答する。
エリシアはライナを肩から降ろす。
「まぁ楽しそうで何よりだわ。」
レオンがライナに歩み寄ってきた。
「俺が酒で潰されたのは初めてだ。面白い奴だな。ライナ、明日は頑張ろうな。」
「うん!明日はアタシとノエルも全力でサポートするからね!」
レオンとライナは酩酊を通じて仲を深めていた。この二人が酒飲み連中の中で最後まで生き残っていたのだった。そしてレオンはライナよりも前に倒れてしまった。
「そういえばユリウスがいないな。」とノクトが周りを見渡す。
「ユリウスは愛する人のもとに向かったのさ。」とリュカが笑いながら言った。
「愛する人!?」とノクトらは驚く。
「それも王族の娘さんらしいよ。笑っちゃうよね。」とリュカがニヤニヤする。
ノクトらはまさかと思った。するとミレイユ・ヴァルモンが歩み寄ってきた。
彼女はノクトらが今日行ったアジトを率いている副リーダー的存在だった。赤茶の髪をゆるく結んだ小柄な女で、頬にそばかすがある。ユリウス、レオンがいないときは、ジャン・ルーセル、ミレイユ・ヴァルモンの二人が暁を仕切っていた。
「革命の前に女だなんて、ほんとユリウスの奴は大丈夫かよ。」
「ミレイユはユリウスのことが好きだったんだよ。それなのにふと出てきた女性にユリウスを取られたことに嫉妬してるのさ。」
「リュカ!ぶっ殺してやる!」とミレイユがリュカを追い掛ける。
リュカはふざけた悲鳴を上げながら逃げ回った。リュカはすばしっこいのでミレイユは途中で追うのを諦めた。
「あいつだけは絶対に許さない!」
ノクトは彼らの様子を見てクスッと笑った。彼は周りを見渡す。暁の皆が楽しそうにしていた。ノクトはこの日常を少しでも守り抜くことを誓った。
暁は年齢の若い者たちで構成されている。どんな者であっえも、この人達の未来を決して奪ってはならない。俺の父が残した魔王軍。俺の兄が率いる六魔星。そして大切なものを奪われていく者たち‥‥‥
俺は絶対にヴァルグランを倒す。もう負けない。ヴァルグランを倒せなかったら、この先に戦うことになる六魔星の誰にも勝てない。
ノクトは決意した。このベルナールの国で魔王軍に勝利することを。彼はエリシア、ライナ、ノエルに言った。
「明日は必ず勝とう!あと一つ約束がある。みんな必ず生き残ってくれ。俺たちは魔王と戦うまでは負けられないんだ。だから明日は絶対に勝って生き残ろう!」
「もちろんよ。あなたこそ足を引っ張らないようにね。私はもう負ける気がしないからヴァルグランの野郎を粛清するわ。」
エリシアの強気な発言でノクトが思わず微笑んだ。
「明日は暁のみんなと頑張ってこの街を守るね!アタシもたくさん練習したんだから!この街を守ることは任せてよ!」
ライナはいつにもない笑顔だった。不安な様子など一切なかった。
「僕はみんなのサポートだね。魔力を使い切るまでサポートするよ。」
ノエルはどこか落ち着いている様子で、瞳には少しの曇りもなかった。
彼らはベルナールの歴史を変えるために、みんなで同じ決意を胸に掲げていたのだった。




