39話 光と闇のコンビネーション
エルは涼しげな表情を変えない。
「あーあ。さっさと殺したいんですけどねぇ。」
エルは背中合わせの二人に真剣を向ける。そして微笑んだまま静かに息を吸った。
「風階・伍《天迅》」
言葉が落ちた瞬間だった。
音が遅れた。
空気が裂ける衝撃だけが遅れて響き、エルの姿は消えたのではない。存在が前方から削り取られたように消失した。
次の瞬間――
ノクトの背後、
エリシアの視界の外、
二人の隙間に影が生まれる。
理解するより先に、風が突き刺さった。
刃ではない。
斬撃でもない。
超高速で踏み込んだ肉体そのものが、凶器となった衝突。
地面が爆ぜ、瓦礫が浮き、天から落雷のような衝撃波が走る。
「――っ!」
ノクトが反射的に闇を展開し、エリシアが光を叩きつける。だが、それでも追いつかない。
エルはもうそこにいない。再び世界の別の一点に現れた。
一歩ごとに位置が変わる。
一呼吸の間に、戦場を支配する速度。
それが――
風階・伍《天迅》。
最速の風が、背中合わせの二人を引き裂こうと、次の瞬間へと踏み込んでいた。
風が再び走る気配――
エルが《天迅》の次の一歩に踏み込もうとした、その刹那。
ノクトが、動いた。
彼は追わない。
見ない。
逃げもしない。
ただ、漆黒の杖を地面に突き立てた。そしてもう一方の片手でエリシアの手を強く握り絞めた。
「エリシア。俺に力を貸してくれ。」
低く、確かな声。そして闇が、反応した。
ノクトの足元から影が広がる。それは黒ではない。光を拒む概念そのものが、地を覆っていく。
空気が重く沈み、風が初めて鈍った。そしてノクトは目を閉じる。
胸の奥。刻まれた呪印が、灼けるように疼く。
「闇印解放――」
その言葉と同時に、ノクトの背後で何かが目を覚ました。
闇が燃える。
黒焔――
炎でありながら光を放たず、周囲の色彩を喰らい尽くす異形の火。
「――黒焔魔人、顕現」
ズゥン――――
大地が沈み込む。
ノクトの背後に、人型の影が立ち上がった。
身の丈はノクトの倍以上。輪郭は曖昧で、顔は存在しない。
ただ胸の奥に赤黒く脈打つ焔の核だけが灯っている。まるでノクトの闇そのものが形を得た存在。
エルが、初めて表情を変えた。
「……へぇ」
わずかに、本当にわずかに口角が下がる。
「それは……反則級ですね」
だが、風は止まらない。エルが踏み込む。
《天迅》。
世界が歪み、彼の姿がノクトの背後に――
だが、そこにはもう一つの存在がいた。
黒焔魔人が、ゆっくりと腕を振る。
速度はない。技もない。ただ、空間を“塗り潰す”一撃。
風が、
斬撃が、
概念ごと――闇に沈んだ。
「……っ!」
エルが初めて、距離を取る。
その足元で黒焔が地を這い、天迅の踏み場を侵食していく。
ノクトは、ゆっくりと目を開いた。そして背中合わせの位置で、エリシアが聖剣を構える。
「逃げ場はないわ。
熾祈連環・聖印合致――天輝護将、降臨。」
巨大な光の戦士が現れる。黒炎魔神と光の戦士がエルを睨む。
光と闇。最速と最深。
黒翼将エル=シェイドが、初めて追い詰められる側に立った瞬間だった。
「流石に厄介な魔法ですね。」
エルが剣先をわずかに下げる。その瞬間に周囲の空気が凍りついた。
風が集まり、渦を巻き、音を失う。
「――風霊顕現・疾風鷲」
白い風が一気に天へと噴き上がり、刃のような風の筋が絡み合って形を成す。
次の瞬間、巨大な風の鷲が顕れ翼を広げた。
羽ばたきひとつで空間が軋み、圧倒的な風圧が場を支配する。
疾風鷲は静かに首を巡らせ、獲物を定めるように二人の魔法を見下ろしていた。
強大な魔力同士が衝突する。エルの魔法は破られた。しかしノクト等の魔法も威力を失う。そして大きな爆発が起こった。エルは多少の負傷を受けたが致命傷ではなかった。
エルが再び剣を構え直す。すると周囲に散らばっている山の数ほどあるガラクタが重なり合って、空に向かって昇っていく。そして十メートル以上もある巨人が出現した。
ユリウスが魔法で巨人を出現させる。ライナも炎の獅子を出現させる。ノエルは雪の精を周囲に舞わせた。
エルもこの人数を相手に戦うことは無理だと諦めた。ノクトとエリシアを相手にしているだけでも精一杯だったが、他の三人の魔法使いも厄介に感じられた。
「流石に退散ですね。また会いましょうノクトさん。次は殺しますからね。」
エルは一瞬吹いた風に溶け込んだように消えてしまったのだった。
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