24話 ヴァルグランの本気
ノクトが召喚した黒焔魔人は更に焔の火力を上げてヴァルグランに向かう。
ヴァルグランも上位魔法で対抗した。ヴァルグランが地上に刻まれた〈熾印〉に指先を当てる。
「熾印縛解――紅蓮魔人、降臨。」
封じられていた印が赤白く弾け、足元の紅蓮界域が噴き上がるように盛り上がる。
炎の柱の中から角を生やした紅蓮の魔人が立ち上がった。そして全身の筋肉のような炎がうねりながら、ヴァルグランの視線一つで拳を振り下ろす。更にヴァルグランは白焔魔人も降臨させた。
強力な魔法を連続で発動できるヴァルグランの魔力は底を知らなかった。ノクトは目の前の魔人を睨みつける。そして杖を向けて魔人を黒焔で燃やす。だがヴァルグランの魔法は強力でノクトの黒焔魔人だけでは対抗できない。エリシアも上位魔法を唱えた。
「熾祈連環・聖印合致――天輝護将、降臨。」
巨大な光の戦士が現れる。そして光の戦士が闇の魔神と力を合わせて戦った。
ヴァルグランも思わぬ力の組み合わせに苦戦した。戦いは互角。彼等の上位魔法は力をぶつけ合わせて消滅した。
ヴァルグランはノクト等に向けて魔法を放つ。ノクト等は手を握り合わせながら上手くヴァルグランの攻撃を避ける。そしてノクトはエリシアに流れる光のマナに助けられて、攻撃魔法を連発する。
ヴァルグランの辺り一面が黒く炎上する。ノクトは光のマナのおかげで体に対する負担が全くなく闇魔法を発動できた。
エリシアもノクトに劣らず光魔法を連発する。ヴァルグランにとって、光と闇の魔力が合わさって己に攻撃してくるのは異様な光景だった。
光と闇。相対的な関係にある魔力が良き連携で自らに襲い掛かる。ヴァルグランは久しぶりに本気を出して戦った。そしてヴァルグランは魔王の子と勇者の妹という異色な組み合わせを目の前にして、どことなく新時代が幕を開けようとしている予感を抱いたのだった。
だが自分も六魔星として彼らに負けるわけにはいかない。ゼルク様に忠義を尽くす。それが我が宿命であることをヴァルグランは心に留めていた。
ヴァルグランは大きな魔力を込めた。そして呪文を詠唱する。
「熾印点火――紅蓮炎龍、招来。」
先ほどとは比べ物にならないほどに大きな紅蓮炎龍が召喚された。
ノクトとエリシアが手を重ね合いながら互いに魔法を詠唱する。
ノクトが杖を突き立てた。そして黒焔の魔人を召喚する。エリシアも巨大な光の戦士を召喚した。光と闇の魔力が火の魔力とぶつかって衝突する。
そしてノクト等の魔法が破られた。紅蓮炎龍は威力を弱めたものの轟々と炎を激らせながら二人に突進する。
エリシアは急いで防御魔法を発動した。
「聖盾顕現!」
エリシアが聖剣を地面に突き立てる。その足元に白金の紋章がぱっと咲き、光が前方へ走った。次の瞬間、彼女の前に建物一つ分はありそうな巨大な光の盾が「ドンッ」と立ち上がった。
半透明の板の表面には聖印が浮かんでいる。
炎龍が聖盾にぶつかった。炎龍は聖盾をも割ってノクト等に突進する。エリシアは炎龍に剣先を向ける。ノクトは体内の魔力を振り絞って莫大な黒焔で炎龍を燃やす。弱まった炎龍をエリシアが切り裂く。炎龍の攻撃でノクト等は吹き飛んだ。炎龍も消滅したが、ノクト等の受けたダメージも小さくはなかった。
ヴァルグランは次から次へと強力な魔法を連発する。ノクト等は魔法を避けるか防ぐしかできなかった。そもそもマナの体力が全く違った。
ノクトとエリシアは魔力を使いすぎていた。しかしヴァルグランもそれほどに魔力を使っているはずだ。それでも彼は次から次へと強い魔法を連発する。
「もう終わりだなお二人さん。次の魔法で死んでもらうぞ。」
またヴァルグランは紅蓮炎龍を発動した。ノクトは体内に流れる魔法のほぼ全てを魔法生成に費やした。これは命を賭けた行為だった。
「エリシア。一発で体がやられるかもしれない。光のマナで援護して欲しい。」
「分かったわ。」
エリシアはノクトの両肩に手を置いた。そして集中してノクトにマナを送る。
ノクトが杖を突き立てた。
「冥印解放――漆黒龍、降臨。」
足元から黒い紋様が一気に広がり、地面が闇に染まる。次の瞬間、魔法陣の中心から黒焔をまとった巨大な龍がせり上がる。赤い双眸が光り、ひと鳴きしただけで空気がビリビリ震えた。
「これは‥‥‥亡き魔王様が使われていた魔法‥‥‥」
ヴァルグランは目を丸くしていた。
漆黒の龍が紅蓮の龍と絡み合う。そして二つの魔法は相殺した。するとノクトは力尽きて倒れてしまった。エリシアがノクトを受け止める。
「ノクト!どうしたの!?しっかりして!」
ノクトは意識はあるものの肉体が言うことをきかなかった。
ヴァルグランが更に魔法を詠唱する。すると再び先ほどと同じ大きさの龍が召喚された。エリシアは自分の魔法ではヴァルグランの魔法を破れないことを分かっていた。しかしこのまま死ぬわけにもいかない。
エリシアは剣を構えた。何がなんでもノクトを守りたかった。自分はノクトを殺そうとしたこともある。しかしノクトは魔王の子であって魔王軍の者ではなかった。ノクトならもしかしたら自分と一緒にこの世界を救ってくれるかもしれない。このときエリシアは本気でそう思っていた。そしてノクトを守りたいという気持ちが光のマナに変わっていく。
エリシアの全身からマナが溢れた。エリシアから溢れる光のマナが光輝く。そして新たな魔法がエリシアを迎え入れた。
エリシアは新たなる魔法を詠唱する。この一撃でノクトを守る。彼女は天に誓ったのだった。




