19話 黒翼将バサルト
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ノクトとエリシアがヴァルグランと戦っている頃、ゼルマンは隠れ家でミレオのことを見守っていた。彼にはもう祈ることしかできなかった。
「バルザック王様‥‥‥もしかしたら今日が歴史に残る日になるかもしれません。この国に奇跡が訪れようとしています。」
ミレオもゼルマンと同様にずっとこの国の未来を思っていた。ライナ、エリシア‥‥‥そしてノクト。
数時間前、ノクトは突然に拘束された部屋から出てきた。そしてゼルマンとミレオに「俺も戦いに行かせて欲しい」と頭を下げたのだ。
もちろんミレオは「お前のことなんて信用できない!」と叫んだ。するとノクトは土下座をした。
「俺の父や兄が世界をめちゃくちゃにしていることに対して、本当に申し訳なく思っている。
俺もこの目で悲しんで絶望している人を何人も見てきた。でも俺は本当に世界を救いたいんだ。
俺だって魔王を親には持ちたくなかった。でもこの関係性だけは努力でも変えられない。だからこそ俺には行動するしかないんだ。
自分は魔王の子だ。これはもうどうしようもない最悪の運命だし、この世界で息をしているのさえ嫌になる。でも俺には魔王から授かった特別な魔力がある。
これは魔王家のみに許された魔力。闇魔法は汚らわしいものかもしれない。でも俺はこの闇魔法で世界を救いたいんだ!この国を救わせてくれ!ミレオ!」
ミレオは黙り込んだ。そしてゼルマンが口を開く。
「ミレオ様。行かせてあげましょう。」
ミレオは黙って俯いたままでいる。
「彼なら本当にザルベックの救世主になってくれるかもしれません。私も長年生きてきましたが、この者のような決意の籠った瞳に嘘はつけません。彼ならば大丈夫です。」
ミレオは黙って頷いた。ノクトがお礼を言って隠れ家を出ようとする。そのときミレオがノクトの名を叫んだ。ノクトが振り返る。
「この国を助けて下さい。よろしくお願いします。」
ミレオが深く頭を下げた。するとノクトがミレオに近づいて、少年の両肩に手を置いた。
「俺に任せて。命に代えてもこの国を救ってみせるよ。」
ノクトは今日一番の笑顔だった。
「信じてくれてありがとうな。」
ノクトは隠れ家を後にして、ザルベック城に向かった。ヴァルグランを倒すために。自分がこの国を救う。その決意だけを胸に掲げた。そしてそれからだいぶ時が経った。
ゼルマンとミレオはずっと無口だった。二人とも気が気でなかった。どうかこの国が変わってくれますように。その気持ちだけで、一秒が永遠のように感じられた。
隠れ家の中はずっと緊張感が漂っていた。そして異変は突然にやってくる。
小屋の床下で、砂がさらりと鳴った。
ゼルマンが即座に声を飛ばす。
「ミレオ様、伏せて!」
床板の隙間から砂が伸び、手の形になる。足首を掴みに来た――砂縛手。
ゼルマンはミレオの肩をぐっと押して床に伏せさせ、足で机を蹴って砂の手の前に倒す。一拍。
彼は短剣で床板を割り、覗いた砂の“手首のくびれ”に木楔を打ち込む。砂の流れが詰まり、手はばらりと崩れた。
ゼルマンは急いでミレオと外に出た。すると戸口の外、黒い外套が木々の間から現れる。胸に〈堕天の双翼〉。黒翼将バサルト。
体格は小柄だが、全身から重圧のような魔力が滲んでいる。土色の髪は乱れ、瞳は琥珀に濁って静かに燃えていた。
「王子を渡せ。ここで殺す。」
ゼルマンは叫んだ。
「ミレオ様!遠くに逃げて!ここは私に任せて下さい!」
ミレオはゼルマンの言う通りに走り出した。
ゼルマンとバサルトが戦闘を開始する。バサルトは土砂や岩を操る地属性魔法を使った。土砂で築かれた巨大な掌がゼルマンを襲う。
するとゼルマンが剣で手を切り払う。しかし剣は土砂の間ををさらさらと流れるだけだった。
ゼルマンは呪文を詠唱した。彼は水属性魔法を使った。バサルトの地属性とは相性が悪い。魔法で対抗するよりも剣術で戦う方が賢明だと考えた。だが砂が切れない。剣で切ろうとしてもサラサラと流れるだけだった。
ゼルマンはある考えを思いつき水属性魔法を唱えた。水が砂の手を濡らす。すると砂は固まって、ゼルマンの剣で安易に崩れた。
「調子に乗るなよ。俺はお前には興味がないんだ。早く王子を殺して仕事を終わらせないと。黒翼将になってから初めての仕事だからな。必ず成功させる。」
バサルトは最近、黒翼将に昇格したばかりだった。その初任務が王子の殺害。楽な仕事だと思っていた。
「地脈契印――双柱、起動!」
地が隆起し、石塊が渦を巻いて二柱の巨兵が膝をつく。額紋が灯り、片や大盾を構え、片や刃腕が火花を散らして同時に立ち上がった。
ゼルマンの目前にはゴーレムが二体。ゼルマンは二体のゴーレムと戦う。しかしゴーレムは強かった。ゼルマンは吹き飛ばされる。そして二体のうち一体のゴーレムがミレオを追って早々と駆けて行った。
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