14話 ザルベック城奪還計画
ミレオはライナを見て、口にする言葉が見つからずに、ただ感情を吐き出すように泣き出した。
「じゃあ僕は誰にこの怒りをぶつければいいの?」
するとライナがミレオを優しく抱きしめて呟いた。
「怒りは誰にもぶつけなくていいの。アタシ達はね、何があっても生きていくしかないの。
もうこの世界にいない人の分もどうせだったら楽しく生きる!前向きに生きる!そういう生き方しか残されたアタシ達にはないんだよ。
それ以外の生き方をしたら、ミレオの親もアタシの親も悲しむからね。」
ミレオはしばらく泣いていた。そしてミレオがようやく落ち着いた後に、エリシアが口を開いた。
「明後日に魔王軍が大々的な公開処刑を実施するらしいわ。そのためにザルベック城の警備が手薄になる。そのときに私がこの国を乗っ取った六魔星を討つわ。」
エリシアは捕獲した魔王軍を拷問して、数多くの情報を仕入れていた。
「公開処刑されるのはいったい誰なんです?」
ゼルマンが尋ねる。するとエリシアが名を連ねる。ミレオの親戚やゼルマンの部下、ヴェルノア学園の理事長、この国を代表する主要な人物ばかりだった。
エリシアはザルベック城を奪還するための計画を口にする。
まず公開処刑が行われる広場に王都中央広場を襲撃する。この襲撃はライナが中心になって行う。
ヴェルノア学園で救出した魔法学生たちも襲撃に参加させる。エリシアが集めた同士も多数いるらしかった。
それに黒翼将のザイモンを失ったバルザックの魔王軍は、かなり戦闘力を落としたということだった。
ザルベック城を奪還するなら今しかない。
「ザルベックに滞在する魔王軍のトップもだいたい分かったわ。おそらくヴァルグランという男よ。」
ノクトはその名を聞いて、まさかと思った。本当にこの国に六魔星がいるのか?しかもヴァルグランだと?もしそれが本当なら、ザルベック城の奪還は非常に困難であると考えた。
ヴァルグランはおそらくこの世界で最も最強な火属性の魔法使いだ。
ノクトは戦い方をヴァルグランに教わった。幼い頃から二人は師弟の関係だった。
そしてあの辛すぎた過酷な修行を思い出すたびに、ノクトは心の底からゾッとするのだった。
「ヴァルグランなら知っている。たぶん君たちだけじゃ勝てない。ヴァルグランは一人で一つの国を潰せてしまう男だ。
俺も戦いに参加させてくれ。その後はどうしてくれても構わない。」
「それは駄目よ。元魔王軍、それにトップクラスの男の言うことなんて信用ならないわ。
それにあなた魔法が使えないじゃない。今も顔中がアザだらけよ。そんなあなたが力になれるとは思えない。」
決行は明後日。ザルベックの歴史に残る大きな戦いが始まる。各々に緊張感が漂っていた。
そして決行の前日。ライナがノクトのいる部屋を訪ねた。
「もう体調は大丈夫?」
「だいぶマシになった。ありがとう。」
ノクトの顔にはまだアザが残っていた。腕にも大きなアザがあった。そして熱が出ているようで火照っていた。
「アタシはノクトのことを信じているよ。そりゃ魔王軍のことは大っ嫌いだけどね。でもノクトは良い人だと思うの。きっと魔王軍でも色々あったんだよね。」
ノクトは何も言うことができなかった。口を開けたとして、どの言葉を並べてみればいいのかが分からなかった。
「明日の戦いが終わったらさ、アタシがエリシアさんにお願いするよ。ノクトがいなかったらミレオもどうなっていたか分からないしさ。」
「ライナ‥‥‥」
「どうしたの?」
「一つだけお願いを聞いてくれないか?」
「何?」とライナはきょとんとした表情になる。
そしてノクトがお願いを口にした。
「そんなの上手いこといくの⁉︎だってこれはエリシアの魔法だよ⁉︎」
「大丈夫。これは俺以外の者には反応しないはずだ。魔法を維持するのにも魔力がかかるから、恐らく闇属性だけに反応するようになっている。
ライナ。俺を信じてくれ!」
ライナは散々悩んだが、ノクトの頼みごとを了解したのだった。
ザルベックの未来を決める戦いが明日に始まる。エリシアとノクト。かつて交わるはずのなかった二人が、光と闇の混合によって新たな奇跡を起こそうとしている。
世界はずっと変わらなかった。しかし初めて世界は動き出そうとしている。光と闇が生じさせるあり得ないコントラストの力によって。
今、物語の幕が開いた。




