10-2
ランスロットがただの口達者で上から目線なガキンチョに。
…いや、合ってるんだけど。笑
「なっ、なっ、なんで、ここにいるっ」
俺の動揺でひっくり返りかけた声を聞き、ランスロットはニヤリと笑いながら、そのまだ幼い足をゆったりとした歩みで俺が寝ている簡易ベットの側まで歩いてくる。
「そんなの決まってるだろ?俺もお前らに巻き込まれてこのよくわからん地に飛ばされたのだ。しかも、貴様が目覚めるまでこの俺様はここで2日も待ちぼうけ。一体どうしてくれるんだぁ?なぁ?」
ぐいっと体を乗り出し、ベットの上で逃げ場のない俺に顔を近づけながら、ランスロットが片眉を上げて皮肉げに俺を挑発する。
「…知るかよ。アレは、俺じゃなくてターニャがやらかしたことで、俺も急に竜巻に巻き込まれた被害者だよ。」
「だが、あの珍妙な気配な女もお前の旅のお仲間だろぉ?俺を関係ないとはなんとも薄情なんじゃねぇ〜か?おい?」
「いや、ターニャは勝手についてきただけだし…」
そんな俺たちの言い争いをミアが怪訝そうな目で眺め、おもむろに口を開く。
「…お前ら、仲間なんじゃないんかい?」
「ハッ、コイツは今から俺の下僕107号だっ!」
「いや、下僕じゃねぇーよっ!」
そんな俺らの否定という名の口論を、何故かミアが気持ち悪いものを見るような目で見ている。
「……壊れすぎてとうとう美少年にまで手をつけ始めたのか。しかも変態プレイ付き。」
「いや、誤解だっ!ミア!違うからっ!!」
流石に幼い頃を知っている親しい女の子にそんなとんでもない勘違いをされるのは俺もかなりキツイものがある。
もう1人の勘違いをされたランスロットもそういった知識はあるのか、非常に気に食わなそうに顔を歪め、俺を汚物でも見る目で蔑みながら、「俺様もお前なんて死んでもごめんだ」と吐き捨てた。
それに俺も睨み返しながら、ふとあることを思い出し、疑問に思う。
「…なぁ、お前は魔法で瞬間移動できるよな?何故帰らない?俺なんか助けなくてもひとりで帰れただろう?」
俺の言葉にランスロットが目を見開き、次いで真剣な表情を浮かべた。
「……今、俺は瞬間移動が出来ない。アレは人間の魔力保有量を大幅に凌駕する魔力を要する魔法だ。ヴァジュランダの補助なくては使うことができない。」
意外に冷静なランスロットの言葉。
それに少し驚きながらも、それでも腑に落ちず、言葉を続ける。
「でも、俺が目を覚めるまで待ってる必要はねぇだろ。ここのやつに頼んで馬車でもだして貰えば…」
お前は王国の王太子なんだからできるだろという言葉は口に出せなかった。
…ここにはミアがいる。
10年前に王国騎士のせいで死んだミアの姉のことは、ミアにとっても忘れられない過去だろう。
そんな一瞬顰められた俺の厳しい表情には気付かず、ランスロットは何を考えてるかわかりづらい真顔をこちらに向けている。
「…あの変な女のところに俺を連れてけ。」
「…はぁ?なんで?」
予想外のランスロットの要求。
それに思わず食い気味に声を荒げれば、ランスロットは機嫌悪そうに眉間に皺を刻む。
「あの女がなんか俺様の槍に細工したからだっ!これは俺の槍だっ!さっさとこれを元に戻させる。…力がこの世の全てだ。この槍は俺が屈服させ、手に入れた力だ。………そう簡単に奪われてたまるかっ!」
よくはわからないが、よほどその槍が大事なことということだけ読み取れた。
イライラと爪を噛み始めるランスロットの様子に、ミアは目を見開き、その噛んでる方の手をぐいっと無理やり取り上げた。
「爪噛まないっ!癖になる!」
ミアに手を無理やり口元から引き剥がされたランスロットが驚いたようにキョトンとした顔をし、その後すぐにぐいっと手を引いて、自分の手首を拘束するミアの手を振り払おうとする。
「離せっ!貴様、俺が誰だかわかっての所業であろうなっ!?」
「そんなん知らん!けど、躾のなってないどこぞの坊ちゃんをそのまま放置してるほど薄情ではない。自傷の癖はよくない。」
「おい、馬鹿力女っ!離しやがれっ!」
「噛まんいうなら離してやってもいい。」
全く引く気を見せないミアの様子に、ランスロット悔しそうに顔を歪めながら、小さく「噛まない。…これでいいだろ」と吐き捨てる。
それを聞き、ミアは大人しくランスロットの手を離し、ランスロットは理解できないものを見るようにミアをじーっと観察している。
なんとなくその一連の動作が年相応な反応に見えて、なんだか酷くホッとする。
-コイツもちゃんと人間なんだな…
どうしてもランスロットの子どもらしくない言動、高圧的な雰囲気、強者の気配はターニャを連想させ、不安になる。
「今後の予定立ててるとこ悪いけど、アベルはあと最低5日は安静だかんね?」
「おいっ!馬鹿力女っ!何度も俺の邪魔ばかりしやがって。何様のつもりだっ!」
「うっさいよガキンチョ。世界はアンタ中心に回ってないんよ?そんなこともわからないんかい?」
そんな2人のやり取りを、面白そうに眺めてしまうくらい、俺はその状況を楽しんでいた。
…そう、コイツが俺にとっても仇であることを忘れるくらいに。
書く予定になかった展開を書くことになるのも、ある意味物語の醍醐味と言える…気がする。




