10-3
10章はあと2、3話続く予定で、明日明後日で書き上がればアップする予定です。
久々、ランスロット視点書いたらなんか笑ってしまった。
すごいなお前。(いろんな意味で)
そしてこの子、興味のある人間にはひたすらいろんなあだ名をつけるタイプ。
結局、"血濡れ"はあれから3日経ってもベットから起き上がれないという、体たらく状態が続いている。
「チッ…」
沸々と募っていく苛立ちに合わせるように、自分の魔力が揺らぎ、身体中からパチパチと電気が小さく弾ける音が聞こえ始める。
ヴァジュランダの魔力が使えなくなったとはいえ、俺の魔力は常人の保有する魔力に比べて驚くほどに多い。
それはまだ成長しきらないこの身体にはあまりに適さない、膨大な量だ。
そうした身体のうちに抑え込みきれない魔力が、感情の揺らぎにより時折暴発する。
「まぁ〜た。頼むからもう雷は勘弁しろよ?家畜共が怯えちまう。」
「…チッ、だったらさっさとアイツを叩き起こせ。俺様をこんなちんけなテントの暮らしにいつまで留まらせるつもりだぁ?なぁ?」
ラクーマや馬、ヒゥーギといった家畜のために仮初めに作られた囲いの柵の上に、テントの群れに背を向けるように座り込む俺にそう声をかけたのはミアとかいう女。
"血濡れ"と昔馴染みらしく、奴の連れ人と勘違いした俺のことをあっさり受け入れた浮かれ頭。
その空っぽな頭は何も考えなしなのか、なんの警戒心もなく普通の"人間"に話しかけるように、俺にも気安く話しかけてきやがる。
そんな能天気女は俺様の返事が気に入らなかったらしく、お得意の怖くもない不細工面を晒している。
「ちんけって、アンタ。ウチらの村のことなんも知らないじゃないかい。」
「なんもって、お前が喧しいほど好き勝手喋ってんじゃねーかこの3日。記憶飛んでんのか?」
英雄平原を家畜共と移動しながら生活する遊牧民族。
仮初めのすぐ建てられ、すぐ畳める大きなテントをその日の居座る土地に建て、生活する。
ここ10年、20年で各地で孤児になった者たちが集まり、この流浪の生活に居着いて出来上がった移動集落で、一応人々にはルーマと呼ばれている。
-それ以外に何を知る必要がある?
ここは俺にとって脆弱な人間しかいない、どうでもいい場所だ。
「そういう意味じゃねーって!坊ちゃんが、このルーマの良さを肌で実感として感じてねぇーんだっていってるんだ。」
全く理解できない言語。
それなのに絶対に正しいと信じて疑わない愚かな思考。
正直、ぐちゃぐちゃに踏みつけてぶっ潰し、2度と立ち直れなくしてやりたいくらいには面倒くさいし、苛立つ。
「理知的に話せねぇのか?お前の話全く理解できないどこらか、イメージすら浮かばねぇが?」
そう感情のつくまま嫌味ったらしく挑発してやれば、俺の周辺で発生する電気の音も大きくなった。
そんな俺の様子をじっと見ながら、感覚女が一丁前に考えてるような顔して口を開く。
「…お前、ここのヒゥーギのミルク飲んだよな?」
「はぁ?今関係あるか、それ?」
「飲んだよなぁ!?」
「……」
「味。いつも飲むのより新鮮でうまかっただろ?」
「……知るか。胃に流し込めばすべて同じだろ?」
-少し我慢して聞いててやればたかが飲み物のことなんて、舐めてやがるのか?
機嫌の悪さを隠すことなく眉間に刻むが、相手も俺の伝わらなさが気に入らないらしい。
「…なるほどな。何も経験したことがない、ボンボンってとこか。」
「おいこの不細工女っ!何失礼なこと言ってやがるっ!」
「そっちこそ失礼だろ、クソガキがっ!」
普通では考えられない無礼千万な態度を示す変な女が、俺の手首を容赦なく掴み、柵の上から引き摺り下ろした。
女らしくもない細かい傷が刻まれた手が俺に触れた瞬間、バチっと弾ける音とともに、小さくも鋭い閃光が散る。
「いってーな。」
「いってーのはこっちだ馬鹿力。どこ連れてく気だっ!」
「うっさい!黙ってろっ!もう夜なんだよっ!!」
子供にしては力の強いはずの俺の抵抗も諸共せず、馬鹿力を発揮したお節介女はズンズン俺を引き摺りながら、どこかへと向かっていく。
そうコイツが言うようにもう夜なのだ。
空にはすっかり月が登っているし、言ってしまえばほとんどの人間が朝早いため、寝静まっている時間なのだ。
なのに、
「おい、この鈍感女。なんでお前俺に構う。」
「なに?ウザいって?」
「…ウザい。」
「ふんっ!」
「………可笑しいだろ?普通、俺様を恐れるもんじゃないのか?雷を好き勝手呼べるなんて…普通の人間はひれ伏すとこだぞ?」
現にこのつまらない移動集落の住人は俺が苛立って雷を一発落とした次の日から、俺を恐れれように避け、目が合えば顔を青ざめさせ、逃げていくようになった。
しかし、そんなの俺にはよく見慣れた愚かで、しょうもない反応だった。
あの赤髪野郎はテヤンって狼牙族と人魚族を連れ回してるくらいだし、変わり者は見慣れているだろうが…
この女は?なぜ逃げない?
それが俺には不思議でたまらなかった。
「はぁ?たかがガキンチョの?常識も、礼儀も、なんも知らない甘やかされた坊ちゃんに?」
「おいっ…いい加減その口聞けないようにしてやろうか?減らず口ばかり叩いてないで、さっさと訳を説明しやがれっ!」
「はぁい?その言葉、そっくりそのまま返してやるよ、減らず口野郎。」
「あ"あ"?」
そんな俺の怒りを目の前にしてる癖に、頭おかしいこの女は、ケラケラと笑っている。
「…なんで私がお前を恐れない、か。怖くない訳じゃないよ?だってお前、たぶんあの王国の王太子様だろ?」
そう言いながらミアが、漸く目的地にたどり着いたのか、ある栗毛の馬の前で立ち止まる。
けど、今はそれはどうでもよかった。
「何故わかったって思ったか?当たり前だろ。かの国の王太子様は神の雷を背負って生まれたとんでもない暴君。王都では有名な話だし、ウチの…姉ちゃんを殺した奴らのことは、よく噂入れるようにしてたし。」
「ほぉ〜?」
興味深い話だった。
「なんだ?じゃあ、あれだけ俺様に纏わり付いてたのは、今ここに連れ出すのを怪しまれないようにし、殺すつもりだったか?ネタばらしとは随分親切じゃないか。舐めてるのか?」
「なっっ!ちがうっ!!そんなつもりでここ連れてきたんじゃない!そりゃ王国騎士のアイツには恨みがあるけど、それをまんまお前に擦るほど、私はちっこい人間じゃないっ!ただ…」
「ただなんだ?」
肉親を殺された仇の仲間同然の俺を殺すどころかお節介ざんまい。
頭のネジ1本どころか、100本単位で抜けてガタガタなんじゃないかと思うほどに酔狂だ。
「……ウチはお前のこと、可哀想な奴だと思ったんだ。」
「………はぁ?俺様が?」
ほんと、何言ってんだコイツ。
人類最強と言っても過言ではない力を持っている俺を?可哀想だと?
「電撃で壊れた脳内回路繋げなおしてやろうか?」
「…真面目に言ってんの。だってアンタ、人間なのに人間としての感情がきちんと育たないまま今まで来ちゃってるじゃん。」
人間としての感情?
本気で何言ってるんだコイツ。
「…自覚はないよな。むしろ何言ってんだコイツって思ってる。」
「わかってるなら言うな、構うな、近づくな。いい加減お前の宇宙理論は聞いてて頭が痛くなる。」
突拍子もない面白い結果をもたらす玩具は嫌いじゃないが、こんな狂ったやつは論外だ。
「わからなくていいよ。ウチも姉ちゃん…ネムに拾われて、人間として育ててもらうまでわからんかったし。」
「………」
本当に意味がわからない。
「…俺とお前は同じじゃない。同列に扱うんじゃねぇ。」
「でも、同じ人間でしょ?」
「俺は人間じゃねぇっ!!」
-そう、俺はたぶん人間ではない。
俺の鋭い否定の声とともに、派手な音を立てて落雷が3つ、近くの草原の地を削った。
それに怯え、ミアのすぐ側にいた馬が大きく嘶き、暴れ、俺たちの元から必死に逃げていく。
「俺は生まれたその日にヴァジュランダを呼び出し俺を生んだ女と、ほかの妃と呼ばれる女、その従者と侍女どもを皆殺しにした化け物だぞ?」
自然と口角は吊り上がった。
それもそうだろう。
俺は生まれたばかりのあの出来事を、全て覚えているのだから。
『お前なんて私の子ではないわっ!!』
そう言って俺の首を絞める女の顔を。
「………だから、その話も知ってるって。どんだけウチがアンタらの噂集めたと思ってんの?」
しかしこの馬鹿女は本当にどうでもいいと言うふうに、俺の言葉を鼻で笑い飛ばす。
「アンタの過去に興味はないよ、ガキンチョ。私は私の自己満足でアンタに、人間の感情を少し分けてやろうと思った。それだけだ。」
ミアはそう言うとピューッと鋭く指笛を鳴らした。
そして、それに答えたようにやってきた真っ黒な馬にヒョイッと飛び乗ると軽く駆け足をさせて宥め、再びこちらを向く。
「とりあえず、馬っていう別の生き物に触れてみるってのはどうよ?アベルの傷が治っても、徒歩でこの馬鹿でかい平原を移動するなんて、時間かかりすぎるだろ?」
そう言って月を背にし、ニッと笑う生意気女の顔は、意外と嫌いではなかった。
前話でミアとなんかフラグが立ったから試しに話させてみた、書くはずのなかったランスロットの過去回です。
この子もなかなかに闇が酷い…
テヤンが他者のいないところで生きてきたことで感情が育たなかったのに対し、ランスロットは他者がいたのに歪んだ関わりしかなかったから心の一部が欠落してるタイプ。




