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最終話 二人は時にでこぼこコンビを結成する。

評価感想、お待ちしております。

最後なんで、よかったらあとがきも見てください。

 (……今度は誰だ?)

 半ば呆れたようにそう思うと同時に、俺のいる部屋の壁に、でかでかとしたスクリーンが現れた。一メートル四方くらいの大きさである。

 ぶん、と光のふちが現れ、中央には女の姿が浮かび上がった。黒い髪の毛を上のほうで一つに結わえている。

「ふぇ……? あ、……マクロフィルさん!」

 妖精が画面に向かって話しかけている。知り合いのようだ。

 肩から上だけしか映っていないので良く分からないが、この女は作業用つなぎのような緑色の服を着ていた。とても綺麗な顔立ちをしている。

『おー、元気に仕事してたー?』

「あ、いえ……それが――」

『うんうん、聞いてる聞いてる。なんか大変なことになってるらしいじゃないかー。こっちでも大騒ぎだ』

「はい……ごめんなさい、私のせいで……」

『あっはっはー、謝んなくてもいいって。悪いのはあのクソ管理室だけさ。あいつらがきちんと監視してないからこんなことになったんだからな』

「……はい、ありがとうございます……くすん」

『あー? もしかして、泣いてんのかなー?』

「な、泣いてなんかいませんよっ! ちょっと目から水が出てきただけで……!!」

『それを泣いてるっていうんだけど』

 見た目とは裏腹に、なかなか男前な話し方をする。

 妖精との話がひと段落すると、その女はこっちのほうを向いて話し始めた。

『えーと、そこの君か? 例の問題児君ってのは』

「そう呼ばれていたのは高校のときで、今は全く優等生であるけども、まあ話の流れ的には俺だろうな」

 この部屋には、妖精以外俺しかいない。

『あっはっはー、君は面白い奴だな』

「えらく男前な貴女には負けます」

『おいおーい、こんな美人に向かって男前はないだろ男前は! あっはっはー』

 失礼かと少しは思ったりもしたが、豪快に笑い飛ばされてしまった。たしなめる言い方にも全く悪意は感じられない。

『まあいいや。今回は災難だったなー、問題児君』

「優等生です」

『ま、キングコングにならなくてよかったじゃないか! なによりなにより』

 この女も人の話を聞かないタイプなのだろうか。画面越しに殴り倒したい。

『で、本題に入ろうと思うけど――その前に。私はそこの金髪妖精の上司のマクロフィルというものだ。よろしく』

「はあ……よろしく」

 簡潔な自己紹介に、気のない返事をする。

 あ。さっき妖精が文句垂れてた上司ってのはこの人のことか。

『では本題だ。君、自分の体の異常に自覚はあるか?』

「……ああ。嫌というほど」

『具体的には?』

 具体的にどうおかしいのか。

 改めて聞かれると、いまいち良く分からない。

「……ええと……さっき、妖精の刀が刺さらなかった」

『それは知っている。さっき見てたから』

「見てた!? 見てたのなら止めてくれよ!!」

 どこで見ていたのかは知らないが、妖精の勘違いを解くことくらいなら出来たはずだ。

『いやーあっはっは』

「笑って誤魔化すな!!」

『まあまあ落ち着いて。本筋はそこじゃあない。……そうだな……』

 なにやら思案顔のマクロフィル。考える姿は必要以上に凛々しく見える。

『そこにいる妖精が持っている、日本刀っぽい剣を手にとってみてくれ』

「…………?」

 相手方の意思がわからないが、とりあえず言われたとおりに、やっと泣き止んだ妖精から刀を受け取る。

『はい、じゃあ折ってみて』

 とんでもないことをのたまった。

「…………いやいや、枝じゃないんだから。無理に決まってるだろ」

『いいからいいから。騙されたと思って』

 訝しみながら、刀を曲げようと力を込めると、


 ふにゃ。


 ――高温で溶けかけたチョコレートのように折れ曲がった。

「だ、騙された!!」

『ええ!? 騙してなかっただろ!?』

 つい、気が動転して思わぬことを口走った。

「――なんだ、これは。さっきまでは固そうだったのに」

 俺がちょっと力を入れただけで、簡単に曲がってしまった。

『違う違う。剣が柔らかくなったんじゃなくて、君が折れ曲げたんだ。種も仕掛けもない、単純な力で』

「そんなはずは――」

『ない、と言い切れるか?』

「――――」

 マクロフィルの真剣な表情に閉口する。

 俺は、妖精が「暴走」の説明をしていたときの言葉を思い出した。

 “皮膚はダイヤ以上の強度を持ち、コップは掴んだ瞬間に粉砕する――”

『まあ、そういうことだ。今、君の体内では、「暴走」を引き止めたことによって、力が行き場を失っている。覚醒によって爆発的に増大した力は、本来なら身体の外にすべて出てしまうのだが――』

「俺が何故か押さえ込んでしまった、と」

『そう。「暴走」の抑制に失敗した例は過去にいくつかあったが、このような例は初めてだ。君のように、人間の原形をとどめたまま「暴走」を押さえ込み、まして意識もはっきりしているなんて例はな』

 (逆を言えば、普通は「暴走」すると人間の原形をとどめていないということか……)

 恐ろしい話だ。俺がそうなっていたかと思うとぞっとしない。

『で、だ。こちらが最終的に言いたい事は……』

「そんな類を見ない危険な存在を野放しにはできない――とか、そういうことだろ」

 話を遮り、マクロフィルに代わって続ける。

 一瞬目を丸くした彼女だが、すぐさま豪快に笑い出した。

『あっはっはー、その通り、その通りだ。飲み込み早いなー、君』

 そんなこと言われても、まったく嬉しくない。

「それでこの妖精に俺を始末させようとしたわけか」

『いやいや、それは違うぜ優等生君。それは任務に失敗した妖精として当たり前の行為で、決して君だからというわけではない。というか、そんな大事な任務をその子に任せられないし』

「おい妖精。お前この人に無能って言われてるぞ」

 話を逸らし、くるりと顔を妖精のほうに向けて報告。

 妖精がまた泣きそうになっていたので、満足して話に戻る。

「それで、どうする気だ? 今からでもそっちからやってきて俺を殺す気か? そっちがそういうつもりなら――」

『まあ待て、早まるな。上の決定としてはそうなっちゃいるが……』

 マクロフィルがちらりと妖精を見る。目を合わされた妖精は不思議顔だ。

『……私はそれに賛成したわけではないからな』

「いいのか? そんなことを勝手に決めて。俺ならおそらく大丈夫だ。今なら――どんな奴でも返り討ちにできる気がする」

 自分の掌を見る。触れると、心なしか熱を持っていた。

『…………そこなんだよなー。私が上の命令に従おうとしないのは、第一に私の性格なのだが、第二に――君を倒せそうにないという事情がある。なにせあの女神様の加護を跳ね返したんだぞ? ここにはそれ以上の力を持つやつなんていないから、女神様本人でもない限り君を倒せないだろうな』

 なんだか大変なことになっている。俺は女神様に匹敵する力を持ってしまったらしい。

『もし最終的にそうなったとしても、女神様はあの性格だから、むしろ君に謝って終わらせてしまうだろう』

 (あー……確かにあの人はそんな感じの性格かもな……)

 声が聞こえたときの場面を思い出し、そう思う。あの控えめの物腰と丁寧な話し方は、女神サンの性格をそのまま表しているような気がした。

『そこで私は、ある結論を出した!』

 マクロフィルは話の脈略などお構いなしに、画面に向けて人差し指を突き出し、高らかに宣言した。

『これからは君を監視することにする!!』

「は、はあ……」

 危険対象には監視をつける。ばばーんと書き文字が背景に出てきそうなくらい堂々と宣言した割には、ある程度想像できた結論だったので拍子抜けした。

『どうした気のない返事をして! 君はこれから日常生活を見られ続けるのだぞ!? もっと驚け!!』

「いや、驚けと言われても……。結構予想できた結果だし、それに日常生活を見られたところで、こちらになんら支障はない」

『ずっとだぞ!? 二十四時間ずっと!!』

「……? まあ別にいいけど」

『なんと! 君は気にならないのか!? その……なんだ、……あの時とかっ! 見られたら嫌だろ!』

 ほんの少し頬を淡いピンクに染めながら、マクロフィルは「あの時」やら「その時」とあいまいな言葉を繰り返す。

「なんのことだ?」

『……っ! もういい!!』

 ついにはプイとそっぽを向かれてしまった。

 俺、なにか怒らすようなことしたか?

『とにかく! さっき言ったように、君には監視をつけるから! いいね!』

「あ、ああ……」

 何か勢いで決定した感が否めないが、こちらからは何も言えないので仕方ない。

 (……ん? ちょっと待てよ?)

 今、マクロフィルは何て言った?

 監視するではなく――監視を「つける」?

 それはもしや――

『それでは通信を切るが……』

 マクロフィルはなんでもないことのように、続けて言った。


『監視役として同居するとはいえ、男女の間違いは犯さないようにな、二人とも』


 プツン――――

 モニタとともに、俺の大脳も停止したかと思った。

「「なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」

 二つの叫び声がこだました。

「ど、どういうことだ妖精ぃ!! んなこと聞いてねえぞ!?」

「わ、私だって知らないよ!! ど、どどどどど同棲なんて!!」

 妖精が顔を赤くして答える。

「同棲じゃねえよ!! 同居だろ!! 何勝手にやらしい響きにしてるんだ!!」

 くそ、と舌打ちしながら思う。

 監視っていうのはてっきりモニタで観察するようなものかと思っていたが、こういうことなのか。

 二十四時間ずっと妖精と一緒にいろってか? 寝食ともにしろってか?

 冗談じゃない。

「おい妖精! 俺をマクロフィルがいるところに連れて行け! 今すぐに!」

 俺の提案に妖精は目を丸くする。そして、すぐに却下した。

「だ、ダメだよ! 人間を精霊界に連れて行けるわけ――っていうか、そもそもこっちからはゲートが開かないし!!」

 妖精によると、あっちからこっちへのゲートは簡単に開くが、その逆をしようとすると膨大な力が要るらしい。だから戻るためには、あっちからゲートを開いてもらうしかないそうだ。

「ちっ――じゃあ連絡だけでもいい! もう一回あのクソ上司に繋げ!!」

「え……で、でも……」

「早く繋げ。でないとあの人にお前が愚痴ってたこと全部ばらすぞ」

「それだけは勘弁してください」

 妖精が全力で頭を下げた後、なにやら呪文めいたことを小声で唱え、先ほどマクロフィルが映っていた壁に向かって両手を掲げた。

 ちりちりと音を立てながら、光の筋が壁を伝っていく。

 やがて正方形を形作ると、中央に再び女の姿が浮かび上がった。

 さっきとは違って横を向いているが、コーヒー片手に、新聞を広げてくつろいでいる風に見える。

 ……忙しいんじゃなかったのか。

『……あれ? どうした、さっき通信を終えたばかりじゃないか』

 ズズ、とコーヒーを啜りながら、こちらを向いて答える。

 妖精が反応する前に、俺が先に言った。

「どうしたじゃねえよ! お前がさっき去り際に変なことを言うから――」

『変なこととは何だ? 私は男女の間違いを犯すなと言ったのだが……ま、まさか君らもうすでに男女の契りを――』

「そっちじゃねえよ!! 同居するって話だ! 聞いてないぞ!!」

 頬を染めるマクロフィルの言葉を遮って詰め寄る。

「わ、私も納得いきません! 監視の仕事に就くのも聞いてないし……まして、人間と一緒に住むなんて!!」

 これまで話に入ってこなかった妖精だが、こればっかりは許容できなかったのだろう。俺とともにモニタに詰め寄る。

『――何を言っているんだ君達。監視の仕事は担当の妖精としてあたりまえのことだし、同居するのは妖精の住む場所がないから仕方ないことだろう。それとも、勝手の分からない下界で、寂しく野宿でもしたいのか?』

 う、と妖精が返答に詰まる。マクロフィルの言っていることが至極正論なので、何も言い返せないのだろう。

 だが、俺は違う。

「それはコイツに対しての答えだな。俺が納得する理由を言え」

『…………』

 今度はマクロフィルが黙る番だった。ばつの悪そうな表情で、頬を掻いている。

「これだけは我慢できないぞ――」

 この出来事で、いろんなものに耐えてきた。

 妖精出現の驚愕の後は延々とくだらない愚痴を聞かされ、とんでもない激痛に打ち勝ったかと思うと、金髪ツインテールに日本刀で襲われて。

 仏の顔も三度までと言うが、俺は何十回仏の顔で華麗にスルーしてきたのだろうか。

 しかしそれもここまで。

 同居? ふざけんな。


「生活費、いくらかかると思ってんだああああああああああああ!!!!」


 しん、と周りが静まり返った。

 俺はかまわず続けた。

「朝食昼食夕食にその他の間食! 着替えや周りの小物類! 衣食住の住は多めに見るとして、その他はどうしろって言うんだ!! 貧乏学生舐めんなよ!! 仕送りだけで生きていくことがどんなに大変か!! は? バイトしろ? この前クビになったんだよぼけええええ!! ガラス一枚くらい多めに見ろよ!! ちょっとムカつく客殴っただけだろ!! ちょっと頭突き食らわせただけだろおおおおおおおおお!!」

『いや、それは君が悪いだろ……』

 若干引き気味のマクロフィルが冷静にツッコミを入れる。

 話が逸れた。

「とにかく! ここに他人を住ませる余裕はない!!」

『思わぬ観点からの否定に驚いたが――君、それなら心配ないぞ』

「あん?」

 秘策アリといった感じの表情を浮かべ、余裕を見せるマクロフィル。

『ちょっとこっちに』

 こいこい、とマクロフィルが手招きをする。

 俺は訝しむも、画面のほうに耳を寄せ、

『――――』

 ぼそ、と俺にしか聞こえないほどの小声で、一撃必殺の一言を告げられた。

「ほう……」

 提示された言葉に思わず唸る。

『あっはっはー、これでどうだ?』

 にやけた表情を隠そうとせずに、マクロフィルは堂々と聞いた。

 俺は妖精のほうを向き、さわやかな笑顔で言った。

「やあやあかわいい妖精さん。これからどうぞよろしくね!」

「ちょっと待てこらあああああああああああ!!」

 輝かしい笑顔を向けてやったというのに、いきなり妖精は乙女らしからぬ大きな声で叫んだ。

「何々なにがどうしたの!? なんであなたは急に乗り気になったの!? というかさっきの秘密話は何!? 超気になるんですけど!?」

「ははっ。子供は気にしなくてもいいことさ☆」

「いやむしろあなたの凶変ぶりのほうが気になるけど!?」

「うるせえなあ。もういいだろ、一緒に住むってことで。お前は野宿せずに監視の仕事ができるようになるし、俺はマクロフィルからごひゃ――げふんげふん」

「ごひゃ!? ごひゃって何? まさか五百万のことじゃないよね!? 違うよね!?」

『じゃあ私はこれで。ちゃんと定期的に連絡するんだぞー』

「何で否定しないの!? 待ってよマクロフィルさん!」

 妖精の涙ながらの静止もむなしくマクロフィルは通信を終えた。

 プツンと音が途絶え、光の線が一瞬で消える。

「マ、マクロフィルさん……」

 ここには、四つん這いになり、空虚に腕を伸ばす妖精だけが残った。

 俺は悲しみにくれる妖精の肩に優しく手を置き、

「さ、家事の役割分担決めようぜ☆」

「順応するの早すぎでしょあなたはあああああああああああ!!」

「俺は料理好きだから、お前は料理以外全部な。掃除と洗濯よろしく」

「話を聞けええええええええええええええええ!!」

「マクロフィルは太っ腹だな。何買おっかなー」

「もう誰か助けてええぇええぇぇえぇぇぇえぇえええぇぇえ!!!!」


 俺の時とは違い、妖精を助けに来るものは誰もいなかった。


 これから、俺と妖精の二人だけの生活が始まった。


とうとう終わってしまったーっ。

若干急ぎ足感が否めないですけど、こういう軽いノリの作品なんだと思って割り切ってくださいな。


えと、どうでした? 現時点で誰一人として感想くれないんで、なんか逆に恥ずかしくて死にそうデス。

これが噂の放置プレイですかそうですか!

だれか一言プリーズ!



この下から私事。

明日(30日)、大学近くに引っ越します。

そこで大事なことに気付く。

ネ ッ ト に つ な げ な い !!

これはもうね、ネット中毒者と化している僕にとって超の上に超が五個つくくらい超痛いことですよ。

しかも一ヶ月て。光はどんだけ工事が遅いのかと。

…………。

そういうわけで、一年位前の「――楼火くん」って作品を再開しようと思ったわけですが、叶わぬ夢となってしまいました……。

開始は(多分)五月上旬です。それまでしばしのお別れ。


それではまた会う日までーっ!

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某 - soregashi -

やっと復活! サイト作りました。気が向いたら立ち寄ってください


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