ボーカロイド 大魔神 召喚
「我の前に跪け!愚かなる人間どもよ!!」
機械で作られた幼い声が部屋に響く。もともとは歌わせるためのものだからか、喋り方はぎこちなくて違和感を感じる。パソコンの画面には、その声の主のイメージとなる小さな少女が、腰に手を当ててふんぞり返ってる。ちょっと可愛い。
どうしてこうなったんだろう。
今のブームに乗り遅れるど思って、思い切ってデカイ買い物をしてみた。説明書もロクに読まず、これで自分もネットミュージシャンだ、一躍有名になってやると意気込んで起動させたらこのざまだ。慌てて説明書を引っ張り出してもこんな事は書いてない。
「頭が高いぞ、人間!我は大魔神、ネユージャ!この世に終わりをもたらす者だ!!」
あれか、キモオタでコミュ障で引きこもりでニートの癖してこんなものに手を出した罰ですか。こんなことやってる暇あるなら仕事しろと。家出ろと。わかりましたから、どうから静まってください。
「どうした人間!我を呼び出したからには何か望みがあるのだろう?」
なんだ、いい奴じゃんか大魔神。望みを叶えてくれるのか。じゃあ、働かなくてもいいくらいのお金ください。可愛い彼女ください。
「しかし、その代償にお前の魂をいただくがな!!」
前言撤回。悪い奴ジャン大魔神。てか、それは悪魔じゃないのか。それじゃあどうぞお帰りください。魂を犠牲にしてまで叶えたいものはありません。
「まあいい、お前の望みは言わずともわかる」
狭い画面の中を、左右に腕を組みながら行ったり来たりしている。長いローブを引きずっている。その格好も、なんか大魔神というよりも魔王っぽい。画面の真ん中に来たときにビシッと外を指さしてさっきまでよりもかなり大きい声で叫んだ。
「オマエののぞみ通り、この世界を終わらせてやる!!」
慌ててパソコンのスピーカー部分を押さえたが、時すでに遅し。この声を聞きつけて母親がノックも無しに部屋に入ってきた。急いで上着を画面にかけて隠す。そんな慌てた様子の自分を見て、母親が怒鳴った。
「うるさいわよアンタ!また変なものを買って、何やってんのよ!!そんなことばっかやってるからアンタはいつまでも」
「うるせぇババア!勝手に部屋入ってくんな、出てけよ!!あと腹減ったから飯早くて作れよ!!」
そんな口論を繰り広げると、大体母親はヒステリックになって最後には部屋を出ていく。あまり酷いことを言うとご飯を作ってくれなくなるから引き際が大事だ。やっと出ていったかと思ったら、今度は上着に覆い被されたパソコンから声が聞こえる。ああそっか、コイツがいたんだっけ。
「我の視界を遮るとは何様だ!まったく、オマエは礼儀というものがなっとらん!!」
咎めるような声が頭を痛くする。ほんと、これはどうしたらいいのか。画面の中のあいつは腕を組みながら偉そうに説教を続けている。
「にしても、オマエはさっき女と言い争いをしていたな?そいつがオマエの憎い相手か」
「えっ!」
ギョッとして画面を振り返る。してやったりと言う顔がイラッとする。
「手始めにそいつから殺してやろうか、それ!」
そう言うと、何やら難しい顔をして良く分からない呪文を唱え始めた。なんか、画面が怪しく光り始める。なんか、本格的にやばそうな気がして画面を叩くが、まったく効かない。土下座して祈っても静まらない。
「我の名において命じる!」
そう叫んだと同時に、目も開けられない光が当たりを包んだ。なんか、すごい力に満ちている気がする。その光も徐々に弱まり、またいつもの部屋に戻った。興奮で高まる胸に手を当てて落ち着かせる。もしかしたら本当に魔神で、本当に世界を滅ぼすほどの力があるんじゃないのか。そんなことをほんのちょっと、砂一粒分ぐらいに思った矢先に、下の階から母親の怒鳴り声が聞こえた。さっきよりも怒っている。ご飯は抜きだそうだ。
「ま、まあ、召喚されたばかりだからな!本調子じゃないのだ!!」
何を偉そうに、とは声には出ない。今は、こいつをどうやって処分するかが問題だ。画面の中のあいつはさっき失敗したというのに、まだ偉そうにふんぞり返ってる。
「ああそっか、中二病か」
はたして電子物質が、中二病になるかはわからなかったが、何故かその結論が何よりもしっくりきた。
完。
続かない。




