夏祭り 4
鳥居の下で手を振る彼女は、薄い桜色の浴衣に髪を結いあげていて、昼間のボーイッシュな彼女と同一人物とは一瞬思えないほど可愛くなっていた。
光をからかおうと隣を見ると、彼は何故かちょっと怒ったような顔をして俯いていた。
「どうしたの?」
「別に」
「行こう」
「あぁ」
僕らが駆け寄ると、希の他にもハヤテ、青葉とその妹の小町。そして知らない小さな女の子が一人いた。たぶん、これでこの村の子ども全員って事になる。
「たこ焼き屋さん、お疲れ様~」
希の明るい声に僕は微笑むと、希に手をつながれていた女の子が僕に飛びついて来た。
「あず。にに……」
言葉がよくわからない。僕が戸惑っていると、希は苦笑し眉尻を下げた。
「梓って言うの。まだ小さいから上手く話せなくて言葉が分かり辛いんだけど、翼君を気に入ったみたい。一緒にお祭り廻ってあげてくれる?」
そうなんだ。
僕はぽちゃぽちゃのほっぺを僕にすりよせるその子を見降ろした。
僕に妹がもしできたら、こんな感じなんだろうか。
急に母さんの事が思い出されて嫌な気分になった。
僕の兄弟。
でも、あいつの子ども……。
「だめ!」
どこからか鋭い声がした。
振り返るけど光ではなかったようだ。
「?」
僕はもう一度皆の方を見た。
「ハヤテ?」
青葉が自分の後ろを振り返って言っていた。目を向けると、華奢な男の子が怖い顔をして僕の方……正確には僕の左後ろの方をじっと見てこう言った。
「白い帽子の女の子」
と。
僕は耳を疑った。次いで、光の方を慌てて見た。
「彼に話したの?」
光は首を振り、否定の言葉の代わりにこう告げた。
「ハヤテは『見える』んだ」
その響はもちろん、僕にだって目がいいとかそういう意味じないことくらいわかった。僕は思わずもう一度青葉の後ろに隠れている少年の方を見た。
彼の眼は、もう僕の後方を見ておらず、まるで叱られた後の様な顔で自分の足元を見つめていた。
「なんの事?」
首を捻る希に
「翼、ここに来る前に幽霊屋敷の前で幽霊に会ったんだって」
そう彼らしい説明をした。
僕は否定する気になぜかなれず、ハヤテがさっきのは見間違いだと訂正してくれないか、祈るような気持ちで見つめたが、それは叶えられることはなかった。
結局、僕たちはこのまま怖がっていても仕方ないって言う事で、初めの予定通り勝負に出かけた。
金魚すくい
射的
ヨーヨー釣り
的当て
わ投げ
色々やったけど勝負がつかず、最後のくじ引きをする頃には、僕も光もどうして勝負をしているのかわからなくなって来ていた。
二人ともはずれをひいて、その景品のラムネを開けながら皆と境内の裏の方に向かう。
「ちょっと蚊が多いけど、花火はそこが一番よく見えるんだ」
体の一番大きな青葉は、妹の小町を肩車しながら僕を振り返った。
少し勾配のある神社の裏手にはけもの道の様なものが続いていた。ハヤテの家の反対側の山肌に当たる場所にあるその道は、この山の頂上に据えられたここのご神体とも言われる岩に続いていると言う事だった。
秋のお祭りには村の人間何人かで、そこへお供えモノをしに行くらしいが、それ以外は子ども以外訪れる事のない場所だそうだ。
「そうなんだ」
僕は相槌を打ちながら他方の手の先にいる梓を見た。肩車されている小町を羨ましそうに見ている。やっぱり……してあげた方がいいのかな。
僕は戸惑った。




