夏祭り 3
暑い……。
夜店のたこ焼き屋が、こんなに暑いものなんて知らなかった。
僕はまだ慣れない手つきでたこ焼きを発泡スチロールのさらに盛りながら、小さくため息をついた。
隣では光が慣れた手つきでクルクルとたこ焼きを回転させている。
「翼君、ソースは多めにお願いね」
「あ、はい!」
お客さんにそう言われて、僕は熱気にぼうっとなりかけていた意識を戻した。
この人も僕の事を知っている。
「毎度あり~!」
僕が知らない人に名前を呼ばれる居心地の悪さにまごつきながらソースをつけて鰹節と青ノリを振ったたこ焼きを渡すと、それをかき消すような光の元気な声が飛んだ。
一時間以上も続くこの作業。まだ楽しむ余裕はなかったけど、いつもと違う夏祭りの風景に僕は悪い気はしていなかった。
首にかけたタオルで汗を拭うと、光が氷水で冷やしていたお茶を僕に差し出してくれた。
「ん」と不機嫌なふりをして受け取る。
触れた途端に掌に金属の冷たさが伝わってきて、僕はホッとした。
「翼は初めてなのか?店、手伝うの」
「当たり前だろ。子どもが働いてもいいのかよ?」
ちょっぴり楽しいと思いかけているのを悟られるのが悔しくてそう答えると、光は不思議そうに首をひねった。
「良いも悪いも、子どもだろうが、働けるなら働くのは当たり前だろ?」
まるで僕の方が非常識だとでも言うようにそう言うと、光も僕と同じようにお茶を流し込んだ。
ようやくお客さんが途絶えた安堵感に、改めて目の前を行き交う人々を眺めてみる。
僕が想像していた以上に大きなこのお祭りは、花火も上げられるのが評判で、ここ近辺の町や村からもお客さんがたくさん来るんだそうだ。
「もうすぐじいちゃんが来るから、そうしたら小遣いもらってさっそく勝負に行こうぜ!」
「あ、ああ」
僕は半ば忘れかけていた勝負の約束に頷く。
周囲の日は落ち、提灯に明かりが灯り始めていた。
浴衣姿の人々が影法師の様になり、淡い光に照らされた瞬間にだけ鮮やかな色彩を垣間見せる。
こんなにたくさんの人がいるのに、皆そろって楽しそうなのが不思議に見えた。
僕の記憶にない
僕を知っている人達
僕の知らない
僕を記憶する風景
ここは
現実なのか
僕は足もとがぐらついた気がして、ふと眼を細めた。
蠢く人々の影を縫って、賑やかな祭り太鼓の音が聞こえてくる。
腹の底を震わせ、胸を打つその響に僕は……。
その時だった。
「!!」
人混みの向こうに見えた気がした。
影と色彩の波の向こうに、真っ白な……あの子の横顔が!
「待って!」
僕は思わず飛び出そうとした。
「翼!?」
光が慌てて僕の腕を捕まえる。
見ると、僕は目の前の鉄板に突っ込みかけていたのだ。
その熱にヒヤリとして振り返ると、光が怪訝そうな顔で見つめていた。
「どうしたんだ?」
「あ……あの子が、帽子の子がいた気がして」
僕はもう一度振り返ってみたが、もうそこにはあの白い横顔は見えなかった。
「大丈夫か? 本当に、とり憑かれてるんじゃ……」
「違うよ!」
僕はムキになって手を振り払うと、もう一度あの子のいた場所を見つめた。
やっぱり幻なんかじゃなかったんだ。
お祭りに来てるんなら、また会えるかもしれない。
僕は胸の高鳴りを感じながら、じっと闇の向こうに目を凝らした。




