夏休みの手前
期末テストも、中間テストのときと同じように、ふたりで一緒に勉強した。
返ってきた答案を見て、ふたりは小さく笑った。
それは、がんばった日々が、ほんの少し報われたような笑顔だった。
そうして迎えた、終業式を終えた日の午後だった。
教室には、少し浮ついた空気が流れていた。
通知表を机に置いて、バツが悪そうに見つめている男子。
その隣で笑いながら、「まあ、そんなもんだよ」と言う声。
窓から入り込む風は、夏の匂いを運んでいた。
その中で生徒たちは、ノートやプリントを鞄に押し込んでいた。
図書室には、普段よりも生徒が多く訪れていた。
普段は「5冊まで」と書かれている貸出案内が、今は「10冊まで」と手書きで書かれた紙が貼り付けられていた。
図書室のカウンターでは、司書教諭でもある秋が貸出業務をこなしていた。
カウンターの前には夏休みを前にした生徒たちの列ができ、中には両腕で本を抱える姿も見られた。
咲もまた、詩集、エッセイ、小説などを手にして並んでいた。
すぐ後ろには、文庫本を数冊持った悠の姿があった。
「藤音さんも結構借りるんだね」
悠が小声で言うと、咲は肩越しに少しだけ笑う。
「うん。全部読むかは分からないけど……とりあえず借りちゃおっかなって」
そのとき、咲の順番が回ってきた。
カウンターにいた秋に咲が本を差し出すと、秋はそれを受け取りながら言った。
「夏休みは読む時間がたくさんありますからね。ごゆっくり」
「はい。ありがとうございます」
それから後ろにいた悠の順番になり、本を差し出すと、秋はその背表紙を眺めながら言った。
「日向さん、良いチョイスですね」
「はい。なんとなく、気になっていたシリーズを選びました」
悠がそう答えると、秋は貸し出し処理をして、悠へと渡した。
貸し出しを終えたふたりは図書室を出て、夏休み前の弾んだ雰囲気の校内を並んで歩いた。
楽しそうに歩いている生徒たちとすれ違うたびに、
「海、どこ行く?」
「カラオケ行きたいな」
「免許取りに行くの楽しみだね」
と、夏休みの予定と思わしき会話が、楽しそうな声色で聞こえてきていた。
昇降口を抜けて外へ出ると、まだ日差しは高く、空は透き通るような青さだった。
はるか遠くに入道雲がそびえ立ち、夏の本格的な始まりを伝えていた。
帰り道を並んで歩くふたりに、夏の風が吹きつける。
熱気が、咲の体をわずかに汗ばませた。
「日向くんは夏休み、何か予定あるの?」
「ちょっとバイトする予定。それ以外はあんまり出かけないかも。藤音さんは?」
「ううん、私は特に……。いろいろ読んでみようかなって思ってた」
悠は「そっか」とだけ答えると、帰り道を歩き始めた。
咲もその横に並んだ。
なんてことのない会話と、帰り道。それが、いつの間にかいつも通りになっていた。
夏休みはすぐそこだった。




