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「私が女装して、皇太子殿下と街に降りるのですか?」
「そう。あ、ギギリもね。付き添いで」
皇太子殿下と皇位簒奪の計画を進めているのだが、こういう遊びもたまにいれてくる。
「おいらは別に行かなくても」
「え?ギギリはいかないのですか?」
お姫様は驚いた顔をしている。
だけど、おいらは二人が仲良く、男女として歩いている姿を見たくない。
街に一緒にいくとなれば恋人のふりくらいはするだろう。
おいらはそれを見たくない。
「ギギリ。君がこないとだめだろう。私の周りを間者で固める気か?」
「わかりました」
他の人には聞こえないように皇太子に囁かれ、おいらはしかたなく同意した。
そしてその日、ソルは事情を知っている侍女に支度を手伝ってもらい、完璧に女性として部屋に現れた。
可愛い。白のドレスが清楚でとてもお姫様に似合っている。
「可愛いね。ソル」
皇太子がいつもの軽口を叩く。
なんかイライラすっぞ。
「ギギリ。私の格好おかしくないですか?」
「おかしくないです。可愛いです」
「か、可愛い」
さっき皇太子に言われていたのに、おいらの言葉にお姫様が照れてる。
普段は男装しているから、可愛いという表現は避けるようにしているけど、おいらはいつもお姫様のことを可愛いいって思っているんだけど。
そんなことお姫様が知るわけはない。
おいらは使用人に見えるような服を着て、二人と一緒に街に降りた。
「ギギリ、あれ、三本買ってきて」
皇太子に言われて串焼きを買う。
「これ、二人にも」
「おいらたちにもですか?」
「うん。食べて」
皇太子がおいらにも串焼きを分けてくれた。
遠慮なくガブリと食べた後、皇太子がいそいそを食べる。
「味見だったんだ」
「そうですよ。ギギリ。それでも美味しい」
お姫様はおいらとほぼ同時にかぶりと食べたから、皇太子が食べるのを横目で見つつ、すべて食べ終わった。
「二人とも慌てすぎだよ」
皇太子は苦笑して、最後の肉を食べきる。
それからもおいらたちが先に味見した後、何種類もの食べ物を皇太子は口にする。
おいらは楽しかったけど、他の護衛たちは面白くなさそうだった。まあ、皇帝の手の者だからいいけど。
そうして楽しく街の視察というか、街歩きを楽しんだ。本当にただぶらぶら歩いて、食べるだけ。
あきれたような護衛の姿を見て、これはうまく皇帝に伝わるなと思った。
そのような日々を過ごしながら、おいらたちは準備を進める。
皇帝は遊び歩いている皇太子を知り、すっかり油断しているだろう。
日々護衛たちの態度が杜撰になっていく。
そうして、運命の日がきた。
皇帝の腰巾着が帝都を出たその日、おいらたちは決行した。騎士団長と副団長が信頼できる騎士たちを五十人動かして、一気に王室に流れ込んだ。
抵抗などはできるわけはなく、皇帝は帝位を退くことを宣言。そのまま、城内の塔に閉じ込めた。
あっけなく事は終わり、皇太子アランは第六十代の皇帝になった。
その後、ソルは女性であることを暴露して、皇帝アランは自身の命令であったと補足。
彼女が前皇帝の愚策のために滅ぼされた民族の娘であることも明かした。
お姫様は、表舞台に立つようになった。
アラン陛下の隣に。
特別扱いであるソルは、時期王妃と噂されることにもなった。
「ギギリ。お前は騎士団をやめるつもりか?」
「はい」
お姫様、ソルの幸せはおいらにとっての幸せのはずだった。けれどもいつのまにおいらはソルがアラン陛下と仲良くするのが嫌になった。
それは耐えがたいほどの痛みをおいらに与える。
ソルは王妃になって幸せになる。
おいらはそれを静かに見守れる自信がなかった。
お姫様は仕える主で、護衛対象のはずだった。けれども、おいらの気持ちは変わってしまった。
男に転生して、おいらはすっかり男になった。
お姫様がほしい。
独り占めしたい。
その気持ちは強くなりすぎて、お姫様や陛下に何か言いそうだった。
「ギギリ」
荷物をまとめたおいらにお姫様が声をかけてきた。
「私も連れて行って。ギギリ」
「お、ソル、様。それはだめです」
「ギギリ。あなたは私に最後まで仕えると誓った。その通りにしてくれた。とても感謝している。でも同時に悲しかった。あなたのいない世界はとてもつまらなかったから。こうして、あなたに再び会えた。あなたはちっとも変っていない。男の人になっても、何も変わっていなかった」
「ル、お姫様?」
「ええ。黙っていてごめんなさい。ずっと黙っていようと思っていたけど、あなたの傍にいたいから、話すことにしたの。卑怯よね」
「そんな、どうして」
「あなたは王女だった私に忠誠を使っている。だけど今の私には友情を感じているくらいでしょう?」
宿舎の部屋の扉に寄りかかりながら、ソルは問いかける。
「おいらは、お姫様であるあなたに忠誠を使っています。だけど、今のあなたに対しては少し違う」
「やっぱり」
「ソル。好きです。おいらも言うつもりはなかったけど、最後だから言わせてください。おいらは帝国を出ますから」
ふわりと甘い柔らかいものが抱き着いてきた。
それはお姫様、ソルで、その柔らかさに驚く。
同室だったけど、触れ合うことはなかったから。
「私も同じ。ギギリ。私もあなたが好き。一緒にいたい。連れて行って」
「だめです。お姫様はここに」
「私はもうお姫様ではないわ。ソルよ。いえ、ルイアよ」
「ル、ルイア」
「ええ、私の本当の名前はルイア。ギギリ」
おいらは前世で仕える主だったお姫様と結婚した。
陛下は初めからおいらたちのことに気が付いていて、からかっていただけだったみたいだ。
やはり遊び心がありすぎて、陛下のことはあんまり好きじゃない。
妻となったルイアとも距離感が近すぎる。
おいらは護衛騎士になり、補佐官のルイアと共に陛下に仕えている。
帝国は侵略をやめ、内政に手を尽くし、帝国の歴史の中でもっとも豊かな時代を築いた。
(完)




