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「起きたか」
目を覚まして体を起こすと、そこには団長、副団長、お姫様の姿があった。
「ギギリ!目覚めてよかったです」
お姫様は泣きそうな顔をしていて、ちょっとだけ申し訳なくなった。
油断した。
本当、次こそ絶対にこんな無様な真似はしない。副団長たちが敵なら、おいらもお姫様も死んでいる。
「さてギギリ。そう力むな。俺たちはお前たちを害するつもりはない」
団長が顎をさすりながらそう言う。その隣で副団長は無表情だ。
油断できないぞ。
「ギギリ。私はこの人に恨みがあります。しかし、彼の人柄は信じるに値する人です」
お姫様は冷静さを取り戻していて、淡々を話す。
恨みって、部族を滅ぼされれば当然だ。
団長はきっと王の命令に従っただけだったんだろうな。
それでも手を下したのは、団長自身だ。
「帝国は大きくなりすぎました。沢山の恨みを買っています。私のように部族をなくした者や、家族を亡くした者は数えられないくらいでしょう。だから、私はウルジアに協力して、今の皇帝を倒します」
「え?」
そういう話?
お姫様にはお似合いだけど、っていうか、男装をやめたんだ。お姫様。
姿は男のままだけど、お姫様は肩の力を抜いて多分普段の姿を見せている。言い方とかやわらかいもんな。
「ギギリ。あなたも協力してくれますか?」
「勿論です」
おいらはお姫様のずっと味方だ。何をされても、おいらはずっと付いていく。
「カーヒルの娘よ。それが本来のお前か?雰囲気がまったく異なる」
「そう、そうですね。これが本来の私です」
お姫様は昔に戻ったみたいで、懐かしい。
一緒に時を過ごしていたあの頃みたいだ。
でも懐かしがっている場合じゃない。
「カーヒルの娘。いや、ソル。しばらく騎士を続けてくれ。陛下に悟られない様に、計画を進める。俺には信じられる味方は少ないからな」
「そういうことですよ。ソル、ギギリ。二人は誰にも気が付かれないように部屋に戻ってください。いいですね。この時間は見回りがいない頃ですから」
「はい」
おいらとお姫様は一緒に返事をして、静かに部屋を出ていく。
お姫様は少しだけあぶなかっしい動きをしながら、廊下を歩く。なんか普段より動きが鈍い。眠いのかな。
「早くなれないと」
お姫様はそんなことをぼやきながら歩いている。
とりあえず誰にとがめられることなく、部屋に戻り、おいらたちは息を吐く。
「ギギリ。明日も早い。早く寝てしまいましょう」
「はい」
お姫様にそう言われれば、おいらはその通り行動する。だから、おいらは二段ベッドの上にあがり、ゴロンと横になった。
お姫様は着替えをしているようで、おいらは覗いてなんかないぞ。衣擦れの音がするからそう思っただけだ。
眠ってしまおう。
「ギギリ」
「お姫様」
あ、やばいお姫様呼びしちゃったよ。
「あの、ソル」
とりあえず言い直してみる。
「男装がバレないようにしてくれてありがとう。これからももう少し迷惑をかけると思うけど、お願いね」
「ソル、大丈夫です。おいら、頑張りますから」
「頼もしいですね」
お姫様の言い方がいつもと違う。
ううん。一緒、前世と一緒なんだ。
「さあ、寝ましょう。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
もしかして、と思って聞き返したかったけど、おやすみなさいと言われたらそれ以上邪魔できない。
だからおいらは寝ることにした。
考えことが今も苦手だ。
☆
翌日、お姫様はいつものソルに戻っていた。男装しているソルだ。でも時折優しい笑みをおいらに向けてくれる。
その度になぜかおいらはドキドキする。お姫様は可愛いから。そうだ。
「今日は、皇太子殿下が視察に来られる」
団長は昨日のことが嘘のように、おいらたちをみることなくそう言った。
気のせいだったのか。
そう思っていたら、事件が起きた。
皇太子が宿舎に現れて、団長が案内する。おいらとソルは遠巻きにみていたのに、皇太子がやってきた。
「そこの二人。名前はなんと言う」
げっ。そういえば皇太子には変な噂があったな。
お姫様を守らなければ。
おいらは彼女の前に立つ。
「私の名前はギギリです」
「そうか。ギギリか。良い目をしているな。そこの者の名は?」
やっぱり見逃してくれないか。
お姫様は可愛いものな。
「私の名はソルです」
「ソルか。よい名だ。ギギリ、ソル。二人は今日から私の護衛騎士になるのだ」
は?
声を出さなかった、おいらは偉い。
ソルも少し驚いているようだ。
「お前たちは可愛らしいからな。私の人形にはぴったりだ」
皇太子がそう発言すると、小さい声で侮るような言葉が聞こえてきた。
時期皇帝の前でよくそんな態度が取れたものだ。
団長も一部の騎士達のそのようなふざけた態度に気づいていて、言葉を発した者たちを恐ろしい声で睨んでいた。
そうして、場が静まり返ったところで皇太子は何事もなかったように城へ戻っていった。
今の皇帝は、遊びに呆けている皇太子に対して何も思わないんだろうか。おいらはあんなやつが後継者だったら、絶対王位を譲りたくないな。
その夜、おいらたちは団長たちに呼び出された。
待ち合わせの場所はおいらたちの部屋の近くで、ほっとした。
時間通りにいくと、二人はすでにきていた。
二人だけでなくて、おいらは声をあげそうになった。
もう一人そこにいて、それは皇太子だったからだ。
そこから宿舎ちかくの寂れた小屋に移動して、おいらたちは具体的な話をした。
皇太子は昼間みた感じと異なって、甘さがなくなっていた。
けれども遊び心は残っていて、お姫様を揶揄っては怒らせていた。
皇帝を引き卸す計画は、皇太子が中心となっている。皇太子は皇帝から侮れるような態度をわざととっていて油断させているみたいだった。今の皇太子の上に兄が二人いて、優秀だった彼らは皇帝の逆鱗に触れ、戦死したり事故死したりしているらしい。
とんでもない親。あり得ない。為政者の前に、親として失格だ。
おいらたちは皇太子の手足として動くため、彼の護衛騎士になった。元からいた護衛の中には皇帝の間者がいるので、表で皇太子のそばにいるときはまるで道化みたいだった。
「ソル。今日の君も可愛いいね。同性で結婚できたらどんなにいいのに」
皇太子はよくお姫様に絡む。
お姫様は柔軟にそれに対応していて、すごいと思う。
でも裏では皇太子に散々文句を言っているけど。
二人はとても仲が良く見える。
皇太子もお姫様と一緒にいる時はとても楽しそうだ。
おいらの幸せは、お姫様の幸せだ。
お姫様が皇太子の妻になれば、のちのち王妃になる。それはお姫様にとっていい事しかもしれない。
だけど、二人を見ていると胸が苦しくなるのはなんでだろう。
おいらった変だな。
そうしておいらたちは皇太子の指示に従いながら、その日に向けて準備を続けた。




