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79話 シロネコ亭、起動

「その森に今確認の腕利きどもを向わせている。しかし、東の森から人を離す為に人為的に流した噂のはずだったんだが、まさか本物が出ちまうとはなあ」

俺は今冒険者ギルドの例の会議室に来ていた。俺の隣にリックと、メイムちゃんのオーガ討伐組が座っている。そして反対側に、今現状を教えてくれていたイパナのギルドマスターのエリンのおっさんと、何故かにこやかに同席しているジュリエッタが座っていた。都市連盟からの傍聴人みたいなものらしい。


 つか、やっぱりオーガが出たって話はミリ草の繁殖地から目を離させる為のブラフだったか。昨日ジュリエッタに車での移動中に聞いたがシソ畑は急ピッチであの周りを壁で覆っているらしい。全部引っこ抜いて移植しろって話もでたらしいが、シソなんてかなり掘り起こさないと根絶するの無理だしな。

なんで緑しかなかった所に赤が混じっていたのかはリスティが俺らがキャンプした場所に近かったから残留マナで変質したのでは? と推察してたが、これも実験してみないと判らないが、しばらくミリ草もシソも見たくないので脳裏の片隅に仕舞っておく事にする。


 リックは、目をつぶって黙って聴いているのかと思ったら、ゆらゆらと舟を漕ぎ始めていた。さっきこの報告に同席すると入ってきたジュリエッタにあって、ギルドマスターに素性を教えてられて驚いていたというに、なかなか豪胆な奴だな。

メイムちゃんが、それに気づいて焦って揺り起そうとしているが。まあジュリエッタはそういうのに目くじらたてるような子じゃないから大丈夫だけど、って後に護衛として立っているクミさんは怒ってるっぽいか。


 討伐時の話になり、俺たちが如何にしてオーガ2体をたおしたのかの流れを報告していくと、リックも目を覚ました

「毒殺……ですか。ユキさん、貴方ほどの方がそのような手段を取らざるを得ない相手なのですか? オーガとは」

なんか人前モードのジュリエッタはちょっと大人びてかっこいいな。でも、俺ザコ以外はほとんど搦め手でたおしてるんだけどなあ、普通の人からみたらそう思えないのか。

「あの巨体で、グレイウルフより俊敏に動き、そして知性のあるいやらしさかな。こっちが面倒な相手だとわかったら、攻め手を変えてきたしね」

2体目にしても、フローリアのどーんで体勢を崩された後、まずメイムちゃんを狙って状況の変化を狙ってた。怖いのは膂力だけでなく、知能だと思った事を正直に伝えていく。フローリアの存在の件を除いて。

俺たちの出会ったあの2体で終わると思えないからなあ。ギルドや、都市同盟の方てしっかり情報は共有しておいて欲しい。間違っても駆け出しの子ども3人で倒されたなんて勘違いされないように。

そういう意味でジュリエッタが来てくれたのは助かった。彼女は俺の能力をある程度知ってるから、オーガの危険度を見誤ることはないだろう。


「で、討伐報酬が要らないっては本気なのか?」

またエリンのおっさんが、渋い顔をして聞いてくる。

「ええ、こんな子供がオーガを倒したとか言う話はちょっと広まらない方がいいと思いますし」

安全面の事もあるし、あとちょっと別件もあるから今は名前を売りたくないというのが本音だ。迷宮都市に行ってある程度探りが付くまではまだ有象無象の冒険者として埋没していたい。


「功績として確定させないと、報酬も出せん。ユキはそう言っているがお前たちはどうなんだ?」

「俺は一人じゃアイツには歯が立たなかったって自分でも判ってる、だからあれを功績として見られるってのは嬉しいより、悔しいから。ユキがそういうなら俺もいらない」

「私は多分、ユキさんが居なかったらここに座ってませんから……」

リックはユリンのおっさんを正面に見据えて言い放ち、メイムちゃんはあの恐怖を思い出したのか、スカートの裾を掴んでちょっと伏せがちに呟いた。


 俺を外堀から攻めようと思ったら外堀が思いのほか深かったのか、ユリンのおっさんはちょっと苦い顔をする。まあタダでさえ、ミリ草の件で報酬をケチらざるを得なかったってのがあるので、ギルマスとしては納得しがたいのだろう。

いや、俺報酬いいから、さっさと店に帰りたいんだけど。空間認識で見ているが、お店は今戦場だった。ひっきりなしに注文が飛び交い、店の中をメイファとミツハが皿を運んだり、重そうにビールジョックを運んだりしてる。


『ゆっくん、ぴんち!! ビール残り少ないよ』

おう、そっちの様子も気にはしてるんだけどさ、さすがに今は戻れないよ。出かけても様子は見れると伝えてあるので、由香里ねーさんが上に向って×印を作りながらピンチコールをしてくる。

もうその辺りの飲んだくれは追い出していいよ、お好み焼き1枚で2杯までとかルール作らないと狭い店だから回らんな。とは言っても俺の声は伝わらないので見るだけの一方通行なのだが。

ってああリスティが由香里ねーさんに耳打ちしてくれてる。

『今から2杯までっていってもさ手遅れそーだし。外にまだわさわさ人が集まってきてるよ!!』

……もう品切れって言って店じまいするしかなさそうだな。

『暴動起こりそう。主にあのドワーフさんたちが』

『やつらの酒に対する執着はあなどれんぞ?』

本当にドコからでてきたのやら、今まで見かけた事もなかったドワーフがどこから聞きつけてきたのか店の前に並んでいるのだ。俺はギルドの会議室で想定外の事態に頭を抱えた。


 話は少し前、昼頃にさかのぼる。 

ギルドに呼びに来たリックにお好み焼きを食べさせて、さあギルドに行こうかとドアを開けたら目の前には、這い出る隙間もない男どもの群れがたむろしていた。耳をすませたら彼らの腹の音が聞こえてきそうな気がする。

「そいつらは食べたんだろ? いつ俺達は食わせてくれるんだよ」

「もう出発を2日遅らせてるんだ。後生だから食わせてくれ」

わいのわいのと囲まれて、俺は困ってしまった。シミュレーションもある程度上手く行ったし、昼あとの1、2時間くらいならもう開けてもいいかな? とか思ったが今からギルドだしなあ。


 騒がしかった声が急に収まり、ありゃ諦めたのかなと思ったら違う。その目は俺の後方にたつあの人に注がれていた。

「はい、じゃあここから一列に並んでくださいね? 順番にご案内しますから」

と、由香里ねーさんが声を掛けていた。

「開けちゃうつもり?」

「もう仕方ないでしょ。商業ギルドには話通ってるって言ってたじゃん。私が見てるから大丈夫だよ、ゆっくん」

もう周りを見ると由香里ねーさんが指示したように、男どもは一列に並びだした、美人は強いなあ。なんか列に並ぶ事も忘れて由香里ねーさんに見蕩れてる男たちが居るのがちょっと不安なんだけど。

もう開けないっていえる雰囲気じゃないなこれは。俺は呆然としているリックたちから離れて、店の中に戻る。そして恐る恐る外を伺っていたメンバーに声を掛けた。

「緊急だけど、今から開店することにする。ユリアナ、仕込み足りないからリスティと一緒に裏方に回ってくれ。リスティすまないけど今日だけフォロー頼む。表は由香里ねーさんが廻してくれると思うから顔出さなくて良いから」

「了解です!!」

「まあ仕方なかろ、よし材料刻むのはまかせよ」

「ごめん、ありがとう。リスティたちは上のキッチン使って材料降ろせばいいよ、ルエラたちの導線は確保しつつ作業頼む」


 そして緊張した面持ちのルエラに声を掛ける。

「ルエラ、出来るよね? 今ある材料が無くなるまででいい」

と問いかけると少し目をつぶって息を静かに吐くと。

「任せてください、ユキさん」

とちょっと緊張した、でもどこか嬉しそうな笑みを浮かべて答えた。

「よし、任せた。申し訳ないけどボクは冒険者ギルドに出かけるから、何かあったらリスティに聞いてくれ」


 こうなるとメニューが一種類というのはラクでいいね、どんどん焼き始めれば良いだけだからね。

「ところでお酒はいくらで出すの?」

「面倒だから1銀貨でいいよ……、売れなかったらボクが飲む」

と言ったら由香里ねーさんに抱きつかれた。どうもボクって言ったのが琴線に触れたらしい。普通の飲み屋で4、5銅貨くらいでエールが飲める事を考えるとちょっと高いかもしれないけど、これもこの世界でオンリーワンの飲み物だし、俺しか運べないので、山頂の山小屋価格とおもって諦めて欲しい。


 並んでいる客さん予定の人たちに一応聞いてみる。由香里ねーさんに抱きつかれた少女(俺)に話しかけられてちょっと引いていたが。

「あの食事も、お酒も1銀貨ですから。高いと思う方はどうか他の店に……」

「もうあの匂いの元を確かめないと旅立てないんだ、いいから食わせてくれ!!」

「ああ、これ以上宿代かさむよりはマシだっ」

そこまでして待ってくれたのか……、俺も腹は決まった。というか由香里ねーさんに丸投げだ。なんかやる気に満ちてるみたいだからもうお願いします。

「それでは、シロネコ亭開店いたします。お2人づつ店内にご案内しますので」

と、笑顔で由香里ねーさんが宣言した。突発だけどオープンですよ、こんちくしょう。


しかし結局店名それになるのか。オーナー俺なんだけど、ネーミングライツは俺にはないんですかね……

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