表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/88

71話 カナお姉ちゃん

 どれくらい意識を失っていたのか解らないが、俺は何か身体に暖かい流れを感じて目を開く。同時に空間認識を発動開始して、周辺を確認する。俺は、河原のそばの草むらに横たわっているようだ、日の位置はあまり変わっていないので、そこまで時間が経ったわけでは無さそうだ。

「お、ユキ。目が覚めたのか?」

 ちょっと、離れた所にいるリックが俺が目を開いたのをみて、声を掛けてきた。そのそばにこちらを心配そうに窺っているメイムちゃんが立っている。

「ユキさん、大丈夫ですか? あのそのコがわたし達を近寄せてくれなくて」

と、いわれて胸の辺りを見てみると、と言われて見てみると俺の上でフローリアが両手を拡げて空中にホバリングしながら、手からマナを放出して、何かを展開しているようだ。バリアかな?

「フローリア、もう大丈夫だよ」

と、声を掛けるとこちらに顔を向けて、その小さな瞳からまた涙がこぼれ落ち始めた。

「ゆっきー、あんなことしたら死んじゃうのよ?」

と顔の近くに飛んできて、涙目で抱きつかれて、そして怒られた。前もオークマジシャンとの時も泣かれたけど、今回は仕方なかったんだよ……、と言い訳はしない。甘んじて怒られることにする。守れる自信はあったけど、あんなダメージを受けると思ってなかったから。自分でも結構キモが冷えた。


「やっと近寄れるようになったな、そのコが魔法使うのか、なんか近寄ると吹っ飛ばされちまうからさ。まあさすが精霊さまって感じだけど」

「仕方ないです、精霊さまが私達じゃユキさんを守れないって判断されたら。あのケガの方は大丈夫です?」

そうメイムちゃんに尋ねられて、俺は体を動かしてみると……痛くないな。オーガから吸収したマナが身体の中で活性化しているのかぽかぽかしてるくらいだ。

「ん、ボクももう大丈夫そうだ、心配かけてごめんね。とりあえず……報告は、しないでもよさそうだ」

森をこちらの方に臨戦態勢で近づいているカーネルさんらの姿が見えたからね。



 フローリアは、まだ心配そうに俺の顔を見つめているが、

「もう大丈夫、ケガも消えたみたいだ。ありがとうフローリア」

と頭をなでてあげると、ウェストポーチの中にぽすっと隠れる。それとほぼ時を同じくして、森の中から武器を構えて、カーネルさんら3人が現れる。フォルドさんは、木の上で気配を消して周囲を警戒しているようだ。


「大丈夫か?」

カーネルさんが剣を構えながら俺に駆け寄ってくる。ミルさんとルイさんはちょっと顔を強張らせながら周辺に目を向けている。もう周囲には何も居ないのだが、まあ教えてなんで解るんだと聞かれても困る……、と思ったら木から降りてきたフォルドさんが周辺に化け物は居ないと声を掛けてとりあえず落ち着いた。


「まったく……研修メンバーがケガすると俺の査定が下がるってのに、なんでこんなのが出てきてんだよ」

と、倒れたオーガを確認しているフォルド。

「にしても、無事でよかった。しかしお前たち3人で相手するよりは声を出して逃げて欲しかったな」

とカーネルさんにたしなめられるが、いや、アレから逃げるのは無理ですって、並の冒険者レベルじゃ一蹴だろうなあ。俺は戦わざるを得ない理由もあったから仕方ない、言わないけど。


「この立ったまま死んでるのは誰が何やったんだ?」

「毒殺しました」

と素直に答えると、皆の顔がこちらを向いた。若干引いてるのは気のせいじゃないだろう、俺もあれは引いたし。

「なんで、肉とか食べれないんで気をつけてくださいね」

「いやあ、これ喰いたいやつはいないだろ……」

とリックも呆れているが、まあ気持ちはわかる。デカくて怖いけど人間に近すぎるからな。

「それじゃあこれの討伐はお前らの功績として報告するが、とりあえず取れる素材だけ皆で回収しよう。時間が勿体無いからな」

 カーネルさんと、フォルドさんの指導の元、オーガの有効な部分が回収されていく。

「こういう高密度のマナを持った化け物の身体ってのは武具などの素材に流用されるんだ、ん、こいつ魔石ないぞ?」

ああ、リックと俺で刺し殺した奴か。

「剣で変な手ごたえがあったから砕いちまったかもな」

とリックが答えると、皆もったいねーみたいな顔をされた。下手すりゃ1年遊んでくらせるレベルの金になるらしいが、もうカケラすら残ってないしな。


 その後、オーガのツノ、キバ、ツメなどが切り取られ、毒殺したほうからは魔石も回収。そして毒殺したほうは油を掛けてメイムちゃんに念入りに燃やしてもらった。あの遺骸は多分腐敗すらなかなかしない可能性がある。死体を残しておくと、それに死霊が取り付いてオーガゾンビとかになったら致命的なことになるそうだ。え? そんな事が発生するのか……、俺今まで殺した化け物だいたいほったらかしだったんだが……。と思ったらある程度以上強いマナを持った個体以外はそうはならないらしい、ちょっと安心した。


 あらかた素材も取り終わって、剣で倒した方も燃やすかと言った所で双子のルイさんの方がオーガの股の辺りで何を探っている。そしてナイフを取り出したかと思うと、何かを切り取った……えっ?

「オーガのアレだ。死に掛けのじじいが生き返るくらいのすごい精つくって話だからね」

と平然とアレを切り取って見せてくれる。メイムちゃんは顔を真っ赤にしてそむけ、その他の俺をふくむ者たちはヒィッと身体を竦めた。恐ろしい人だルイさん……。


 オーガの居た川沿いのエリアを離れ、俺達は例のキャンプ地まで戻ってきた。

「毎回なんらかのトラブルが起こるものらしいが、今回は桁が違うな。まあ、今からキャンプから撤収してもイパナの街に戻れるタイミングは変わらないだろう。ここで夜を明かして予定通り明日街に戻ることにする。見張りは2人置くことにする、俺達も混ざる。とりあえず飯にしようか……」

とカーネルさんもちょっと疲れたように、指示をする。あ。そういえば俺達なにも取ってきてないな……、仕方ない適当に捻出するか。


 夕食は、ルイさんたちの取ってきた鳥と野草を、ウェイ○ァーさんベースのスープでおコメを一緒に煮込んで卵と溶いてまぜて雑なリゾットに仕立てた。俺ももう今日は凝った料理つくる気力がなかったが、この程度でも皆喜んで食べてくれてよかった……。あの実はさすがにすっぱかったので採ってきたミルさんが渋い顔をしながら責任食いさせられていた。ちょっと分けて貰ったらすごい嬉しそうな顔をしていたが、俺は食わないよ? フローリアなら喜んで喰うだろうしね。


 俺とメイムちゃんは最初の見張りにしてもらえたので、火を消さないようにたき木をくべながら火を挟んで向いあう。

「今日は、本当にありがとうございました」

と、ぺこりと頭を下げるメイムちゃん、そして頭を上げるとフードがその勢いで取れたがそれを戻そうとはしなかった。

「……この耳、好きなんですか、ユキさん。あの時触ってましたよね?」

「あー、うんごめん。つい目の前にあったら」

 もう辛抱たまらなくて。というか気付かれてたね……。


「いえ、良いんです。そんなに嫌じゃなかったですから」

「ごめんなさい」

と、素直に謝っておく。そんなにってことは少しは嫌だったって事だよね、猫の人に嫌われるとかもう死ぬしかないかもしれない。するとくすくすとメイムちゃんは笑いだした。

「精霊を連れた人なのに、ユキさんってぜんぜん偉ぶらないんですね。今日だって私なんかをかばって」

「いや、もうそれはいいよ、無事だったんだし。それよりボクから聞きたいことがあるんだけど。カナさんって」

メイムちゃんの表情がちょっと硬くなる。

「どこでその名前を?」

「いや、あの河原でメイムちゃんが自分で話してたよ?」

というとちょっとメイムちゃんは残念そうな顔をした。そして火を見つめながらぽつりぽつりと話はじめる。

「カナお姉ちゃんは、私のお姉ちゃんなんです。もう結婚して他の街に行ってたんですけど、そこで姿を消してしまって」

やっぱりあのカナさんなのか。

「もしかしてイルさんの?」

「知ってるんですか、義兄さんを?」

「うん、宿に泊まって話を聞いたよ。あと、これ」

カバンからミルちゃんとフローリアが笑っている写真を取り出して見せると、その目を見開き、そしてぽろぽろと泣き出した。

「ミル、もうこんなに大きくなったんだ、姉さんも逢いたいだろうに。……あの迷宮都市で、姉らしき同族を見たっていう人が居るんです。ですから私は迷宮都市で姉さんを探そうと冒険者を目指したんです」

ボクも手伝おうか、という言葉を俺は飲み込んだ。まだ頑なな態度を取っているメイムちゃんに、今それを言っても信用してもらえるか解らない。まだ俺とメイムちゃんの距離には、間にある焚き火の様にうかつに手を出せない隔たりがあるのを俺は感じていたから。そのまま、交代の時間まで、俺達ははぜる焚き火をただ見つめるだけだった。

下のランキングのリンクを踏んでいただけると、かなり喜びます。昨日の書き込みみたらランキングバーとかよく判らないことが書いてあって自分で恥ずかしくなりました。リンクだし、バナーですらないですし

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ