41話 尻
WEBカメラとプリンターを駆使した荒稼ぎは、銀貨325枚となっていた。ほんの4時間くらいでである。でも実際写真とったのは30人くらいだったような。って、半分以上あの見本というかブロマイドの売り上げなのか……。まったく、どれくらいの値段で売り払ったというのか。テーブルの方を気にする余裕すらなかったからなあ。
しかし、額縁とかに飾られたらどうしよう、俺の女装が後世に残ることになってしまう……。昔のプリンターなら色落ちして消えてくれただろうが、街猫写真をプリントアウトする為に買い換えたプリンターが仇になりそうだ。
「北の街道を回るんでしたら、駅馬車を使うといいですよ」
とルカさんがお勧めしてくれたので、今回は馬車に乗ってみることにする。なにしろ、北の海沿いの街道になるので、これからの季節だと風が寒いし、髪とかバサバサになっちゃいますよ、と経験者の言葉らしいので素直に従おう。
それに今まで徒歩の旅だったので、ちょっと馬車も楽しそうだ。フローリアは自由にさせてあげられないけど、人目があるときは由香里さんの所で遊んでいてもらってもいいだろう。由香里さん子供すきだし、フローリアとも相性良さそうだしな。
朝、イルカ亭のダイニングで、またミルちゃんとサービス朝ごはんを食べる。ミルちゃんは今日フローリアと別れるというのに、ニコニコと元気だ。
「あ、そうだユキお姉ちゃんも見て」
と、部屋から鉢植えを持ってくる、フローリアに自慢したがっていた草花かな?
「これ、フローリアちゃんから貰った種なの。もう芽が出たの」
って、マジで芽が出てる。梅の芽なんて見たことないけど、ていうか梅干の種から芽が出るとかどんんだけファンタジーだよ、ってファンタジー世界だった。
「こうやってね、いーこいーこすると育つのよ」
ってフローリアが鉢植えに抱きつくと、むくっっと芽がまた伸びて、葉が開いた。フローリアさん、そんな事も出来たのか。旅の間でもスプラウト食べ放題じゃないか。
「これね、ミルが大きくするってフローリアちゃんと約束したの。だからまたウチに見に来てね」
とミルちゃんに笑顔で頼まれた。喜んで!!と心の中で叫びつつ、
「うん、約束ね」
って二人で笑った。
旅立ちにミルちゃんは泣かせなかったが。扉の向うに立っているイルさんを泣かしてしまっているようだ。あ、そうだ。
「ちょっとお願いがあるんだけど」
とイルカ亭の3人に並んでもらって写真を撮った。プリントアウトしたものはミルちゃんに渡す。写真を見たミルちゃんは、フローリアと撮って欲しいと頼んできたので撮ってあげた。彼女ならフローリアの存在を喧伝することもないだろう。フローリアが肩にのった写真をあげると、嬉しそうにしていたミルちゃんの目から涙がこぼれ、結局フローリアとまた抱き合って泣いていた。
駅馬車は街の北から出るらしい。ぽてぽてとその辺りの店などひやかしつつ、北に向かった。見ると街道脇の所に大きな馬車が止められている。その脇に御者らしき男の人が立って、4頭の馬たちに水を飲ませていた。俺が近づくと、
「嬢ちゃん、駅馬車に用かい?」
「はい、クエリアまで行きたいなって思ってます」
「一人旅か……、まあいいが、大人も子供も一人20銀貨だ。あと途中のアスリの街まで夜休んで1日、アスリの街を次の日でて、夜にはクエリアに着く。間に食うメシとかは自分で用意してくれ。水は途中の休憩の時にでも飲める」
とぶっきらぼうに教えてくれた。昼に出るというので、その頃にみな食事を済ませて、食べ物の準備をしてから集まるという。教えてくれてありがとうと礼をした。
「じゃあ私も準備してきます」
「ああ、水は飲みすぎるなよ?」
セクハラ!! とか思ったけど、みんなお花摘みばっかり行ってたら進めないから業務上の必要な説明だった。そして、忘れかけていたが同性だった。
フローリアは由香里ねーさんの所へ遊びに行かせた。フローリアも馬車の旅といってちょっと興味がありそうだったが、グレイスで乗った馬車みたいにぽむぽむできないぞ?って言ったら諦めた。
『馬車の旅、見たいよゆっくん!!』
って由香里ねーさんにも言われたけど、昨日の今日だし諦めていただいた。その分、フローリアと遊んでやってくれと頼む。そしてくれぐれも外にだけは出さないようにお願いした。マジで。
フローリアは俺のベットでぽむぽむして待っててくれ。腰を労わる低反発クッションだけど、こっちの世界のベットよりも柔らかいと思うからな。
由香里ねーさんのおにぎりを食べて、また街をぶらぶらして時間を潰して駅馬車の所に戻る。さっきは馬車から外されていた4頭の馬たちが馬車に繋がれている。もう馬車には何人か人が乗っているようだ。
「よう、嬢ちゃん。やっぱり乗るんだな。荷物あまり持って無そうだがメシとか大丈夫なのか?」
「大丈夫です。小食なんで」
銀貨20枚を渡して、馬車に乗せてもらう。
駅馬車の中には窓の外を覗いている子供づれの夫婦と、大事そうに荷物を抱えた商人。あと傭兵か、冒険者かといった風体の男二人が乗っていた。二人が帯剣して乗ってるのは護衛ってことなのかね。窓から周囲を警戒してる感がある。なんかプロっぽい感じがする。あんな雰囲気だすとかずるい、G級ユキちゃんはまだ仕事達成率0パーセントだというのに。
そして、駅馬車は満席になることなく走り出した。車輪がごとごとと地面の振動を伝えてくる。周りの風景が少しづつ動き始めた。あー、なんていうか旅の始まる感が堪らないわ。実際、ここまでの旅って半分以上逃げ出して街をでているから、しかも自分の足じゃないってのは感慨深い。
えっと駅馬車後悔です、まだ数時間もたっていないが。なんかこの振動が合わないのか、俺の尻がデリケートなのか。マジお尻痛いです。この世界にきてから久々じゃないだろうか、この痛みってヤツは。グレイスで乗った馬車がいかに高級だったのか、比較対象がなかったからわからなかったが。
これがランクの差って奴だろう。
ほんと、フローリアに手噛まれて以来ですよ、この私に痛みを味あわせるなんて。周りを見てもこんなキツそうな顔してないし、慣れてるのだろうか。部屋からクッションでも出したいけど、ポケットを通らない。そうだ!、お尻に触れなければいいんだ。と空気イスでがんばろう。って現実逃避してしまった。
「あのおねーちゃん、もじもじしてるけどおトイレなのかな?」
とか後ろの子が小さな声で隣のお母さんに話しかけながら、俺を指差しているようだ。その小さな声が皆に聞こえてしまったのか、チラチラと視線を感じる。やめて、見ないで!!。
俺は羞恥とお尻の痛みの二重苦に苦しみながら、休憩と御者の人が告げてくれるその時をひたすらに待つのだった。




