表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/88

37話 クライシス

 リスティが落ち着くまで、俺はおつきのエルフさんの許しを得て、エルフの里を見て回ることにした。深い森から出てきて、高く太い大樹に目を奪われていたので、あまり意識していなかったが。

「けっこう広いな」森を挟んで隣接したタイセツよりと比べてかなり広い。

「はるかな昔、この大陸にすむエルフたちがこの森に集い、大樹を守るために作った我らにとっての城みたいなものだからな」案内役としてトールの想いエルフのクローネさんがついてきてくれていた。

「しかし、里に戻る私を追い抜いて、村の子供を助けてくれるとは。さすが、勇者とは凄いものですね、おっと巫女殿より皆への口止めされていたのでした」勇者がシークレットなら、俺が勇者じゃない云々な話はトップシークレットなんてもんじゃないだろう。その辺りはお口チャックしておこう。


 里の外周は背の高い木が立ち並び、確かにまるで城壁のようだ。その外縁にそって、堀の様に小川が流れている。あの小川の横で黒い煙を上げているのは鍛冶屋かな。エルフって火とか鉄とか嫌うように思っていたけど違うのかな?

「鉄だって自然の一部ですよ、私どもエルフは森のカカシではありませんから、火を使って食物を調理したりします」森のカカシ、ただなにもしないで突っ立ってる守人ってことかな? この世界のスラング的なものか。自虐として使ったんだろうか。


 鍛冶屋は近づいてみるとエルフの男性が炉に火の魔法を使い炭と相乗効果で温度を上げていた。なんかエルフがススにまみれて鍛冶仕事をしてるのってなんかカッコいいな。もう一人のエルフの人は風魔法で空気を循環しているらしい。あと自分たちに風をあてて涼んでいるらしい。なるほど近づくと猛烈な熱気を感じる割と凄い高温の炉だ。開けた小川の近くに立っている理由がなんとなくわかった。

「ああやって高温にすることで、鉄の中の不純物を取り除いていくそうです」と説明してくれた。あのエルフたちの打つ武器はなかなか良いモノらしい。らしいというのは殆ど外に持ち出されないからだとか。俺は、ジャマをしないように他に行くことにした。


 あのウワサに聞いたエルフ紙の製造もみせてもらえた。門外不出ですが村の恩人なので特別ですと前置きされて紹介されたのは、ああ日本の和紙みたいなものだね。木の皮を煮たものを叩いていたり、木の枠の上にその溶かしたモノを少しづつ掛けていったりしてるな。俺のイメージにあった紙すきの行程は無いみたいだ。あれ均一の厚さとか作るの大変そうだな。生産性が高くないので、エルフの中でも一般に出回るものでなく、神事や贈答などに使われているようだ。ん、コピー紙まだ売れそうだな。


 しばらく町を散策しながら、クローネさんにエルフの事を聞いて過ごした。エルフたちは子供時代は人と同じように育ち、成人となる15,6歳くらいから殆ど容姿に変化が無く、そのまま長い大人の時代をすごす。病気やケガなどで命を失わない限りはそのまま歳を重ねていくらしい。なので成人以降は歳を数える習慣は無いそうだ。そして、長寿の弊害なのか、バランス取りなのか、出生率は低いらしい。人や獣人と交わっても子を為すことは出来るが、その場合、親のどちらかの種族になるという。オーク? あれは例外で全部オークになるらしいよ。おぞましそうに語ってくれたが。


 そして、村を探索している俺の後ろにはわさわさと宝どもがついてきていた。

「おねーちゃんありがとー」「きれー」とか子供たちが集まってきている。何時の間にか笛も吹いてないのにハーメルン状態だった。あー、嫌だなあとか逃げ回っていたけど、こうちやほやされるのも悪くないね、まあ進んでニセ勇者にはならないけど。俺は引き出しから、ストックの飴を取り出して、袋から出して子供たちに配った。みな最初はよく判らないものを手渡されて、途惑っていたが、

一人が意を決して舐めて、歓声を上げると皆次々に口に入れて喜んだ。クローネさんも興味深そうに見ていたので、あげると口に入れて驚いていた。

「これは、ハチミツほど濃厚ではないが、果物の酸味と甘みが混じり合っていいな。しかし、こんな高級そうなものを子供たちに……ゆ、ユキさんありがとうございます」勇者呼ばわりは禁止だよ。


 アメを取り出すときに引き出しの中に見えたものを取り出す。由香里ねーさんに町内会の子ども会に引っ張り出されたときに余ったやつだ。

「わっ、きれい」「なにこれスベスベ」「こんな紙見たことないよ」

ん、エルフの国でもこの扱い、グッドですね。ちなみに普通の折り紙である。子供たちに好きに1枚づつとっていいよ、と渡す。あ、金と銀ぬいとけばよかった、枚数が少ないので、一部で取り合いが始まってしまっていた。じゃんけんででも決めなさいといったら、伝わらなかった。そういう遊びがないみたいだ。はさみは紙に勝って、紙は石に勝って、石ははさみに勝つ。手の形とともにルールを教えると、もうじゃんけん大会になってしまった。一番勝ったコから紙を取っていくことになって、金色を取った女のコが得意満面で喜んでいた。


 しばらく、まったりとした時間を過ごしていた。折り紙はエルフの子供たちにはかなり多かったので何枚か渡る事になり、俺は鶴など覚えている限りの折り紙を教えてやり、女の子たちはそれで楽しそうだった。それが退屈そうな男の子たちには紙ヒコーキの折りかたを教えてあげた。自分が折った紙が空を飛ぶのが嬉しそうだ。一人の男の子が、風の魔法を使って風をコントロールして、飛行機を高く飛ばしだした。魔法の親和性の高いエルフならではの遊びって感じか。俺にはできないからちょっと羨ましい。いつのまにか女の子たちも飛行機を飛ばす方に、エルフの里の空にはさまざまな色の飛行機たちが風を受けて、くるくるといつまでも飛んでいた。


「紙をあのような子供の遊びに使うとなあ。考えたこともなかったの」

いつの間にか、リスティが俺の後ろに立っていた。目元はちょっと赤い、まあ仕方ないだろう。このエルフの里、いや世界単位での自分の存在意義が崩れ落ちたのだ。それに誇りをもっていたからこそ、その衝撃と悲しみは俺には想像できない。それほどに打ち込んだものがなかったからね。

「……もう大丈夫、とは言えんが。少しづつ自分と折り合いを付けていくつもりじゃ。だいたいお主がおなごではくオトコであれば、嫁に行くという手段もあったのいうのに、ままならんものじゃ」と

かすかに笑った。俺はちょっと笑えなかった。バレてはいけないことが……。

「バレてはいけないって何のことじゃ。ん?」


 リスティが意識を向けた方に認識を向けると、エルフの戦士らしき男性がこちらに走ってきているのが判った。その表情から、彼がこちらに伝えようとしている事の重さが判る。彼は息が切れるのにも構わず、リスティの前にひざまずくと、それを語りだす。


「……森の西の断崖から現れた多数の大蜘蛛がまっすぐに里に向かってきております。半日ほどで到着しかねません。数は……把握不能です……」

大蜘蛛の軍団がここに侵攻してきている。その一報は今までここに繰り広げられていた平和な風景をそら寒いものに感じさせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ