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33話 杜の先へ

 俺にあんなことやこんなことをしつつ、金を巻き上げて負けの補填をしようとしていた有象無象は街の外に捨ててきた。男の服を剥ぐのはもう面倒だから止めよう。昨日はバザーでチンピラの衣服を、いかに切り裂かずに脱がせるか、なんてアホな知恵の輪遊びをしていたが、すげー大変だったしな。HODのビデオみたいに体動かしてくれればいいのだが、体を動かそうとすると意識が戻ってしまう。しかも、臭いのが混じってると自分の方が罰ゲームされてるような気分になる。洗濯くらいしろー。


 アホどもを捨てて、もう追跡がないことを確認すると、ルカ神様が待っている宿屋にもどった。

「お帰りなさい、ユキさん。お客様なので、あまり失礼は言いたくないんですけど、女の子がこんな時間に出歩いちゃダメですよ」とルカさんに叱られた。

「ごめんなさいー」と部屋に逃げ戻った。これで行ったのが賭場とか知ったらどんな顔されるか判らん。怒られるより悲しまれそうで怖い。

イルさんがもって来てくれたお湯とタオルで体を拭いて、部屋からTシャツを取り出して寝巻きがわりにしてベットに飛び込む。ドレスも軽くぬぐって砂埃を落とさないとなあ、とか思ったがもうふかふかのベットから動くのが面倒だ。下着? ああ、それは聞かぬが華ってやつだ。


「おはようございます……にゃ…、朝ごはんも出来てますのでお好きなときにどうぞ…です…にゃ」

ノックに応答して入ってきたのは、昨日はみなかったショートカットのオレンジヘアーの猫耳なコだった。歳の頃は10歳くらいに見えるいたいけな猫耳少女が朝から羞恥プレイに震えるとか。なにここ天国? 俺また死んだの??。

 恥ずかしいのか真っ赤になったまま、水の入った桶を置いて、昨日の湯の桶を持ってたたたーっと逃げていってしまった。イルさんの関係猫さんなんだろう、毛並みが一緒だし。


 着替えて、軽く荷物をまとめた後、部屋から出て食堂に向かった。厨房にはイルさんの姿が、そしてエプロンの影に隠れているさっきの少女。手にもったお皿にはさまざまな果物が乗っている。

「おはよう、ユキさん。良く眠れましたでしょうか?」とルカさんもやってきた。

「いま用意するからちょっと待ってくれ」と厨房の奥に消えるイルさん。残された女の子はもじもじとこっちを見ている。……これは俺に連れ去れというのか。カバンの容量をふやせばなんとか……。

「この子、兄の娘でミルって言うんです。ほらミル良いの?」とぽむっとミルの頭をなでるルカさん。それに意を決したのか、ミルちゃんは俺の前に近づいてくる。

「あ、あの、ユキさん……一緒にご飯食べてもいいですか……」おう、どんとこい。むしろ胸に飛び込んできていいのよ?。

「……精霊さんと」あーうん、その手にもったお皿で判ってたよミルちゃん。俺は二つ返事でOKした。


 招かれたのはイルカ亭の奥にある彼らのプライベートスペースだった。テーブルに並べられた朝ごはんというには豪華な料理。そして、目の前では嬉しそうにフローリアに果物を渡して、とろけるような目でみているミルちゃん。

「すいませんね、ユキさん、もう出かける前だっていうのに。ウチの娘、昔から精霊の話が大好きでね、その精霊を連れてる人を見たってつい話しちゃったら、もう聞かなくて」と苦笑してるイルさん。このサービスしてもらってる豪華な朝ごはんと、この目の前のふにゃふにゃになってるミルちゃんでもう大満足ですよ。フローリアもその純真な好意がわかるのか、凄い機嫌がいい。しばらく、2人の好きにさせておこう。


 ミルが育てている花を見せたいというので、フローリアは彼女の部屋についていった。まあ急ぐ旅じゃなし、もう少し時間をあげよう。


「で、行かれるのは杜の都の方なんですよね?」と仕事がひと段落ついたらしいルカさんに尋ねられる。ちなみに俺ももう荷物はまとめて部屋の方はチェックアウトさせてもらった。今は、お茶を淹れてもらってまったりとしていた。

「というか、エルフの里を見てこようかと思ってます」

「あそこは杜の都で許可が下りなければ入れないと聞いてますが」あーやっぱりちょい閉鎖的なのかな? いや、もしかしたら守ってる?

「ああ、私はフローリア、あの精霊が一緒ですから」と答えると納得したようだ。エルフは自然信仰、というか精霊信仰が篤いらしいから。

「ですが、気をつけてくださいね。今年になったくらいから、森に化け物が多く見られるようになったと。エルフの人たちもそれでピリピリしてるようなので」

ピリピリとエルフと聞いて、あのおかっぱエルフなのじゃちゃんが頭に浮かんだ。確かに、あんな化け物が森を徘徊していたら大変そうだな。俺は裏技チートじみた攻撃手段があるからいいけど。

普通の武器とかであれを相手にするのは苦労しそうだ。


「ルカねぇー、見てー。フローリアちゃんにね、種を貰ったの。これ植えたらどんな花が咲くんだろ、すっごく楽しみ」とミルちゃんとフローリアが部屋から戻ってきた。あー、フローリアさん? すっぱくて美味しいの! はいいんだけど、それもう中まで漬かってるから芽でませんよ?。ミルちゃんが手に持っていたのは溜まってきていた小梅ちゃんの種だ。ときどきフローリアが思い出したかのように、森でよさげなところを見つけるとぽんぽんと植えてるのは知っていたが。ミルちゃん育たない種貰ったら泣くんじゃないか? 

 もう嬉しくて仕方なさそうにシッポをぶんぶんしているミルちゃんに現実を教えるべきか、腸が千切れそうなほど悩んだが、結局俺は逃げた。ごくごく低確率で生えるかもしれない。そう可能性はゼロじゃないし。あの笑顔を一言で消すのはムリだよね。 


「また来ます」とイルカ亭のみなさんに挨拶して、俺は宿を後にした。あの短い時間でどんだけ深く友達になったのかミルとフローリアはひしっと抱き合ってしばらく泣いていた。考えれば、生まれてからあの森で独りで居たというフローリアにとっての初めての友達だったのかもな。俺はパートナーだし。


 街をぶらぶらとし、昨日ガキどもにあげちゃった保存食の買い足しやら、服屋を覗いたりした。結局買ったのはぱんつと中に着る薄いキャミソール……だって俺のシャツとかだと形が出ちゃうんだ。仕方ないじゃん。ぱんつは最悪ぱんちらしたときに男バレ防ぐ為に必要。自分のパンチラを注意しなきゃいけないとかなんでこうなった。あ、大体自分のせいだった。

 街でいろいろ買い物していると、街をちょろちょろとしている影に気づく。ああ、昨日のストチルどもか。まだ悪さしてんのかと思ったけど違った。ちょっとした手伝いを申しでて、代価をもらって仕事しているようだ。関心関心、働いている分あぶく銭で生きてる俺よりマシだわ。


 必要なものを買い揃えて、街をでるあたりに昨日のボスが独りで立っていた。お礼参り上等かと思ったら、ヤツはペコりと頭を下げた。

「今は力がねーから、借りた恩に礼は言っておく。でもな見てろよ、いつか昨日の借りは全部叩き返してやるからな、ぜってー泣かせてやる。待ってろよクソ女!!」


 おう、適当にがんばれーと言葉にはださず、頭上で手をひらひらさせてそのまま歩みさる。森に続く道を進めば杜の都だ。また新たな地をみるのを楽しみに、俺は歩みを進めた。

 



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