32話 ジャックポット
森のイルカ亭に戻ってきたのは、陽が落ちかけたころだった。バッグひとつにえらい時間と、金を使ってしまった。
後半の大判振る舞いは後悔していない。なによりコピー紙転売の超あぶく銭だ。
一応世界のバランスを正すという役目を頂いているし、あの子たちの何人かでも更生できたらいいなと思う。投げっぱなしジャーマンだが、それ以降面倒は見ない。ときどきこんな化け物が現れるんだから、割に合わない!!。って思ってくれるくらいでいい。
森のイルカ亭の食堂は多くの人で賑わっていた。テーブル席には身なりのいい商人や、護衛たち。カウンターにも多くの客が来ているようだ。その中でウェイトレスよろしく配膳している神様がいた。
「あ、ユキさんお帰りなさい。食事取れますけどどうしますか?」と聞かれたので
「あ、はい。頂きます」と壁際のカウンター席に座る。
……ちょっと椅子高いな、足が浮いてプラプラする……。ま、いいか。プラプラと足を揺らしながら料理が出てくるのを待っている。
「ほい、お待たせ」女神からではなく、目の前から料理がやってきた。猫人の男性だ。短く刈り込んだオレンジ色の髪にどこかでみたような眼差し。
「俺がここのコックをやっている、イル……だ、にゃ……って恥ずかしいぞこれ。ルカ、よくやったなお前」
と笑いながらルカさんに声を掛けている。なにやらさっきのやり取りが伝わってるようだ。
いや、こっちも照れくさくなったよ。いやごめん俺の欲望の犠牲ですね。
洗い物を流しにいれて、キッチンからもどってきたルカさんが
「兄さん、もう! 遊んでないで。あ、ゆっくり食べてねユキさん」
とぽこんと兄の頭をお盆で叩きつつ、厨房の後ろを通り抜けていった。
ああ、ご兄弟なのね。眼差しが似てる気がしたのはそれか。イル・ルカの宿屋、納得しました。と心で丸ボタンを3回くらい叩いた。
出てきたのはパンとスープ、そして何かの肉に赤いソースが掛かっている。肉の周りには野菜や根菜が添えられていた。
スープは塩味が効いて美味しかった。ここは海の町にも近いから、塩の流通が多いのかもしれない。そして肉にナイフを入れて一口食べてみる。掛かっているのはトマトソースかな、肉は、あ、これ覚えがあるな。
「鹿、かな?」
「お、良く分かったなお嬢ちゃん、冬近くなると森の奥から鹿が降りてくるんでな」
このちょっと癖のある味は食べた記憶があった、昔許される大地で。
気づいたら、フローリアがテーブルに身を乗り出し野菜にトマトソースを付けて食べ始めていた。イルさんはそれを見て、ちょっと目を見開くように驚いていたが。ちっちゃなコップの水に何かをたらしてフローリアに渡していた。はちみつかなんかのシロップだろうか? 喜んでるし甘い系だろう。
お礼を言おうと思ったら、片目を瞑って、指を口にあてていた。ヤダ、この猫の人イケメン。
出来ればルカさんを眺めながらご飯たべたかったが作業をしているイルさんの耳の付け根をガン見したり、時々通るルカさんのしっぽの機嫌を見ながら食べ終わった。
いろいろと、ごちそうさまでした。
食堂も空いてきたので、いそぎ離れなくてもいいかなとまったりとした時間と猫耳を楽しんでいた。すると後ろのテーブルに座る護衛らしき人たちの会話が耳に入ってくる。
『もう、やめとけって。どうみてもカモだぞお前?』
『いや、俺の運は今日まで貯金されてきただけだ、今日は行ける!』
『しらねーぞ、明日の飯代は貸さないからな…』
『おれが奢ってやるぜ、んじゃ行ってくら』
なんかダメな予感がする、が面白そうだ。興味を持った俺はつけていくことにした。
「この時間からお出かけですか? あまりお勧めしませんが」
とルカさんにたしなめられたが、俺の好奇心は猫でも止められないのだよ。ちょっと頭を下げて、
「すぐ戻ります」といって出かけた。
認識で先ほどの男は追いかけていたので、迷うことは無い。彼は悠々と北の方面に向かっていく。彼の目的地は北にある酒場、そして併設された賭場だった。
まさに欲望うずまくって感じでいい雰囲気だな。店に入るときにそこらでたむろっていた男どもに睨みつけられたがガンスルーだ。
店の中は悲喜こもごも、勝ったらしき男が良さそうな酒で喉を潤し、負けたものどもはそんな勝者に妬みの視線を送りながら、しかし隙あらばご相伴にあずかろうと様子をうかがっている。
やられている賭博は、良く分からない木のカードを使ったものや、サイコロもあるみたいだな。とあそこで人が集まってるのは……ルーレットか。かなり向うの世界のと似ている感じがするが、偶数、奇数や赤と黒などのベットは無いみたいだ。いろいろ単純みたいね。
逆に低額では当てづらそうだが。その割には、稼いでる人とかいるみたいだし。と考えてピンときた。
俺は一人の敗者が抜け落ちたスツールにちょこんと座った。
「お嬢ちゃん、そこはね、このルーレットで遊ぶ人の為の場所なの。どいてくれるかな?」とディーラーなお姉さんに話しかけられる。
顔つきは普通だけど、肉感的なバディの持ち主だ。うむ悪くない。
「えっと、これでいい?」って銀貨3枚を置く。
「あー、うちで使う札に交換しないと」と断られそうになったが、
「なんだよ、遊ばせてやれよ」とか周りのおっさんどもがなんか好意的だ。というよりアトラクション的に楽しんでいる感じか。
「……じゃあ賭けていいわよ」
後ろからお偉いさんに話しかけられ、ディーラー姉さんが承諾する。適当に遊ばして追い出せってことだろう、フフフ。
「じゃ、ここ」と7と11の間に銀貨3枚を置く。あたれば18倍って場所だろう。お嬢ちゃんギャンブラーだねーとか言われてるな、周りから。
まあ、俺の目算が当たればよし、当たらなかったら、まあそん時はその時で考えよう。
ディーラーさんが投げ入れたボールが、次第に動きを落とし、そこに止まった、7だ。
やったね。
「すげー豪運だ」「あやかりたいぜ」「可愛いな」とかいろいろ言われてたが違う。あのディーラー姉ちゃんの技術だ。
多分回転する位置と、投げいれる球をコントロールできるんだろう。普通の人より強いマナを感じていたからこの結果は予想できた。で、遊ばしてくれたわけだが。多分俺は稼ぎすぎたから次は狩られるだろう、
だがあえて行く。これはあのねーちゃんと俺の勝負だ。
「次まいります」
俺は今もらった木の札を全て7に置く。銀貨54枚分のベットだ。
「マジか、嬢ちゃん」「信じられん」「嫁に欲しい」「なんつー賭けかただよ」
一人ギルティながらどよめく周囲の声に俺も内心は同意する。
そりゃそうだ。勝てばトンでもないが、7以外なら賭場の総取りだ。勝てば金貨19.5枚の一点賭けに場に緊張が走る。この大勝負にはみなベットせずに見守っている。
ディーラー姉ちゃんの手によって玉が投げ込まれる。俺の予想では場を盛り上げるために、7一個手前の29の枠に落とすと読んだ。次第にスピードを落としていく玉。
ここだっ!!。俺は減速してきて止まりそうなった玉が枠に触れそうな一瞬を狙って時間停止をかける。ここで摩擦をさせなければ……ってあああ、玉は枠の端を砕き壊してしまった。
静まってしまった場。やってもーた。
お偉いさんらしき人が出てきて
「えールーレット破損の為、本日はこの遊戯は中止いたします。ただ今のベットについては返金させていただきます」との宣言。
俺は返却された札をそのまま換金して店を離れる。銀貨54枚が小銭入れを再び満たしてくれた。壊れたルーレットの前で呆然としているディーラー姉ちゃんにごめんね、と心の中でぺこりと頭を下げる。多分彼女は怒られるだろうからな。
妬みなどいろいろな視線に晒されながら店をでると、さっきの明日は奢るぜさんが真っ白になって転がっていた。……負けたね?、キミ。
情報料として時間を止めた彼の懐の小銭入れに3銀貨を入れてまた歩き出した。これで明日の飯には困らないだろ。
とりあえず後を付いてきているアホどもを教育してから宿屋に帰ろう。間違ってもルカさんに迷惑掛けたくないからな。




