31話 よくぼー都市
森のイルカ亭の夕食はオプションだとか。
頼んでおけば1銀貨で用意しておいてくれるらしい。シングルが
埋まっていた所を見るに結構流行っている宿屋のようなので食事も
興味が高かったので頼んでおく。少しでもルカさんと言葉を交わしたいという
欲望は隠す気はないが。
ルカさんに買い物はどの辺りが良いか聞いてみると、ここから西のタイセツ
に繋がるエリアにいろいろな物売りがバザーを開いているという。
ちなみに北へ伸びる道をちょっと外れると歓楽街という感じらしい。
「ちょっと荒っぽい人もいたりするから街道から離れないほうがいいですよ。
特に暗くなったらダメですからね?」とおねーさんっぽく注意された。
夜ご飯の頃には帰ります。とルカさんに伝えて宿をでて西へ。
いろいろ物色してみよう。
まずはちょっと前から代えたいなと思っていたバック。
布のナップザックは雨とか湿気に弱くて面倒だった。時間停止しろって話に
なるけど、いざって時にコントロールできなくて荷物をダメにするのは困る。
あと体に対して大きすぎ。グレイスで間に合わせに急いで買ったものだったので、
もっと良いのがないか、いろいろと見回ってみる。
ちょっと可愛いのがいいな。なんて俺の容姿とのつりあいを考えたが、
そんなシャレた物はなかった。
「なー、俺らいい物置いてる店知ってるからさあ、案内するよ」
とえらい熱烈なナンパにあった。自己紹介していたが、
どうせ偽名な上、そんなのを覚える脳のキャパすら勿体無いので
チンピラA~Cと呼称することとする。
まあミエミエすぎて嘆息するレベルだが、断るのも面倒なので、
ホイホイと付いて行く、
この手の奴らはしつこさこそ武器だと判ってるからなあ。
「この先に掘り出し物がおいてある店があるんだ」
と明らかに人通りのない小道に誘い込もうとするチンピラB。
どこにそんな店があるんだよ。俺は空間認識で小道の先を
念のため調べるが、んなものあるわけないね。完全な袋小路だ。
「えっと、じゃあ私はここで」と身を翻そうとすると、
「心配するなって」と俺の手首を掴もうとするC。うむギルティ確定。
俺は周辺の時間を停止させる。
ホントは触りたくないけど身動きしないAからCの身包みを剥いだ。
あー手洗いたい。このストロング砲を切り落としてやりたい気分に
なったが、まあ我慢する。前科はあるかもしれないが、俺にはまだ未遂
だしな。懲りればいいけど……。
チンピラどもの腹と背中に「少女に欲情しました」と油性マジックで
書き込んで、重ねておく。男なのに誘蛾灯の様ですまんな。
そして脱がした服を小道から見える通りの人通りが多い所においておいた。
人通りのある道を裸で横断して回収すればいいのだ、簡単ダネ。
イキがってたチンピラーズだが、そんな恥かいたらしばらくは出歩けまい。
俺はまたバザーに戻り、バックを探す。短い間に、他2件同じような
案件があったので、同様に処置しておきました。
結局選んだのは出来の良さそうな皮の肩掛けバックだった。
今の少女サイズでもなんとか使いまわしのいいサイズを選んだ。
口が広いがそこまで大きくない。値段は造りのよさを表した銀貨60枚。
ちょっと悩んだが、最悪また物を売ろうと思い、購入した。
これはずっと仕えそうな良いモノだったんでね。
荷物を入れ替えようと、人通りの少ない道に移動しようとすると、
コソコソ隠れながら、数人が付いてくる気配。
またか、と思ったら今度はストリートチルドレンっぽい。
2、3人のグループで移動して、俺を追ってくる。あー、どうしようね。
ぽんっと値切りもせずにバックを買うような鴨だもんなあ、今の俺。
とりあえず、荷物の移しかえもしたいし、誘いこまれてあげるか。
そこらで道を塞ぐように立つ先行する子供たち。それを避けるように
彼らの立っていない道を選んでいくと、その先は袋小路か。やるじゃんキミたち。
袋小路の先にはチルドレンたちのリーダーらしきグループが待っていた。
多分リーダーはあの12歳くらいの少年だ。子供にしては妙に強い力を
持っているようだし、頭の回転も悪くなさそうだ。
そんな少年は取り巻き数人とニヤニヤとしたまま動かない。俺の時間停止で。
停止している彼らの前でナップザックから肩掛けカバンに、移しかえを開始する。
肩掛けカバンには、これまで使った事のなかった時空魔法、空間拡張を試してみた。
へー、力を込めるともっと拡げられる感じか。さっきまで週刊ジャプンを4冊入れたら
一杯くらいだったバックの中が、俺がジャンプできるくらいの広さになった。
いや、これは広すぎだろ。取り出しづらいし、取り扱いに困るわ。
人攫いができてしまう。
注ぐマナを調整して見た目肩掛けバックは、デカい旅行カバン並の内容量を得た。
これくらいあればいろいろ仕舞えるな。ナップザックからぽいぽいと物を移動する。
ふむ、入れ替え完了。時間停止を解除する。
いきなり目の前に現れた俺に驚いたようだが、ニヤッと口角を歪めながら話しかけてくる
「お姉さん、なんかお金持ちみたいじゃん。俺ら困ってんだよ、助けてくれないかな」
ニヤニヤ話しかけてくる少年。
「んー、お断りかな」と即答で返す。
こちらがか弱い少女だからその即答に驚いたようだ。
表情からニヤつきが消え、睨みを利かせてくる少年。おーなかなか堂に入ってるね。
「街のクズみたいにあんたごと売ろうって訳じゃねーが」
目配せすると、後ろの道を仲間たちであろうストチルどもが塞ぐように動いてるな。
「痛い目みるぜ?」と拳をペキりと慣らす。
うん、ここで武器を取り出すようなら容赦なく行こうと思ったが、
そこまでは歪んでないようだ。
「痛い目、見せられるのかな?」と俺は微笑む。
「おまえ、俺が女殴らないと思ってんじゃねーだろうな、舐めてんじゃねーぞ」
激高して殴りかかってくる。うん、ガキの喧嘩はこうじゃなきゃね。
並の大人よりもよほど力の篭った拳が俺の顔を狙ってくる。
む、ちょいギルティ。
俺はその拳をそのまま掴むと、力任せに地面にたたき付けた。
頭だけは打たないようにコントロールしてね。
「ぐっあっ」肺から空気が逆流したか?、苦悶の声をあげるリーダーの少年。
しかし立ち上がり、俺を睨む。
「てめえ、まぐれで」立った彼をまた背負い投げの要領でまた地面に叩きつける。
柔道の授業以来やったことないけど、今の体なら余裕でいけるな。
「くそ、女のく」
投げる、投げた。彼の心が折れるまで何度も地面にキスさせた。
初めて見るリーダーの敗北に周りの少年少女らは不安そうな顔をしてる。
地面から起き上がれない少年のそばに、しゃがみ込んで話す。
あ、ちょっと泣いてるな。気づかないフリをしてやろう。
「キミさ。それだけの力と、あのグループをまとめる頭があるなら
まっとうにこの街と戦えよ。商売とかだってやれただろ、キミなら?
まあ気持ちは判らないでもないけど、まともにやって大人を見返してやれよ」
「……偉そうに」
「お前が歪んで邪に落ちるのはいいさ、でもなあそこでお前を心配してる子らまで
巻き込むな。リーダーやるならあいつ等をまともな側に戻してやれよ」
「……」
「ほれ」っとさっきまで使っていたナップザックを渡す。中身に残っているのは
さっき買っておいたパンと買い足したドライフルーツだ。あと底の方に小銭入れ。
「それでも食べて、少し考えろ」
そして振り返って小路を出て行く。
道を塞いでいた子たちはさっと左右に分かれた。うむ、素直でよろしい。
「ふ、ふざけんな! 施しなんていらねーよ」
「ばーか。粋がったって、今のキミには私からそれを跳ね除ける力が無いんだ。
悔しかったら、まっとうな道で強くなってみろ。……じゃあね」
堰を切ったかのように泣き声が聞こえるが、振り返らないで歩みさる。
あー宿のお金先払いしといてよかった。
良さげなバックをバザーで買ったらほぼ持ち金無くなったでござるの巻。
あとはポケットに残した銀貨3枚だ。うむ、かっこつけすぎたかな。
やっぱり半分返して、と心の底から言いたかったが、諦めて立ち去った。
そろそろ宿の夕食が待ってるはずだ。




