30話 好奇心とねこ
次の朝、宿屋の前でトールたちと別れた。
「……それじゃ、バイバイ」
と苦笑する2人に、昨日よりかなり軽めに別れを告げる。
短い知り合い期間ではあったが、あんな感じの別れをやって
そのちょっと後に、あの出会いをやってしまっては仕方ない。
うむ、悪いのは俺じゃないし。主に糖分の仕業。
今居るスノアの村から街道を北上してトレドの街を目指す。
街から離れ、旅人が認識内に居ないところまで移動したのち、
俺は北に向かって駆け出した。
普通の旅人が野宿しながら6日かかる距離と聞いた。
あちらの距離で換算すると200kmくらいだろうか。
ウサギンナット氏が疲れないで走り続けたら6時間で着くくらい。
普通の荷物をもった旅人が休みと野営を挟んで6日で到達する距離だ。
天気もよく、割と見晴らしの良い平原なので低空を駆けると、
認識範囲外から見られる可能性もあるので、かなり高空を駆けている。
寒い、マジ寒い、特に足もとはもうヤバイ。
ドレスにジャンパーという装備なので、足元はほぼノーガードだ。
途中、花を摘みに2回休憩した。
フローリアは割と食べるのに、そういう生理要求はない、割とズルい。
急ぎの旅という訳じゃないのに、こんなに急いでいるのは野営グッズ
を持っていないからだ。そろそろまともに旅の装備を考えた方がいいな。
トールたちは寒くなると聞いていたし、野宿はそろそろムリっぽい。
マナで強靭になった体だが、寒さに耐えられる訳じゃないのは、
今俺がライブナウで体感してるしな。
そんなモジモジしたりしながら、空を駆け続け、3時間ほどで大きな街が
見えてきた。トレドの街だろう。高度を下げ、人目がない所に着地して、
今度は普通に街道を歩き始めた。あと1時間くらいで着けるかな?
時間は俺の部屋の目覚まし時計を見て確認できた。こちらの一日が何時間なのか
分からないが、実感できる程には差が無い感じかな。
トレドの街。ここは西に進むと杜の都。南に城砦都市。北東に進んでいくと、
海が見え始め港湾都市の方へと進む。
その三つの都市の合間に立つ中継都市として栄えているらしい。
三方から物が集まり、三方に散る。
なのでいろいろな物が手に入るらしい。ソニアさんのおしゃれ着もココまで
旅してきて購入するらしい。護衛の仕事のついでとはいえ、ご苦労さまだな。
まずは泊まる宿屋を決めるか。夕方ちょっと前だから、早めに決めて
置かないと、
見た目か弱い美少女旅人なので、宿はメインストリート辺りでちょいお高めだけど、
客層が良いよ的な所が無いか探した。
決めたのは森のイルカ亭。ちょっと名前なんでこんな風につけたの?
と聞きたい所だったが、そんにゃ事はどうでもいいにゃ。
受付のネコ耳おねーさんである。やっと出会えた。
この都市同盟群に入ってからも、豚人の人や、犬っぽいお姉さんとかちらほら
見かけてはいたのだが、ついに出会えた。
年の頃は見た目の20半ばくらいだろうか。瞳はネコ感を残しつつ人間に近い感じか。
他のお客さんと話しているのを見る限り、歯並びとかも人間よりで、ちょっと
八重歯っぽく犬歯が尖っているくらいか。ネコなのに犬歯とは怖いカニ。
肩の辺りで切りそろえたオレンジの髪の合間から、ブラウンの耳が飛び出している。
耳の先が更に濃いブラウンなのが、チャームポイントだろう。俺が今決めた。
シックな色の給仕服に、裾からすこしだけ見えているおしっぽ様。チラ見えって
所がいいですね。ほんのり左右に揺れているので俺基準では機嫌が良いを見受けられる。
しっぽはパンツの上から出しているようだ。そりゃそうかパンツに穴開けて通したら、
おトイレ大変だもんね! あーマジで3Dプリンターがあったらモデリングして
フィギュア化して……おっと思考が暴走してしまった。
むしろ意識的にアクセルを踏んだ感もあるが、この世界にきて2ヶ月目にして、
やっとの邂逅である、許して欲しい。
ふー能力含めて暴走しすぎた。さあファーストコンタクトだ。
「いらっしゃいませ、森のイルカ亭にようこそ。お泊りですか?
お嬢さん、ひとり??」
「こんにちわお姉さん、ユキっていいます。一人ですけど泊まれますか?」
「あー、今ツインの部屋しか開いてないんだけど、高くなっちゃうけど?」
ちなみにシングルなら朝ごはんつきで1泊9銀貨。ツインだと20銀貨とか。
お姉さんと話せるという点から見たら、誤差みたい…な、ものなんだけど…。
「えっと、それでお願いします…」
んー、気になる。先払いだというので、銀貨20枚をカウンターに置いて、
ついじっとお姉さんを見てしまう。
「やはり取り止めますか?」と聞かれるけどそうじゃない。
「すいません。あの、えっとごめんなさい、
あの……にゃ…とか言わないんですか?」
聞くは一瞬の恥、聞かぬは一生の恥。でも失礼だったらどうしよう。
「……もしかして、猫族に逢うの初めてなんですか?」
俺がコクリと頷くと、
「子供の頃は言いますね、大人になって言う人は居ませんよ」
と怒るでもなく普通に教えてくれた。
猫族の幼児語的なものなのだろうか、て事はおねーさんと幼児プレイ
をすれば聞ける可能性が……。
「それではご宿泊承りました、ユキ様お部屋にご案内いたします…にゃ」
と、恥ずかしそうに微笑んだ。
客の無法な要求を、言い出す前に察してるとか、神はここにいまし。
ちなみにルカ様という神様らしい。マジ生き神さま。
しっぽもゆらゆら揺れているし、機嫌を損ねているわけではないことに、
ちょっと安心した。
しかし、あの耳の手触りを知りたい。よくぼーは尽きなかった。




