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20話 一線を越える

 メイド群を抜けて、開かれた扉を通ると、そこは広々としたエントランスになっており、そこには理知的そうな顔立ちの執事服をきた女性が待ち受けていた。

「グレイス家にようこそおいで下さいました。私、筆頭執事のミリスと申します。この度は当家ご令嬢ジュリエッタ様、そして私どもの同僚を助けていただき。誠にありがとうございます」

と綺麗な所作で礼をされた。なんか動きだけでデキる人って感じがビンビンする。そしてこのキツそうな面差しはちょっと苦手系だ。


「お招きさせていただいた所申し訳ありませんが、少しだけ所要があって離れます。ご自分の家だとおもってどうかお寛ぎください。ミリス、頼みます」

と、ジュリエッタさんとクミさんは一礼し執事さんに目配せして去っていった。


 こちらにどうぞ、とエントランスの大階段を登り2Fの部屋へ。招かれたのは……ドレッサールームか?

「お召し物が汚れていると聞いておりましたので、とり急ぎ用意させて頂きました。クミの見立てなので、サイズは合っていると思います。宜しければお召し代えを…」

頼むから一人でやらせてください、とメイドさんたちにはなんとか部屋を出てもらえた。そしてため息を一つ。用意された洋服を見るが、ああ、やっぱり。女の子扱いされてるのは判っていたけど。

ドレスだよなあ……どう見てもドレスだ。ふわふわしたシンプルな黄色いワンピース。胸元はUネックで開いていない。俺のぺったんを判っての事だろう。ぺったんどころか無いんだけどね……。スソ丈はヒザの辺りといった感じか。もうちょっとミニだったら抵抗があったかも、ってこれでも十分だわ!!。


 あーこれはキツいわ。しかも似合っちゃいそうな気しかしないのが怖い。ここで俺は男だよ!!と言い出すより、女の子として通してあとで髪を切って消息を絶つという手もあるか……。俺はいろんなモノをあきらめて着ていた服を脱いで、ドレスに袖を通す。あらやだぴったり。


 この世界では高価であろう姿見には困ったような顔の少女が映っておりました。はぁ……。フローリアはきゃーきゃー喜んでるが……。思ったより可愛いのが悔しい、なんでこれ俺なんだ。


 そしてさらに敷居の高いその物体に目を向ける。おぱんつです。この世界で初めて見る女性向けのおぱんつが、今から自分の履くものとか……。こんなの想像すらしてなかった、なんて運命だよ。


 元の世界のように布面積が狭いわけではなく、ややゆったり造られたソレは男がはいても許される気がする。主にサンやその付属部分も収めることが出来そうだ。前面らしき部分にリボンが付いているのに目を瞑れば……。


 俺は一線を越えてしまった。鏡の中の少女はちょっと涙ぐんでいた。


 脱いだ作業服と下着類は洗濯とできる限り修繕をさせて頂きます。とそれぞれメイドさんが運んでいった。そして、次は寝室に案内された。といっても荷物を置くだけだが。衣装掛けにジャンバーを掛け、テーブルにフローリアハウス(ウェストポーチ)を置いた。 


 ジャンパーも洗濯しますと言われたがこれは断った。ゴシゴシと水で洗濯されると、撥水コートが剥げてしまうかもしれない。でしたら、と執事さんが小さな香具を衣装掛けの下に置き、やわらかな香りの香木を炊いてくれた。これはマジでありがたいかも。ケモノ臭よ去れ。


 ベットでぽむぽむしているフローリアを回収すると、リビングに案内されジュリエッタたちとまた合流だ。彼女は俺の姿を見ると、

「まぁ!!素敵ですわ」と褒めてくれた。うん、知ってた。

「父が公務から帰りましたらお食事にしましょう、それまでお茶にお付き合いくださいます?」

 俺は、もうどうにでもなーれ的な、まな板の上の鯉気分で頷いた。


 メイドさんたちはさくさくと茶会の用意を整えていった。食事前なのでお菓子は少なめ。ジュリエッタに可愛がられ、フローリアは焼き菓子を餌付けされていた。まあ、小動物的で可愛いよな。食いすぎるなと注意するのはもう諦めた。フロ子は動物的に限界まで食べる。ブレーキはもともと付いていないようだ。

 ちなみにお茶と言われたのは、やっぱり紅茶だった。これだけ植生が似てるんだからあるよなあ。種類が一緒だし緑茶もあるんだろうな。まあ、そのうち俺の位牌の前にポットで用意されそうではあるんだが。


 しばらくゆったりと茶を楽しんでいると、ドアが開かれてナイスミドルの男性が飛び込んできた。日に焼けた肌に精悍そうな顔立ち。なかなか強そうな御仁だな。

 ちなみにフローリアはもうダウンしたる。メイドさんが持ったタオルの上でお休みだ。


「お父様、ちょっと不作法ですわよ?」ジュリエッタが咎める。

「いやーすまんすまん、気が急いてしまってね。君がユキくんか、うちの娘を助けてくれてありがとう」とバンバンと背中を叩く。ちょっと乙女(違)には力強すぎじゃないですかね。むせかけたぞ。


「お父様!」と強めに非難の声を上げるジュリエッタ。

「あーすまん、僕はもともとこっち方面の人間でね」

と剣を振る所作をするジュリエッタのお父さん。そっちの人なのか。

「あのグレイウルフを3匹も倒したのが君のようなお嬢さんときいて居ても立ってもいられなくて仕事ぶん投げてきたよ」

とジュリエッタに怒られてもカラカラと笑うお父さん、豪快だなオイ。ジュリエッタの父君ときいてイメージしていた気難しそうな貴族のイメージが、ガラガラと崩れていった、まあ付き合いやすくて良さそうだが。


「ああ、挨拶が遅れたね。ボクがこのグレイスの首長をやっているアレインだ」

確かに体格がいいな。上背もあるし、腕も太い。傭兵頭と言われても信じられる風貌だ、

その仕立ての良さげな服装がなければ。どこからジュリエッタ生まれたんだよ、ってお母さんからか。

「ボクはもともと入り婿でね。礼儀とか政治とかからっきしなんだ」

首長が政治からっきしでいいのかよ。

「なんで政治の方はジュリエッタに任せている、彼女は母さんに似て優秀だからね」

お母さんは…とは聞かない。皆の表情に苦いものが混じったのが判っていたから。


「十分な護衛を付けていた筈だった、しかし結果は危うくまた大事な物を、ヤツラに奪われ失う所だった。本当に……本当にありがとう」

そういってアレイン氏は深く俺に頭を下げた。


 ジュリエッタは他の都市との会合に参加した帰りだったらしい。騎兵や歩兵の護衛も付いていたらしいのだが、あの場所に付くまでに追い散らされてしまっていたようだ。


「やつらはここの所、力をつけている。その対策の会議だったのだがね」

グレイウルフもちょっと前まではそこまで数が居なかったらしいが、発見される数が増えているらしい。実際は報告以上に襲われている人が居る筈だと苦い顔で語るアレイン氏。どこかにヤツらの群れが居る筈でそれを探しているが、軍を動かして怪しいと思う場所に向かわせると、あざ笑うかのように別の街道で人を襲うのだという。


 これも世界のバランスの崩れが崩れてきている影響かな? コレは俺のやるべき仕事だな。と決意する。今の自分の格好が、その決意にひたすら似合わないことからは目を逸らして。


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