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18話 どうぞと言うなら金をくれ

 あまり眠った気がしない、恐怖の夜が明けた。女性化の可能性については、とりあえず今後の留意事項ということで、毎日サンの大きさを測るか……とか考えながらおにぎりを頬張る。

 由香里ねーさんのおにぎりはリポップが早くなった。一時期ねーさんが部屋を監視している気配が判ったので警戒していたが、この所はそういった気配を感じない。ただ、おにぎりを頂いて、しばらく経つとまた置かれているようになった。付け合せもから揚げに変わったり、タコさんウィンナーに変わったりしていた。もしかしてバレてる? んなわけないか。視線には十分注意してたしな。


 もぐもぐとご飯を頬張りながら、離れたところの道行く人たちの声を空間把握で拾っていく。金稼ぎの為の情報収集だ。


『あの店のアニタがなかなか離してくれなくて困ったぜ…』

『あの角の屋台のソースなかなか旨いらしいな。レシピが判らんものか』

『少し前にスリザラの河岸に大量のゴブリンが流れ着いたらしいな、流民たちが魔石の取り合いで刃傷沙汰まで起こってたらしいぜ』

『デュフフ、今夜はナカトちゃんにしようかな拙者もうタマらんでござる』

『あの商人、なかなか太っ腹だったな。あんな雑魚倒したくらいで』

『そら旅商人だって命あっての物ダネだろ、あれで金ケチったら、アイツはケチだってウワサになって助けもなくなる』


 ん、君らちょっと気になること言ってるね。それは皮の鎧をまとい、帯剣している二人の傭兵のような男たちだった。金の入っているらしい皮袋をちゃらちゃらと手の上で鳴らしている。

 どうやらあの都市に続いている森の脇を通る街道に稀にゴブリンなどの悪鬼が現れて商人などを襲うことがあるらしい。そういう部類の危険を廃して、報酬を貰う。そんな生業の傭兵たちが商人とともに旅をしているそうだ。傭兵か、腕に覚えあり!って感じでかっこいい!!。


 しかし、この見た目小娘な俺に身を守ってもらおうと思ってくれる人がいるのかが問題だ。うむ、居ないな。むしろ守りたくなるだろう(自画自賛)。とすれば、どうすればいいか。なら襲われている人を見つけて、有無を言わさずに助けて報酬を貰おう。助けられたって結果を出せばきっとリターンがあるに違いない。というか毟り取る。


 俺は都市の向こう側にある森の方へ移動し、そこを走る街道を観察する。現在の認識域である兎球場の約10倍、直径2.5km内に2人ほど人が居る。確かに人がまばらな場所でゴブリンが何匹か出たら、相手の数次第で面倒になるだろう。

 ちなみに1匹なら、こん棒くらいの長武器を持てば普通の大人でも、なんとか対処できるらしい。動きはそれほど素早くないし、背が低いので武器を上から振りかぶって下ろせば、もうほぼ有利の状況になるらしいからね。


 見つからないように木の枝に登り、その瞬間を待つことにする。何もおこらない。マジでひまだ。おにぎりを食べたり、周りの葉っぱを毟ったりしてすごした。スマホでもあれば……とひとりごちる。ちなみに、フローリアはヒマ潰しに付き合ってくれず、ひらひらと森に入ってまたいろいろ収集活動中だ。彼女は、俺の位置が遠くからでもキラキラこっち!と把握できるらしいのではぐれる心配はない。俺よりスピード速いしね。


 昼を過ぎ、夕闇が近づいてくると旅商人たちも足早になってきた。森の中にちらほらゴブリンどもが見受けられるようになったがグギャグギャと道の方を気にしているがなかなか手を出してこない。

あーもーイライラするな、やるならさっさとやれよ。


 俺はそこらに1、2匹でうろついているゴブリンに時間停止をかけ、一箇所にかき集める。10匹程度集まれば勢いもつくだろ。森の中にゴブリンをセットして街道を通る商人を待ち受ける。


 ん?フローリアが寄ってきて、俺を心配そうに見てる?

「……ゆっきー…わるい事してる?」


ゴブリンけしかけて、商人から礼金貰うって……。このシチュエーションって完全なマッチポンプじゃねーか。クズいにも程がある。結果だけを焦って求めて、完全に手段を間違えてしまった……。止めていたゴブリンを急いでポイポイと川に投げ捨てて、俺はフローリアに土下座した。

「わるい事してるとね、キラキラなくなっちゃうの。ダメなの」

ってマジ泣きされた。えぐえぐとフローリアの瞳から雫がこぼれ落ちる。泣かせてしまった……俺は彼女が泣き止むまで髪を撫でながら謝った。


 泣きつかれて寝てしまったフローリアをウェストバックにそっと寝かせて、俺はまたもや大反省会だ。もうホントダメだわ。なんかこの世界に来てからの俺はやたらと浅慮になっている気がする。

油断するし、調子にのるし、空気読まないし。なんだろう、心までガキになってしまっているのだろうか?。


 そんな反省会を開催しているうちに回りは夜の帳に包まれてきた。あまりのやらかしに俺も動く気になれず、まだ森に佇んでいた。近くのゴブリンは全部排除したしな……。


 すると、遠くから馬のいななく声が聞こえた。認識を向けると、豪奢な箱馬車が四足の狼のような獣数匹に襲われていた。先ほどの声は二頭の馬の1匹が首に牙を立てられた断末魔だったようだ。あれ、ゴブリンより強そうだな。と思いながら俺はそちらに向かって走り出す。


 近づく間にもう一匹の馬も狼に喉を髪破られて、殺されていた。乗っていた御者……って体しか

残ってねえし。俺は、猛烈なスピードで駆け寄り、馬から離れたその獣に対して、その勢いのまま蹴りを叩き込む。時間停止を掛けておいた靴はその運動エネルギーを余すことなく伝え、獣の頭は爆竹を入れたカエルの如く飛び散った。うぁ、やりすぎた。


 馬車の方に気配を感じて、見てみると停止してしまった馬車を護るべく、その前に立ち剣を抜いていた護衛がいた。中にも人の気配があるな。……ってメイド服かあれ、頭にプリムもついてるし、これも文化の平行進化だな!。ただちょっとスカート短いのは減点だな。ってそれどころじゃないか。


 その護衛の女性はこっちを見てギョっとしている。突然あらわれた子供が、何がしかの方法で獣吹っ飛ばしたら警戒するか。しかも血まみれスプラッタだ。

「何者ですか!」と誰何されたのは当然の事だろう。残る3匹の四足の獣は突然の俺の襲来にちょっと距離を離して警戒をしている。

「えーっと、お困り……ですよね?手助けが必要かと思いまして」

 ちょっと小首を傾げて可愛さアピールだ。使える武器は使う! ってこの血まみれじゃ逆効果かな?。


「あなたのようなコに何が出来るのです。危ないから下がりなさい。グレイウルフは、ゴブリンなどとは違うのですよ?」

と、ご心配のご様子。あれ?最初の1匹を倒したのが俺だって判ってないのか。可愛さアピールは逆効果だったようだ、ふむ。


「まあいいや、先に片付けますね」

と言ってグレイウルフと呼ばれた獣の方に無造作に歩いていく。

「やめなさい、死にたいのですか!!」

と馬車の前から動くに動けない彼女からお叱りが飛ぶ。が、俺は歩みを止めない。


 3匹は俺の周りをじりじりと等間隔で回りはじめた。馬やそこらに転がっている息絶えた兵士の傷を見るに、首への一撃で命を刈り取るようだ。獣たちは仲間を倒したのが俺だと把握しているらしく、低く唸りながら隙を窺っている。


 なかなか飛び掛ってこないので、俺はつまづいたフリをして目をつぶってみせる。護衛メイドさんが「危ないっ」と声をあげると、グレイウルフたちはその声に反応したように3匹同時に俺に飛びかかってきた。だが残念、俺の空間把握はその光景を目に見える以上に把握できていた。普通の人は真後ろまで視界はないが、おれは360度フルパノラマだ。ってあれ何時の間に夜目が効いてるんだろ? 暗い夜をずっとすごしていたから暗闇に慣れたのか? まあ考えるのは後だ。


 俺は先ほど集めていた葉っぱを周囲に巻きちらして叫んだ。

「は○ぱカッター!!」

時間停止を掛けられた葉っぱは重力を無視してその場に留まり、飛び込んできたウルフたちをズタズタに引き裂いた。ヒマだからってムシっておいた甲斐があったね。悲鳴をあげて空中で絶命するウルフ、そして俺も絶叫した。

「うひょあああああああ」

俺に向かって飛んできたグレイウルフの血と肉片は見事に俺を染め上げた。


 しばし呆然としてしまった俺だが、ペットボトルの水を頭からかぶり、服の裾で顔をぬぐった。もう服はどうしようもない。あとで全部洗濯だな……。


 気を取り直して馬車の方に向かう。護衛メイドはまだ呆然としていたが、俺が目の前に行くと剣を鞘に収め、立ち振る舞いを直した。

「……ご助力感謝いたします。あなたは魔法使いなのですか?」

「えっと……風、魔法使い?」と答える。そういや対応考えてなかったわ。

「なんでそこで自信なさげなのでしょう……、ってお嬢様、まだ危のうございます」


気づくと馬車の扉を開けて、少女がこちらを見ていた。マリエラと同い年くらいかな? サラサラの金髪に碧眼の整った面差し、派手ではないが品の良い青いドレス。なんかお人形さんみたいな美しい少女だ。


「危ない所を助けていただいてありがとうございます。馬車の窓から拝見しておりましたが、凄かったです。いろいろと刺激的で……」

と俺の服に目をやっている。確かにあれは刺激的だったですね。いろいろ……。俺ももう少し戦い方を考えないといけないな。

「私、ジュリエッタと申します。あのどうぞ貴女のお名前を…」

「あ、名前とか良いんで、報酬ください。金貨1枚」

あ、びっくりして固まってる。しかし、彼女はメイドさんの方に目配せした。すると、メイドさんは腰の皮袋から1枚の硬貨を差し出した。


「あの、金貨1枚なのですか?」と不思議な物を見るような目で見ている。

「はい、それでお願いします。領収書とか出せませんけど」

差し出された金貨を恭しく頂戴して懐にしまう。そして二人に一礼すると、踵を返して森に駆け込んだ。あとは一目散だ。夜が明けたらまた城門が開く。そうしたらやっと中に入れる。


保証金払って中に入ったら無一文になるのではないか? と気づいたのは眠りにつく寸前だった。

8パーセントくらいは上乗せしておくべきだった……。



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