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1話 俺の名は。

 俺の名前は高坂幸弘。ちょっと腹回りが気になりだした27歳。しがない長距離トラックのサラリーマン運転手だ。ネコのマークの運送屋で果ては北海道から九州まで。毎日、トラックで移動していた。


 子供の頃から旅にあこがれていて、将来は旅人になる! と思い込んでいたが。旅人では生活するのが難しいということを歳と共に知り、ならば各地の風景が見たいとトラックの運転手を目指した。


 ネコの会社を選んだのは、会社で大型免許を取らせてくれるのと、福利厚生を期待してだ。いつかは脱サラして個人営業もいいなと思っていたが、その前に死んでしまった。あれは労災になるんだろうか。


 両親は、俺が子供の時に自動車事故に巻き込まれて死んでしまった。そこから、俺の保護者は14歳年上の兄貴だった。いつか自前の車を買おうと貯めていた金は俺の葬式代にでもして欲しい。いろいろ苦労かけたと思うしね。


 エリアなんちゃらと名乗った女神様は少し立ち直ったのか、目の前にあるホログラムの板の様なものを操作している。なんかスマホの操作みたいだが、こちらからは何が描かれているのか見えない。

ゴッドテクノロジーって奴かな?


 そして何かを調べ終わったのか、こちらを見つめる。澄んだ瞳だ、素直に美しいとも思うが、あまりに造詣が整いすぎててちょっと怖い感じもする。

吸い込まれそうな瞳って奴か、さっきまでの醜態がなければ畏怖さえも覚えたかもしれない。


 ところで片側の肩紐がずり下がっていて、ホーリーな上乳がちらちら見えかけているのだがいいのだろうか。

俺的には全然ウェルカムなのだが。


「改めて…高坂幸弘さん。まずは、間違えてこちらに招いた事を謝罪します。

 ただ、申し訳ないのですが私の話をまず聞いていただけないでしょうか?」


 もちろん、この状況も判らないんだし、それ以外の選択肢は持っていなかった。


 俺を招いたのは、人違いというか魂違いによるミス。

まあこれは彼女の独白によって推察されていたが。


 あの時、剣豪ドノは俺が休んでいたサービスエリアの後ろにある山で滝行をしていたらしい。その時吹いた強風で折れた枝が彼を打ち、命を失う事になったんだそうだ。

剣豪が枝で死ぬって悲しいな……まあエコノミー症候群で死んだ俺ほどのマヌケさは無いが。

そして、彼の直前に死んでしまった俺の魂を間違えて、自分の神域に招いてしまったと。


 ちなみに剣豪殿は、天国行きの船便を蹴り、地獄の修羅道に向かったらしい。修羅道の極卒相手に切った張ったのカーニバル状態とか。

女神さまもスカウトを諦めきれずにメッセンジャーを向かわせたが、一刀両断されて諦めたそうな。


「お願いしようとしていたのは、私どもの世界のバランスを正してもらう為でした」


 魔王でも倒さないといけないの?と聞いてみたが、まだそういう存在は出現してないとか。

ん? まだ?


 人の為になる善な行い、私利私欲または害意などの悪なる行い。あわせてカルマと呼ばれる。それは彼女の世界を進化、繁栄させていく力となる。


善なるカルマは、人々を幸福に導いたり、救ったりすることで得られ、その業を集めた者は光の神の力の一旦を担うものともなる。


 そして、その対となるよこしまなるカルマ。誰かをだましたり、傷つけたりすると溜まっていく業。

そのカルマに染まりきった者は化生の者となり、その邪な力を用いて周りの人々を不幸にし、死と恐怖を振りまくという。


 この女神様は、善の神様というわけでもなくて、あくまでバランスをとるのがお仕事らしい。

善と悪と対称的な物であり、片方が強くなりすぎるのもよろしくないのだと。互いがバランスを保っている状態が世界として安定しているのだと説明してくれた。


 今までは揺れる天秤のようで大きく傾くことはなかったのだが、最近邪なる物たちが力を増してきてしまったのだという。

だんだんと邪なるカルマが増えてきたところで、本来なら世界の自浄作用から善の側に勇者が生まれるなどして、その傾きかけたバランスを元にもどせる筈だったらしい。

だが、勇者を身ごもった聖女が運悪く流行り病に掛かってしまい、亡くなってしまったとか。

バランサーとして産まれるはずだった勇者は産まれなかった。このまま放置すれば致命的なバランス崩壊に繋がってしまう。


 再度、勇者を生ませようにも、その存在を誕生させるにも、それを生み出すに耐えうる母体になる女性は居なかった。

そこで違う世界から勇者たりうる魂を招こうという荒業に走ったと。

この召喚も、世界の善なる力で行われたとかで、また天秤が傾いてしまっており、更なる召喚は出来ないのだとか。


「ですので、幸弘様。お怒りはごもっともですが。お願いします。

 こちらの世界を手助けしていただけないでしょうか」


目を伏せ加減でいる俺を彼女は怒ってると思っているようだ。

違うんよ…貴方の聖なる双乳をバレないように見ていただけなんです。こんな俺なんかに下手に出なくても、下乳だしてくれれば何でもしちゃうのにねっ!


 とと、ついに視線がバレてしまった。

服の乱れに気づいて整えなおし、ちょっと咎めるような眼差しで、こっちを見る女神さま。ごめんなさい、俺こんな人間(魂)なんです……。


 俺はエロい。ああ、エロエロさ。だが、ちょっと女性恐怖症かつ童貞だ。


 子供の頃、両親を失った俺は、兄貴とは別の親戚の家にご厄介になった。親戚の家には姉妹が居た。可愛いイトコと同居、これに夢を見る人は多いだろう。だが実際は地獄だった。その一家の中に居る異物である俺。

子供の頃は仲良くあそんでいたちょっと年上のイトコたちだったが、思春期の頃に同居というのは相手にも思う所があったのだろう。イジメというのとは違うが針のムシロだった。何をしても小言を言われ、反論しても無視される。そんな息苦しい毎日。

学校から帰ってきたら、しっかり隠してあったエロ本が机に並んでたりね。

もう鬱屈して爆発しそうだった、大学を卒業して自立した兄貴が迎えに来るまでは。


 今思えば俺もガキだったし、もうちょっと折り合いを付けることはできたかもしれない。まあ、数年の居候で出来上がったのは、エロ好きの女性恐怖症だった。ホモ方面に走らなかったのは奇跡だな。


 俺も学校を出て、社会にでたが女性恐怖症は薄れたものの、自分からアクションを起こすのは怖いという内向性エロスメンになっていた。風俗なんて怖くて行けなかったしね。

生乳なんて忘年会のホテルにきたお酌してくれるエロ芸者さんのを見た一回くらい。触るなんてとんでもない。横目でチラっとだけね。


 咳払いをし、再度語りだした女神サマのお願い、それは俺に異世界で善のカルマを高めて欲しいという物だった。


「善なる行いは、人の心に残り、また他の人への善な行いとなり広がっていきます。

 化生の物どもを倒してくれなどとは申しません。

 その善なる人となりを伝えて欲しいのです」


 つまりは次の勇者を生み出せるまでの時間稼ぎ、ということかな。どうやら俺のポテンシャルは把握しているようでムリはしなくていいらしい。って俺は善なのだろうか。神さまがいうからそうなのだろう?


「やれる範囲でよろしいのなら、お受けさせていただきます」

そう俺は女神さまに承諾した。

違う世界が見れる。それはとても楽しそうだと思えたのだ。


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