14話 エンカウント
食事が終わると、俺とフローリアはエリオットの祖母が使っていたという部屋を貸してもらえた。シンプルな造りの木のベットだ。
新しい叩いた藁を用意してくれて、それをベットの上に敷き詰めてシーツを掛けた。ちょっと藁ががさがさしてチクチクしたが、昨夜の野宿に比べたらよっぽど上等だ。
ベットの端に腰掛け、エリオットにまたいろいろと尋ねてみることにした。
「ここがエリオットのお婆さんの部屋だったのか。じゃあご両親は?」
と聞くと、自分の子供の頃に死んだと答えてくれた。悪いこと聞いたかな? と思ったが、あまり気にしてなさそうだ。
「悪鬼がいっぱい生まれて、村さ襲ってくることがあるだ。おらがガキんときにもあって、村さまもって戦ったんだ」
彼ら豚人族は普通の人間よりも力がかなり強い。なので、畑仕事でも役立ち、人々にありがたがられる。そして、戦闘ともなれば、悪鬼つか聞いた感じによるとゴブリンみたいな感じか? まあ悪鬼なんて軽くなぎ払うのだそうな。
そして、ご両親も、その戦いに自ら参加して村を守った。ただその時は運悪く、相手に大型の悪鬼・豚鬼がいたらしいのだ。ってオークもいるのか。
「おらたちは豚鬼は許せないだ。あいつらは人を襲って食い物にするだ」
ゴブリンたちは食物を求めて戦う、まあ人の命をなんとも思ってはいないらしいが。しかしオークは喰らい、犯すために人々を襲うのだそうだ。
違う種であるが、近しい姿をもつオークたちの悪逆が豚人たちには許せないらしい、近親憎悪って感じか。そして村を守って勇敢に戦い、村を守りきるもその時の傷が元で命を失ったそうだ。
「おらももう大人になるし、マリエルを守れるように頑張るだよ、ユキヒロに簡単に吹っ飛ばされてしまっただがな」と笑った。申し訳ない、と俺は頭をかいた。
借りていたロウソクを消すと、部屋の中が一気に暗闇に包まれた。ガラス窓なんてないから本当に暗闇だ。エリオットの寝息らしき低音の響きが、隣の部屋から聞こえてくる。
フローリアも、サイドテーブルの上に置いたウェストポーチでダウンしている。エリオットと話してたときにはもう寝てたんだけどね。甘い甘いってニンジン食いすぎ。
ベットの上で目を閉じて、今日の反省会だ、もうちょっと慎重に行動するクセを付けなきゃダメだな。防壁に触った件しかり、エリオット暴行未遂事件しかり。ってあれは未遂じゃないか。
マイサンも今日は落ち着いている。川での高速移動時にいろいろ試していたから、マナの強制供給に慣れてきたかな? まあ人の家でハッスルするのも嫌だし、これはなによりだ。
明日以降の目標は、まずこの世界の情報をもっと正確に把握することだな。豚人とオークとか違うなんて想定もしてなかった。これじゃ化け物にあっても、敵と判断できないかもしれない。図書館とかがあるなら、いろいろ調べてみたい。そういう公共機関があるのか判らんが、これだけ似通った世界なんだ。きっとあるに違いな……。
って、遠くで鐘のような物が鳴っている?
空間把握の範囲を広げると、村の小道を数人の人間の男性がたいまつを掲げながらこちらに向かってきているのが判った。追っ手か!!とも思ったが違うな。
村向うから走ってきてるみたいだし、もう少し調べてみるか。俺は空間把握をどんどんと拡げていく、お、フローリアがまたうにーっと伸びを始めた。
いくつもの畑を越えた先にある家が緑色の肌の化け物に襲われているようだ。煙をあげている家の手前に住人らしき人が2人倒れている。夫婦だろうか? 痛ましいがもう既に事切れているようだ。
その周りには背丈は小学生の子供くらいだが、石造りの斧や、粗末な弓をもっている緑色の肌をしたへんな生物がいる。醜悪に開かれた口から奇怪な声をあげている。自動翻訳されないところをみると、あれが倒すべき化け物と判断していいだろうか?
家に入り込んで保存食をむさぼったり、裏に繋いであった犬の死体を喰らっている。犬の首に矢が刺さっている所を見ると、なかなかずる賢いことが判る。先に騒ぎそうな犬を始末して、その後に一気に家を襲ったのだろう。
そいつらの動向を観察していると、エリオットの家のドアがドンドンと叩かれ、外から男の声が聞こえてくる。
「エリオット、悪鬼だ。ゴブリンが襲ってきた」と絶え間なくドアを叩く。エリオットはちょっと鈍いのか鐘の音には気づいてなかったが、その声に反応すると、くわっと目を見開いて起き上った。
「わかった!今すぐいくだ」と声を上げ、身支度をするエリオット。彼は、部屋の壁に掛けられた大きな斧を手にながら、俺に声を掛けた。
「ユキヒロ、すまないだがちょっとゴブリンこらしめてくるだ。ここは川挟んでるから安全だで。危ないから家でるんでねーど?」
と声を掛け家を出て行った。
追いかけるべきかな?と空間把握を追尾させていると、マリエラがこの家に向かってきているのが判った。
マリエラは家に入ってくると、エリオットがすでに居ないことに気づいて少し寂しげだった。
「ここが一番安全な場所だから…」と両親に送り出されたらしい。壁に掛けた質素なシンボルに祈り、エリオットの無事を祈っているようだ。愛し合っているようで、ちょっと羨ましいわ。
祈っている所申し訳ないが、必要に迫って聞いてみた。
「この後ろの川ってのはゴブリンは渡ってこないのか?」
「流れが結構急だし、深いところはあいつらの背では渡れないみたいだから…」
なるほど、じゃああのデカい牙生やした豚人、あれがオークなんだろうが、あいつらが数匹がかりで運んでいる太い丸太。あれを橋代わりに、こちらに渡って来ようとしている訳か……。
俺の空間把握は川の対岸の森から出てくる悪鬼の群れを感知していた。数はあっちのゴブリンどもより多いな。エリオットが向かった方が陽動か。マジで頭良いじゃないか、獣とは思えん。
ちょっと警戒のランクを上げといた方が良さそうだ。
さて一宿一飯の恩義と、いろんな借りを返すチャンスだ。ここはしっかりと彼の宝であるマリエラを守ることにしよう。




