13話 初めての人家(豚)
「なんでこんな奴、連れていくのよ……」
俺は、エリオット氏(豚人)の家に招いてもらう事になった。大誤認で怒らせてしまったマリエラさん(少女、見た目。中学生くらい)はまだ怒っているようだ。俺の後ろでプリプリとつぶやいている。
異世界ボーイミーツガールの第一回は、見事に大失敗である。好意どころか、完全に逆ベクトルの感情もたれちゃったっぽい。
しかし、これには俺も納得であった。少し話しただけでも判ったが、このエリオットさんマジでいい人(豚)なのです。最終秘奥義の時間回帰で自らがミイラになっても、ファーストコンタクトをやり直したいくらいだ。
ちなみに時間回帰は、その名の通り時間を戻す術法だ。効果範囲は設定できず、対象はこの世界全体である。これですでにもうムリゲー感ただよう、なんでこんな術作った!?
ちなみに今だとほんの0コンマ1秒戻そうと試すだけで命を失いかねない。なんとか使える時間停止も大概な力ではあるが、これは本当に神の御業の範疇だな。
「ほんなら一人で旅してるだか、そりゃ大変だべ。この村、宿とか無いんだわ、だからウチさ泊まっていけ? 子供が遠慮さしねーでえーから」
さきほどの誤解の事もあり、迷惑を掛けるからと断ろうと考えていたのだが押しきられてしまった。
「あの道の先は、ここあたりの大領主さまのシルヴァリの街があるだよ。この村にはなんもねっけど、あそこはいろいろなモノがあるだよ」
エリオットさんに色々話を聞けた。やっとチュートリアル開始といった感じだ。あまりに知識が無さ過ぎるのはさすがに不審がられると思ったので、さらりとではあるが。
「ここに来る道で、馬に乗った騎士たちがどこかに向かっているのを見たんだけど?」
「ああ、それは精霊王の森を守る騎士たちだべ」
彼らはこの地を治めているアセリス王国の親衛騎士団らしい。領主の私兵ではなく。
アセリスってのは遙かな昔、今は、精霊王と呼ばれる精霊と盟約を結んだバーバリアン戦士。彼がその精霊と共に、強大な化け物の軍団を打ち倒して、あの草原を含むアセルス王国の土地を人の手に取り戻して建国した国だそうな。なんか半裸でグレートソード振り回してる姿が思い浮かんだわ。
「んだから、精霊さ懐いてるお前さほっとけないだよ。知っててほっぽり出したら、去年死んだばーさまに叱られちまうだよ」
とポーチでまたウトウトしてるフローリアに、優しげな目を向けている。
「そんなのおとぎ話でしょ?」とちょっとキツめにマリエラが言う。可愛い子に嫌われるのはトラウマを刺激してかなり痛い…。
「んったらことねーだよ、今もあの森を騎士団が守ってるのが証拠みたいなもんだべ」
おとぎ話みたいだが、もう数百年前もその精霊との盟約を守って、あの森に砦を建てて何者の侵入を
防いでいるのだとか。あそこは高い山脈に囲まれて、他の国とも国境を接しておらず戦略的価値は皆無。資源もわさわさ生えてる高い樹木くらいらしい。
森自体を囲むように長い壁を建てて守っている。なにしろ森に入る許可が出ないっていう話もあるらしい。動植物学者が入りたいと申請しても、国がまったく許可を出さないという事だ。
しかし俺は知っている、既にその壁は無いのだ…。森を守る騎士団の健闘を祈りたい。
しばらく歩いて、案内されたのは割としっかりした作りの木の小屋だった。レンガじゃないけど、ワラの家じゃなくてよかった。
「遠慮しないで入ってけれ」
中は意外(失礼)な程きれいに片付けられていた。彼が座るのにぴったりそうなちょっと大きめのテーブルにイスが4つ。かまどの上には鉄で出来ているらしい寸胴のなべが置かれている。
「あっためるから…」とかまどに火を入れるマリエラ。あれ今の魔法か?
「荷物をおけってもなにももっていなそうだな。すぐ飯にすっから裏で手さ洗ってきな」とエリオットに言われ、素直にその言葉に従う。裏手に出るとたしかに川が流れていた。
すぐそばに立ってる小屋はもしかしてトイレだろうか?木戸を開けてみると確かにトイレだった。深い穴が掘ってあり、その深い穴の下には。川の水が引き入っているのか水が流れている。原始的水洗トイレか。
俺はちょっとトイレから川上に移動して水で手をゆすいだ。まあこの水量ならすぐ浄化されそうだね。
フローリアもマネしてパチャパチャしてる。水遊びじゃないんだがな。
部屋に戻ると、鍋からコトコトと良い匂いがしてきた。
「うちらで作った野菜さ煮込んだスープだ、肉は無いけどガマンしてな」
と言われたがトンでもない。今日の飯のアテもなかったのだ、ホントありがたい。
ニンジンみたいな根菜や、白菜みたいな葉野菜が大きめに刻まれて入ったスープだった。塩っけはあまり強くないが、なにか香草のようなモノで香り付けしてあって旨い。ちょっと硬いパンもスープに浸けて美味しく頂いた。
「これおいしー」とニンジンを抱えてハムスターのように齧っているフローリア。エリオット、マリエラと共に食事をしている。その光景がなんか暖かくて、ついホロリとしてしまった。なんかここの所涙もろいな俺。
「な、なに泣いてるのよ。そんなに食べてなかったの?」とマリエラちゃんが動揺して心配してくれている。
「マリエラの料理さうめーから、感動したんだべ」とわざとエリオットさんが陽気に囃し立てる。雰囲気を崩さないで済んだ。いや、マジありがたいわこの人(豚)。
マリエラは照れたように立ち上がると、
「じゃ、じゃあ今日は帰るわ。また明日来るわね、エリオット。あ、あなた。ユキヒロさんだっけ? ゴメン。本当は私を心配してくれたのよね、変な格好だからちょっと…疑っちゃったみたい。じゃあ」
とドアを開けて帰って行った。変な格好か。確かに彼らのシンプルな服に対して、俺はグリーンのジャンバー、背中には白いネコのトレードマーク。その下は作業着だ。ポリエステルは見たことないだろうし、
確かに変に見えるのか。そのうち服装もなんとかしないと奇異に見られるな。
って一緒に住んでるのかと思ったら違うのか。
「今年の収穫祭で祝言をあげるんだ」とちょっと照れたようにエリオットさん。おさなづまか! とビックリした声を上げると、
「オラも同い年だで」と返された。落ち着きすぎだろエリオット…。ん? って事は俺はもっと年下と思われてるってことか。
ちなみにフローリアはまだニンジンと格闘していた。食べ過ぎんなよ?




