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ある前世持ち侍女の納得いかない現状  作者: みあ
本編

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23/82

22 平穏は長く続かない

 王女と側仕えたちは、少数精鋭であるために結束が堅くなった。

 結びつくのに一役も二役も買ったのは、守るべき秘密が二つもあるからだ。

 そのひとつは、王女を守るために魔法に変わる手法を全員で研究することだ。

 レイドルの他に魔法使いのいないながら、時間がかかったとはいえ騎士服の解析ができたのは奇跡的なことかもしれないとアイリアは思う。主に作業したレイドルが優秀だったのだろうが、アイリアとしてはそれを補佐したシーリィの優秀さも信じている。

 補佐の補佐でしかないアイリアから見ても、彼女はそれまでに得た知識を活用しているように感じられたのだ。

 そして最終的には、解析結果を基に改良して装身具に魔法陣を仕込み、シーリィが魔力を通せば強固な防御結界を張るという品ができあがった。

 ただしその試作品は魔力の消費量が大きい一品で、魔法を使えもしないのに量が多いとされるシーリィの魔力でも長時間の維持が出来ないなど、問題はいくつか残ってはいたが。

 それでもいざという時の備えが出来たことは心を軽くさせたし、問題点これから潰していけばいいと考えている。

 それはさておき、もうひとつの秘密はもちろん、王女と従妹姫の交流を見守ることだ。

 そんな馴れ合いの日々は数年で様変わりすることになるのだが、その頃のアイリアたちは予測はしても差し迫ったものは感じてなどいなかった。

 変化のきっかけは、何年も続く静かな王位継承争いにじれた一派が強硬手段に出たことだ。

 王位継承問題がわき上がった当初は王女の周りの危険性を国王でさえ危ぶんだのに、それまでが平穏すぎたのだ――といえばそれまでだ。だが、渦中にあるこどもたちが馴れ合うように、親である国王と王弟もまた馴れ合いの中にいた。

 王位を娘にと主張する王弟殿下は、野望ではなく自らの正義感をもってそれを主張していた。

「ラストーズの王は魔法使いであるべきである」

 歴史上、ラストーズではそれが正論とされてきたことなのだ。

 第二王位継承権を有する自らではなく娘を推すのも、兄とそう変わらない年齢の自分が国王の退位後に即位する無駄を悟っているからだろう。

 そして、国王の翻意を促すのに時がかかっても構わないと、おそらくは考えている――と、いつだか予想したのはレイドルだ。

「国王陛下は、王としてはまだお若い。この先まだ在位は長いでしょう。下手な言動をすれば反逆ととられかねないので、王弟殿下はゆっくり説得しようと考えてらっしゃるのではないでしょうか」

「そうだと思うわよ」

 話を聞いてけろりとそれを認めたのは、その王弟の娘だった。

「シーリィねえさまを差し置いて私を王に据えようって時点ですでに反逆者のようなものだとは私は思うけど、出来るだけ穏便に話を進めたいんでしょ、お父さまは。だって、王位を簒奪したと他国に指さされたくなければ、自身の意見が正当なものだと伯父さまに納得してもらって穏便に王位継承順位を変更してもらうしかない」

 魔法を使えるようになり他より王位を望まれることになったレシィリアは当然のようにシーリィより濃密な教育を受けているのだった。

 そしてそれにうんざりして逃げ出して――そのうちの幾度かを、従姉との密会に費やしてもあまり疑問に思われない行動を取りながら、自分に王位を継ぐつもりはないという小さな主張をしているらしい。

 こんな具合で、まだ幼さが抜けきらない旗頭の当人はやる気を見せない上に、王弟がのんびり構え、国王が悠然と意志を曲げないようであるから……一部が強行的な手段にでたものだと思われる。




 アイリアは、それを愚かにも有事に悟った。

 王女の周りで起きかねない危険を父に知らされてからあまりに長い時が過ぎたため、きっと気が緩んでいたのだ。

 王位継承争いの渦中でありながら、ラストーズの中枢は仮初めの平穏を保っていたことがそうさせたのだと思うのは所詮は言い訳でしかないのだろう。

 王弟は王女の廃嫡を狙いそのために国王や王女との関係は良好とは言い難かったが、肉親の情がないわけではない様子だった。そのため物理的な行動にでるものがないか派閥の者に対して目を光らせていると皆が認識していた。

 だが、ラストーズが変わらず魔法国家であり続けて欲しいと思う者がすべて王弟派に取り込まれているわけではないことに意識を向ける者は多くなかった。

 そして、一部には数の勢いで押すわけではなく冷静に国王を説得して王女から王位継承権を移譲を果たそうとする王弟殿下の方針を認められない王弟派が存在することも。




 国王夫妻の外遊が決定したのは、シーリィが十七の冬であった。

 王妃の祖国の建国二百年の記念行事への招待状が国王夫妻に宛てて届いたのだ。

「よければ私にもと、あちらのおじいさまや叔父さまはお声をかけて下さったそうなのだけど」

 シーリィはアイリアを含めた側仕えに言った。

「自国での社交デビューも済ませていない私が、行ける訳ないよねえ」

 シーリィとアイリアの母の祖国であれば十七ともなればすでに社交慣れしていてもおかしくないのだが、いかんせんシーリィは何をするにせよ魔法が重視されるラストーズの魔法の使えぬ王女である。

 これがもとより魔法の期待されない武家の娘であれば、当然魔法が使えずとも年頃になれば問題なく社交界に出ることが可能であるのだが、王女である彼女はそうではない。

「お声がかりがあるのでしたら、記念式典へのご参加は可能なのではないでしょうか。まあ、うるさい者もいるかも知れませんが、お母上の母国の特別大きい式典に参加しない方が失礼だと退けられると思いますよ」

 レイドルが諦めきったシーリィの言葉に異論を挟んだが、結局考えを変えなかったシーリィは辞退することになった。

「内々に訪問したことは何度もあるけど、突然大きな式典に参加して失敗しない自信はないもの」

 それが彼女の出した結論だった。

 当人がそれで納得するのであれば、周囲が文句を言う筋ではない。

 ただ、王と王妃が共に外遊するとなれば、共に行かないシーリィの周りも慌ただしくなった。なぜならば、シーリィの専属騎士はセルクであるが、護衛任務の総てを一人でまかなうことは当然不可能であり、王女の護衛は王妃の騎士の手も大いに借りているからであった。

 国王陛下にも騎士がついているため、王妃殿下が護衛全員を連れていく必要はないとしても、だからといって全員置いていくわけにもいかない。

 調整に動くセルクも忙しそうではあるが、それに付き合う王妃の専属騎士筆頭のアイリアの父は他にも外遊の手はずを整えるために忙しそうであった。

 他ならぬアイリアとて、日頃の恩を返さんとばかりに母の指示に従い王妃の外遊準備に駆り出されることがある始末だった。出先で過不足ないよう入念な用意をするのは目を回るほどの忙しさだ。

 いつも通りであるのはシーリィとレイドルくらいだ。

 留守番をする王女は当然準備の必要はないし、主たる任が王女の指導である教育係も外遊に右往左往する必要がなかった。




 ようやく春の気配が訪れた頃、国王夫妻はたくさんの供を連れて旅立った。

 ようやくアイリアは少しばかり日常を取り戻しはしたが、常と違うことはいくつでもあった。

 個人的なことを第一に上げれば、アイリアの父母も王妃殿下の護衛と侍女として旅立ったので、屋敷に一人戻るよりはと城に常駐することにした。

 だいぶ成長したとはいえまだ幼い弟はこの機会に母方の親族と交流するため王妃殿下のご厚意で共に行く早々と決まっていたし、普段は借りている王妃の侍女の手も当人が不在の今借りにくく、夜の人手に不安があるというのも理由のひとつだった。

 王妃の侍女の大半はアイリアの母のように、王妃の母国から共に来たものであるので、この機会に共に旅立ったのだ。残る少しのラストーズの者も交代で休暇にはいるそうだから、あまり無理は言えない。

 仕事の時間は多少長くなるとも言えるが、気心の知れた乳兄弟と一緒に過ごす時間が増えてかえってうれしいくらいだとアイリアは思っていた。寝間着に着替えて温かなミルクを手に眠くなるまでお話しすることは思った以上に楽しいことだった。

 第二に上げるのは、落ち着くことなくせわしないセルクの多忙さだろうか。

 王妃殿下の旅の支度が整ったと同時に忙しさの落ち着いたアイリアに対して、彼の忙しさは変わるどころか増すばかりの様子だ。

 何故だろうと疑問を口にしたのはシーリィで、教育係らしくヒントを与えその答えを導かせたのはレイドルだった。

 武家筆頭のアートレス家当主――騎士団長でもあるセルクの父が国王の騎士として、それに次ぐファートレン家当主――騎士団の副団長でもあるアイリアの父が王妃の騎士として不在になった結果、王女の騎士でありアートレス家の次期当主であるセルクの責任がいつもより大幅に重くなったというのがその理由だった。

「俺の任務は、シーリィちゃんの護衛じゃなかったっけ?」

 朝に夕に出会うセルクはそうぼやいているが、日中はあちらこちらで動き回っているようで、自然と護衛の任は王女のために残された王妃の騎士が多くなっていく。

「父上だけでも先に帰ってこないかなああああああ」

 日増しにおふざけをしている余裕がなくなってしまうらしく、優秀であれど軽薄だと昔から噂されていた騎士は本当は真面目なのではないかと一部で噂されているようだ。

 本人が聞けば嫌な顔をしそうだとアイリアはつい考えてしまう。

 前に本人が冗談混じりで「本気を出せば俺に夢中になって仕事を放り出すお嬢さんが出てヤバい」などと言っていたが、問題はそういうことではない。

 アイリアはどうにも軽薄に見えて仕方ないセルクの言動が気に入らなくて気に入らなくてたまらないのだけど……付き合いが長くなれば、認めがたくとも受け入れざるをえないことがあるのだ。

 アイリアの認めがたいこととは、つまり。

 セルク・アートレスという男の本質は、やはり前世であるフェストとよく似ているのであろうということ。

 軽い言動が気に入らないのに、不意に真面目な様子を見せられると「彼」のようでついドキリとしてしまう――それがさらに気に入らないとアイリアは八つ当たりじみて感じるのだが。

 個人的な考えはさておき、セルクの何かと軽い言動はおそらく周囲に自分を侮らせるためのものだ。

 アイリアは武家では上の家柄の娘ではあるが社交に縁がない主に遠慮して、シーリィと同様表だった社交とは縁がないが、セルクは若くして騎士の叙任を得た一人前の男だ。ふらりふらりと女性の間を渡り歩くという噂にアイリアの両親は当初いい顔をしていなかったが、今ではそれが彼の処世術だと二人ともに認めているくらいだ。

 アイリア自身も、上位貴族の令嬢を相手にするときは到底自分の手には落ちてこない高嶺の花を諦めきれずにうろつく体を見せながら、その実彼女らを相手に言葉巧みに様々な情報を得ている――というようなことを、シーリィとレシィリアの交流のセッティングをする時にあれこれ妙案を出すセルクに質問することで推測できた。

 武家の既婚者相手に動くのだって、それはきっと武家でも力あるアートレスやファートレンほど表だっては動けない層を取り込まんとしているためではないかと感じ取れる。

 はじめ、彼に対して渋い顔をしていたアイリアの両親も、はっきりとは口にしないが今ではセルクのことを認めているような様子を見せるから、その推測は間違いではないようにアイリアは思えるのだ。

 王女付きになる遙か前から良くない噂があったのだから最初からそのつもりではなかったとも思うのだけど――セルクは、彼の前世は時を司る神に力を授けられた戦士だ。前世で未来を予測したように、現世であっても未来の事柄を予測して、足場を固めるよう動くための手段を講じることが出来ていてもおかしくないのではないかと、つい考えてしまう。

 ともあれ、長年おちゃらけた態度を装って情報を得やすい環境を作り上げていたというのに、ここに来て真面目な働きぶりで評判を覆すことになるのはセルクにとっては望ましいことではないかもしれないとアイリアは思うのだ。

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