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塔国のラユト  作者: 采火
継承編
26/34

25.潔さも時には必要

 ラユトは軽々と一階に着地すると、ぐーっと伸びをした。階段を飛び降りまくった割にはそんなに膝へ負担はかかってない。それこそがラユトの腕前の証明だ。


「ラユト」


 エレベーター近くで待機していたレーリィン達が駆け寄ってくる。ラユトはそちらへと顔を向けた。


「早かったな」

「まぁな。跳んできたし」

「ラユト殿、リュイは」

「さっき見たときは十九階にいたぞ」


 コダカが心配そうな顔でラユトに詰め寄る。そんなむさ苦しい顔を向けられるのはさすがに嫌なので避けつつ、ラユトは階段から離れる。すぐにリュイが現れるだろうから、ここにいては邪魔になる。


「ラユトの圧勝ではつまらないではないか」

「元盗賊に力つけさせるとかいう常識外れするよりいいじゃねぇか。それにハンデはやった」

「つーまーらーぬー」


 レーリィンが頬を膨らませて唇を尖らせるが、ラユトは気にしなかった。……いや、本当はちょっぴり気にした。クラメラの「姫様に対してなんていう態度ですか」オーラがひしひしと伝わってきたから。

 ラユト達が階段から少し離れたところに立って話していると、予想通りあまり長くは間をあけないでフラフラの状態のリュイが姿を見せた。


「リュイ!」


 コダカが駆け寄る。その巨躯で、おろおろとリュイの周りをうろついているのは物凄く奇妙だ。

 リュイは肩で息をしていて、大分疲労が溜まっているのが一目で分かった、が。コダカを通り越してリュイの瞳はひたとラユトを捉えた。心なしか殺気が込められている気がする。


「ガーデナー君、お疲れだったな」

「コダカ、お姫様、ちょっと退いて。オレ、にーちゃんに用あるから」


 いたわりの言葉をかけるレーリィンとコダカを退けて、リュイはゆらゆらとラユトに近づいてくる。がくがくと笑う膝を叱咤してラユトの目の前まで来ると、リュイはぐわりと口を開いた。


「なんだよアレ! せこい! 走ってねーじゃんか!」

「あぁ? でも俺の勝ちだろ」

「納得いかねええええええええええ!」


 いつも全力で叫ぶのはラユトの役なので、他人が全力で叫ぶのを見るのもたまにはいいなあと思った。けれど、リュイがあまりにもすごい形相で睨むので本題に答える。


「でもな。俺はテストで先に一階に降りた方が勝ちと言ったし、俺が先に着いちゃったし。だから俺の勝ち。よってテストは落第。文句は言わせねーぞ。ハンデやったし」

「テストのやり直しを要求する! よくよく考えれば体術関係ないじゃん!」


 リュイはどうしてもこのテストを認めたくないらしい。

 だけどラユトはこれっぽっちも優しくないので、諭すように現実を突きつける。


「ルミアの跳躍見ただろ? アレやるなら、階段飛び降りるくらいの度胸がねぇとな」

「くうううううう」


 リュイが心底悔しそうにするのを見て、ラユトは満足するが、これっぽっちも罪悪感などは湧かなかった。そんなに悔しがるほどの事なのだろうか。

 別にそんなに悔しがらなくとも、リュイにそんな技術は最初から無くてもいい。コダカがいるのだし、トロルを手名付けているのだし……とそこで、そのトロルを倒したのは自分だったと思い出す。


「……リュイ、姫様の前です。お行儀が悪いですよ」


 きっ、とリュイが窘めてきたクラメラを睨む。クラメラはそんな視線など目もくれなかったが。

 ラユトも用が済んだとばかりに抗議するリュイを適当にあしらいながら、クラメラに話しかけた。


「んじゃ、メイド長。俺ら仕事に戻るぞ。五十七階の掃除がもうすぐ終わりそうなんで、近いうちに五十八階の部屋鍵をもらいに行く」


 ラユトがリュイの襟を掴んで、リュイを肩に担ぐ。もちろんリュイは暴れるが、ラユトの腕はびくともしなかった。


「分かりました、用意しておきます」

「コダカ、上へ戻るぞ」


 クラメラが肯いたのを確認すると、ラユトはコダカを連れてエレベーターまで行く。


「こら、降ろせー!」

「やーなこった」


 バタバタとリュイが暴れるが、ラユトは涼しい顔だ。やはりコダカがちょっとだけおろおろとしている。いい加減その体躯でおろおろするのは似つかわしくないのでやめていただけないだろうか。

 エレベーターが来ると、ラユト達は乗り込む。そこで、レーリィン達が一緒に乗り込もうとしていないことに気づいた。


「姫さん、乗らないの?」

「私はこのまま温室に行くよ。ガーデナー達が手掛けてくれた庭が見たくてね」


 それを聞いてラユトは頷く。それからエレベーターの扉を閉めた。


「ではお先に失礼」


 一応主なので頭をわずかに下げて挨拶する。コダカもそれに習った。リュイはラユトに担がれているので無理だったが。

 レーリィンが小さく手を振る。

 エレベーターがゆっくりと上昇し始める。


「……おい、にーちゃん、マジで降ろせ」


 リュイが先ほどよりも低い、ドスの利いた声で言う。

 担いでいるので足だけしか見えないからか、それとも年齢や外見のせいか、ラユトは全然リュイの凄みが怖くなかった。


「却下。足、疲れてるだろ。俺の部屋で少し休んでから仕事にするからな」


 ラユトのちょっとだけ優しい提案にリュイが驚いた気配がした。コダカも少し安心した表情だ。

 リュイが暴れるのをふいにやめる。


「どうした? 暴れるのも疲れたか?」

「違う」


 すっぱり言い切られる。


「じゃあ、何なんだよ」

「……オレ、盗賊なんてしないでエルドに来てたらなって思った。」

「は?」

「そしたら、にーちゃんとももっと早く会えたのにな」

「今更じゃねーか」


 突然のリュイの態度の変化に、ラユトは少しだけ驚いた。しかし、


「でもオレは諦めねーぞ。仲間ができちまったから、絶対に強くなってやるっ」

「あっそ」


 ラユトに言うというよりは、自分自身に言い聞かせるような口調に、ラユトは苦笑するだけだ。

 リュイは知らない。ラユトが昔何をしていたか、どうして東聖霊倭国を出奔したか、何のためにエルド塔にたどり着いたか。

 それはリュイだけではなく、コダカもルミアも知らない事で。探し人以上に重要な事のためで。

 でもそれは誰かに乞われるまで誰にも話すつもりの無いことだから、今も特段、リュイの返事を軽く受け流すだけだった。

 もしリュイが盗賊にならずにエルド塔に来て平和に暮らしていたら、きっとラユトは彼との接点を持たなかった。ただそれだけの事だった。




コダカ「ラユト殿、どうかリュイをいじめてやらないでほしい」

ラユト「いじめてねぇよ」

コダカ「しかし、あのちっこいリュイを見てるとどうもな……」

リュイ「俺は別にいじめられてねぇしっ! ちっこくもねぇしっ!」


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