24.いかさまな解答
息を切らせつつ、リュイは二十四階を通り過ぎた。階を下がるほどに集中力がかけていくのを感じながら。
五十階の辺りは人がいなくて駆け降りやすかった。ただ踏み外さないようにすれば良いだけだった。
段々と人の多い階に行くにつれ、階段を上ってきたり降りてきたりする人が増えて、走りにくくなる。何度も出会い頭に衝突しかけるが、それでもリュイは器用にその人たちを避けて下へ降りていく。あちこちで小さな悲鳴が上がった。
リュイは本来いない者。すれ違うメイドや執事の中には訝しげな顔をする者もいたが、リュイは気にしないで駆け下りる。いちいち彼らの顔を伺う余裕は無いのだ。
そろそろ一分が過ぎる頃。
リュイは半分を過ぎた階段からふと意識を背ける。
最初の五階くらいは良かった。体力も存分にあって余裕だとさえ思えた。
十階くらいになると、目がチカチカしてきて階段を踏み外しそうになった。だんだんと階段の段差が騙し絵のように見えてきて、階段を降りるのが怖くなる瞬間もあった。
今ではもう息が上がっている。体力と精神力が根こそぎ奪われた結果だ。
もしかしたら階段を上れと言われた方が楽だったかもしれないと考える。階段を駆け降りるのは、思ったよりも集中力が必要だ。ちょっとでも意識をそらせば階段を踏み外してしまう。
「うわっ」
思ったそばから足を踏み外しそうになって、慌てて止まった。そして慎重に足を階段へとおろし、一度目を閉じてから開いて、階段を再び走り出す。
一段一段降りるのはまどろっこしくて二段飛ばして駆け降りているが、膝への負担がひどい。やっと二十三階を過ぎたな、と思ったら膝が笑っている。まだ半分あるのに。
ここまでしてでも強くなりたい理由がリュイにはあった。
コダカに拾われたばかりのリュイは、記憶をなくしているものの、他の盗賊と比べて頭が良かった。だから今まで体の代わりに頭を働かせてきた。物取りの時、少数精鋭で行くよう考えたのもリュイだ。万が一、失敗した時の為に他は茂みに隠れて待機した。足跡を錯乱させて根城の特定をさせなかった。
だが今回は、馬で追いかけてきた相手に対して堂々と突っ込んできた馬鹿がいた。慌てて待機していた仲間に指示を出して、リュイはトロルを連れてくることにした。だが結果として残ったのは、仲間を守れなかったという事実だけ。
仲間はそれでいいと言う。トロルを操っていてくれれば、いざという時に助かると言ってくれた奴もいる。だがそのトロルだって、ラユトを前に呆気なく倒された。
やはり自分自身に力がなければ、本当の一大事の時に仲間を守れないことが分かった。所詮盗賊で、罪人といえども、リュイは立派な思いやりの心があったから。
「二十階……!」
ここまで引きはがせば、ラユトもそんなに簡単に追いつけないと思った。余裕の笑みを浮かべて、でも手は抜かない。一段一段確実に下っていく。
しかし、
「きゃっ」
「うわっ」
上の階からメイドや執事の驚く声が聞こえた。
何だろうと踊場を過ぎた後の階段の途中で後ろを見ると、何かが踊場に着地した。
着地した影は執事服を翻し、膝ををバネのようにして力をためて、そして踊場から跳ぶ。
「え」
影が通り過ぎるときに見えたその横顔に、リュイは口をあんぐりとあける。
「に、にーちゃん!?」
「おおー、追いついたな」
ラユトは軽い口調で言うと、空中で身を捻って、後ろ向きに十九階の床に着地する。その器用さにリュイは改めてラユト自信も相当強いことを理解した。
「ま、頑張れー」
「えええええええ!?」
さらりとした表情のラユトに、リュイは愕然とする。アレは反則技だ。
ラユトが再び膝に力を込めて床を蹴る。軽やかに跳んで、一瞬でリュイの視界から消えた。
リュイははっとして足を動かす。ラユトの急な襲来に驚いたが、これはテストなのだ。テストに合格せねば、リュイは強くなれない。
十九階に降りると、ラユトの真似をしようと思って膝に力を入れる、が。
「無理だろコレ……」
さすがに十五段を一足で跳ぶなんて芸当は、リュイには無理だった。
リュイ「何だよこれ何だよこれ!」
ラユト「俺は一階まで行けって言ったんだ。五十七階から一階まで一気に飛び降りてやらなかっただけ良かったと思え」
リュイ「まじかよ…ガタガタ」




