68 対決(5)
68 対決(5)
「ほほう数分で済む、ですか。その自信が、恐らくは絶望に変わるでしょうよ。皆さん五分です! たったの五分でこの男を俺は倒して見せましょう。
四天王四人のうちの三人を倒したこの男を俺は五分以内に倒すことをお誓い申し上げる。あと、何分ですか? はははは、あと一分ですか。
皆さんはめったに見られない凄いショーを見ることが出来るのです。しかも無料でね。今日ここに来られた方々は大変幸せだ。さあ皆さん、あと何秒ですか?」
「40秒!」
剛毅は客達をすっかり味方に付けた気になっていた。
「一つだけ確認ですが特にルールは無いのですよね?」
「ああ、勿論だ。金的蹴りだろうが目つぶしだろうがすべてOKだ。やれたらの話だがな」
「分かりました、何があっても恨みっこなしですよ」
「くどい!」
妖鬼の自信満々の態度に剛毅は少しイラついたが、
『弱い犬ほど良く吠えるってね。ふふん、土下座して俺に許しを請う姿が目に見えるようだぜ!』
そう思うことでかすかな不安を振り切った。
「さてぼちぼち用意いたしましょう。照明をお願いします! お前たちもじっくりとみていなさい、世紀のショーをね」
「はい!」
クノ一達は速やかに暗くなった客席に戻った。
「10秒!」
徐々に剛毅と妖鬼は間合いを詰め、次第に緊迫した睨み合いになった。
「5! 4! 3! 2! 1! ゼロ!!」
ひときわ大きくゼロがコールされると剛毅、妖鬼ともに突進して行った。
「バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バ、バンッ!!」
「ぐあっ!!」
妖鬼の目にもとまらぬスピードの連続パンチが剛毅の顔面に炸裂した。鼻は潰れ、上下の歯のほとんどが折れ顎の骨も砕けていた。
「バーーーーーン!!」
剛毅は何も出来ないままあおむけに倒れた。それでも後頭部を強く打たない様に頭を少し前に傾けてかろうじて受け身を取ったが、その後失神した。
「きゃーーーーっ!!」
クノ一軍団は悲鳴を上げて舞台に駆け上がり、幕を下ろすように合図した。照明は元に戻されたが、場内は信じられないような出来事に相当ざわついていた。
妖鬼はすぐ客席に降りてウヅキのそばに行った。不測の事態を避ける為、なるべく早くその場を立ち去りたかったからである。しかしウヅキは言わずにはいられなかった。
「あ、あの、妖鬼さん、その、やり過ぎでは無いんですか。あそこまで痛めつけなくても」
ついさっきまで剛毅が叩きのめされることを望んでいたウヅキだったが、彼の顔面の悲惨な状況を見てついそう言ってしまった。
「いや、やり過ぎじゃありません。彼に勝つ方法があるとすればあれくらいしかないのです。彼は覚悟しなければならなかったのですよ。
そのことを彼自身が気が付いていないようなので気が付くように仕向けたつもりです。彼の奥の手をウヅキさんは知っていますか?」
「奥の手?」
「はい。一つは関節の伸び縮みです。この間は指先だけだったのですが、実際には彼の体の大半の関節は伸び縮みするのです」
「大半の関節が伸び縮みする?」
「そうです。それを知った方法については言えませんが、例えば腕の場合ですが、指先の他に手首やひじ、肩の関節までもが2センチくらいずつ伸びます。
四か所が2センチずつ伸びれば合計で8センチも伸びることになる。上級者になると相手のリーチなどを正確に見切って、ギリギリでかわせるようになるのですが、その為にかえって、彼の関節の伸び縮みの罠にはまることになる。
中級以下の者ならばそもそも彼の力なら関節の伸び縮みなど必要が無い。つまり無敵な訳です。その彼を打ち破る方法はただ一つ、一瞬で勝負を決めてしまうことです」
「関節を伸ばそうと考える前に気絶させることですか?」
「そうです。しかもまだ他にも幾つかあります。ですが後は自宅でお話ししましょう。この場にいると何か厄介なことになりそうですから」
しかし、少し遅かった。剛毅の部下たちがウヅキと妖鬼を取り囲んでいた。
「に、逃げろ!」
一般のお客達は我先にと逃げ出した。とんでもない修羅場になりそうだったからである。
「いい気になっているんじゃねえぞ!」
叫んだのは最初に剛毅と戦った時の審判だった柚子川という男だった。
「先生の敵はとらせて貰う!」
三人のクノ一のうち二人がいつの間にか妖鬼の近くにいた。その二人は背中に背負った刀を抜いた。普通は有り得ないのだが、彼女達の刀は真剣だった。
如何にもおもちゃの様に見えた鞘だったが中身は少し短めの本物の長刀である。偽物の様に見せていたのはそれこそがカムフラージュだったのだ。
「ウヅキ、下がっていろ!」
妖鬼は初めてウヅキに命令した。
「は、はい」
妖鬼のただならない様子にウヅキは従わざるを得なかった。剛毅の手下達には強い殺気が感じられ、本気で殺す気らしいことが分かったからでもある。
『残念だけど私は妖鬼さんの足手まといにしかならない。私がいるとかえって邪魔になる!』
そう感じて素早くその場を離れた。剛毅の手下達はウヅキを追っては来なかった。彼らにとって敵はただ一人妖鬼だけだったのだ。
「やれっ!」
柚子川の一声でおよそ十人程の男達が妖鬼に次々に襲い掛ったのだった。だが30秒とはかからずに全員倒されてしまった。妖鬼の素早い動きに誰一人ついて行けなかったのだ。
「死ね!」
その直後にクノ一二人がほぼ同時に刀で切りかかったのだったが、
「ぎゃっ!」
「痛い!」
二人ともほぼ一瞬で刀を持っていた手の骨を砕かれていた。劇痛でのたうち回っていて、もはや立ち上がる気力さえない。
「キエーーーッ!」
全員倒して安心して帰り始めた時だった。物陰に隠れていたクノ一の一人が背後から刀で切りかかって来たのである。
「うぐうっ!」
不覚にも妖鬼は背中にかなりの傷を負った。剛毅だけと思っていた関節の伸縮がそのクノ一の一人にもあって、届かないはずの刀が届いてしまったのだ。
『しまった、もう一人クノ一がいたのだった。てっきり剛毅に付き添っているとばかり思っていたのに! それにこの女の関節もかなり伸びて来たぞ。ちょっと甘かったか!』
「ガンッ!」
しかしそのクノ一も次の瞬間には妖鬼の一撃で頬の骨と歯を数本折られて悶絶した。
「ピーーーーッ!」
その直後、笛を鳴らしながら、どやどやと多くのガードマン達がVIPレストランに突入して来たのである。




