69 取り調べ
69 取り調べ
「またあなたですか。申し訳ないが今度は見逃す訳にはまいりませんぞ。大幹部の方々は居ませんし、格闘会の四天王の方はウヅキさんだけですよね。
いろいろ言いたいことはおありでしょうが、詰所の方までご同行願います。ああ、重傷のけが人を優先的に運んでくれ。地下のホスピタルに頼む。地上の医務室はもう満員だから」
朝に暴漢に襲われた時と同じガードマンだった。彼はリーダーらしく、あれこれ部下たちに指示していた。
「いや、お騒がせして申し訳ない。ただまあ、一応正当防衛だと思うのですが少々やり過ぎたかも知れない。ガードマンの詰所は地下でしたよね」
「はい。ウヅキさんもご同行願います。念の為に申しあげておきますが逃げたりなさらない様に。逃げた場合には原則として本土への強制送還がきまりですからね」
「はい。逃げるつもりはありません」
ウヅキと妖鬼とは大人しく地下のガードマン詰所に向かった。妖鬼はかなり大きく背中を切られたのだが、今は出血も止まり、痛みもほとんどなくなっていた。
詰所についてすぐ、
「妖鬼さんの傷の手当と着替えの服をお願いします」
ウヅキの申し出で応急手当と着替えが用意された。それから間もなく小部屋に通された。
「ここはまあ警察で言うところの取調室の様なものですが、一応任意同行に準じた扱いとなります。ただし、調べが終わるまでは原則帰宅できません。ウヅキさんならここの規則はご存知と思いますが、あなたは初めてですよね?」
「はい。生まれて初めてだと思います」
「取り調べは原則2時間。それがすんだら帰宅できますので、宜しいでしょうか?」
「はい。ただ、私にも黙秘権はあるのでしょうね。差しさわりのない事には答えられますが、事情があってすべてお話しすることは出来ませんから宜しくお願いします」
「あ、ま、まあ、いいでしょう。それでは始めます」
取り調べもリーダー格のガードマンがした。ウヅキは別室で女性の取調官に事情聴取されているらしい。
「まず、私は明屋ヨシオと申しますので宜しく」
「ああ、宜しくお願いします」
「それでは住所氏名と職業をおっしゃって下さい。学生さんの場合は高校生とか大学生とかでいいです」
「いきなり難問ですね。住所は記憶にありません。名前は皆さん私を妖鬼と呼んでおりますが、祖父は私を津下原陽気と呼んでいます。現在は無職です。学生でもありません」
「あのね、本土の自分の住所を言えばいいんですよ。ここでの住所は分からないかも知れないが本土の自宅の住所だったらわかるでしょう?」
「残念ながら私は記憶喪失らしくて全く覚えていません。これは幹部の方々に確認を取って頂ければわかることだと思いますが」
「ふざけるんじゃない! あんたは何人の人を病院送りにしたと思っているんだ!」
明屋は怒った。からかわれていると感じたのだ。
「困りましたね。知らないものは知らないのですよ。それと病院送りにしたといいますが、殆どが殺意のある連中ばかりですよ。それと怪我を覚悟の上の正式な試合です。咎めを受ける覚えはないのですが」
妖鬼は冷静だったのだが、その冷静さが明屋には気に入らなかった。
「あれだけの大けがを大勢にさせておいて、幾ら正当防衛だからといって、どうしてそんなに、しゃあしゃあとしていられるんですか!」
「ふうん、私だって結構な怪我をしているんですよ。ほらっ」
妖鬼は服を脱いで背中を見せた。妖鬼の入れ墨に斜めの切り跡がある。かなりの深手であることは間違いなさそうだったが、その割には至って元気なのだ。
「それは本物の刀キズなのかね。何だかついさっきついたばかりの刀キズには見えませんな。それにしてもまあ凄い入れ墨だねえ。ふん、入れ墨者は信用出来ないね」
「信用しようとすまいと事実は事実ですよ。それに傷は実際さっきつけられたものです。私はキズの治りがとても速いから古傷の様に見えるだけです」
「ああ言えば、こう言う。どうやらあなたには特別室がお似合いのようですな。君、この人を特別懺悔室に入れなさい!」
「し、しかし、それは幹部の方の許可が無いと」
「大丈夫。ここまで人を馬鹿にしたんですからね。正義は我にありですよ。事後承諾でも十分やれるはずですから。早く連れて行きなさい!」
明屋は怒鳴った。彼の部下数名がしぶしぶ妖鬼を特別懺悔室に入れて鍵を閉めた。そこは窓のない部屋だった。後はトイレしかない。明かりはトイレの場所がかすかに分かる程度。
「正直に言う気になったら、ドアを叩きなさい。もしここから出ても正直に言わなければ何度でもここに入れられますよ。断っておきますがここは二時間で出られる保証はありませんからね。
二時間で取り調べ終了と言うのはあくまでも正直に言った場合の話ですから。なお、ドア以外は叩いても無駄ですから。ほぼ完全な防音室ですからね。外からの音は一切入って来ませんから。
私の言葉もこれで聞き納めですよ。あとはもう全くの無音地獄になります。早く心を入れ替えてドアを叩きなさい。それではしばしさようなら」
それっきり確かに無音になった。自分の靴音だけがくっきりと聞こえる。
『ふう、やれやれ。椅子もないのか』
四畳半ほどの部屋の中にあるのは天井に小さな電球とあとは洋式トイレのみ。しばらくのんびり歩き回っていたが、
『さて、少し考えてみようか』
そう思って、洋式トイレの便座に座って考え始めた。
『まあ、ここのドア位なら簡単に破れるかも知れないがそんなことをしたら後が大変だ。しばしおとなしくしていよう。………ああ、静かだな。何だか家出した時の事を思い出すな。
あの時は音が沢山あった。虫の声が結構凄かった。でも静かに感じるんだよな。時々通る電車の轟音はそりゃ大きかった。でもその後はシーンって感じだったな。
何かものすごく寂しかった。はははは、未だにあの時の夢を見るよな。それとテストの夢。いつ見ても嫌な夢だ。当たり前のことだけど、ユキオ時代の夢が殆どだ。
俺は性格が変わったか? 少しだけど妖鬼の性格がにじみ出て来ている気がする。ま、まさかね。しかし、妖鬼はどうして二人の女子高生を殺したんだろう?
確か、法律は間に合わない、とか言っていたよな。あれってどういう意味だ? うーん、何とか真相を探り出す方法は無いかな?』
あれこれ考えているうちに座ったまま眠っていた。




