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 48 タンポポ(1)


                    48 タンポポ(1)


「ねえ、とっておきの情報があるんだけど、知りたくないかい?」

 少女はにやにや笑いながらユキオの顔を再び覗き込んだ。

「とっておきの情報?」

「ああ、すごく役に立つ情報さ。でも、ただという訳にはいかないんだよな。あたしね痩せてるけど、結構食うんだよ。よく言うだろう、痩せの大食いって。

 そのう、ご馳走してくれるとうれしいんだけどね。さっきの試合見てたよ、二戦して二勝。合計で十万イエン稼いだよね。ほんの一パーセントであたしのお腹は十分膨れるんだけどねえ」

「ふうん、だけど、若い女性がどうして今頃こんなところにいるんだ。ここで働いているんじゃないんだろう?」

 今は深夜二時。二十歳の女性のいる時間ではないし、何より場所がふさわしくない。


「その訳を知りたいでしょう? そういうことも含めて、お願い、焼きそばの大盛りおごって。ここのは安くてボリューム満点なんだからさ。五百イエンでいいんだよ」

「本当だったら情報を先に聞いて、それからおごるかどうか決めるんだけど、よほど腹が減っているんだよね?」

「そうなのよ。あたしの給料じゃ、自分の空腹を満たしきれないんだよ。無料の定食じゃ全然足りないし」

「ああ、分かった。じゃあ、どっかに座って、注文すればいい。俺はコーヒーにしておくから」

「よっしゃ、商談成立! じゃあ、こっちへ来て!」

 少女は飛ぶように走って行った。


「いや、しかし、参ったね。よく分からないから事情を聞いてみることにしようか」

 ユキオはぶつぶつと呟きながら少女の後に付いて行った。しかし、想像以上にレストラン内は広く、しかも複雑な作りになっている。少女の行った席はボックスタイプで、中に入ると、個室に近い感じになっている。

 

「あたしは焼きそばの大盛り。こちらはコーヒー」

 席に着くと少女は勝手に注文した。ウエートレスはニコリともせずに注文を受けると去って行った。


「しかし、ここの店は何だか妙に複雑なつくりだね。最初入った時にはリングは見えなかったし、リングの辺りからはここのボックス席は見えないよね。入り口からも見えないけど」

「まあ、最初はただのレストランだったんだけど、徐々に増築してこうなったのさ。あたしはここに来てからもう五年になるから、この島の事は相当に詳しいんだよ。

 そうそう、自己紹介してなかったね。あたしは通称タンポポ。よっぽど親しくならない限り本名は教えないよ。いいよね、まあ、他の人達も大抵そうなんだけどね」

 タンポポはやや真顔になって話し始めた。


「まずこの島の歴史から。といっても、さすがにそれは詳しくないよ。なんせ島の歴史は百年以上前からだそうだから、そんな古いことは私も知らない。

 ただ、ずっと昔ラブホテルで大もうけしたここの創始者の人がこの島を買いとって、理想郷を作ろうとしたのが始まりだったらしいんだけど、だんだん変貌して、ヤセールグループ、正式には津下原グループなんだろうけど、その連中と対立するようになって、今じゃ反ヤセールグループの本拠地みたいになっているんだよ」

「へえ、反ヤセールグループねえ」

「うん。ああ、来た来た、焼きそば来た!」

 そこでいったん話は中座した。相当空腹だったのだろう、タンポポは豪快に大盛り焼きそばを食べ始めあっという間に食べ終わった。


「ふう、美味かった。でもね、ヤセールグループは手ごわいんだよ。莫大な資金があるからね。だけど正義はこっちにあるんだよ。

 ダイエット薬のヤセールの副作用に泣いている多くの人の救済の為に日夜戦っているんだからね、これは本当だよ」

「そうらしいね。ただ、さっき大型ヘリコプターが来て大勢の人を下ろしたけど、あんなことがしょっちゅうあるのかな?」

「ああ、あれはまあ、月に三、四回くらいだよ。不定期にね」

「月に三、四回? とすれば単純計算で一年で7200人以上にもなるぞ。この島がパンクしちゃうんじゃないのか?」

 ユキオはちょっと驚いて言った。


「ああ、それはちょっと違うな。この島から本土へ行く連中も随分多いからね、実際はその十分の一以下の年七百人くらいの増加だって聞いてるよ。もっともそれは最近の話だって聞いてるけどね。以前はもっとずっと少なかったらしいよ」

「年七百人の増加! それだってすごい数だよ」

 ユキオは驚いて目をむいた。


「さあ、そろそろ、私に食事をおごったかいがあることになるよ。この島に今現在、何人ぐらいの人がいると思う?」

「うーん、はっきり分からないけど、千人ぐらいか?」

「いいや、このくらいだよ」

 タンポポは指三本で『3』を示して見せた。


「まさか、三千人?」

「一ケタ違うね。今現在でも三万人はいると聞いてるよ」

「ええええっ!! さ、三万人!!」

 ユキオは仰天した。


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