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 46 リング(2)


                    46 リング(2)


「へへえ、強いね。あんたが噂の妖鬼さんなんだろう?」

 黒っぽいシャツを着た若い男が不意に現れて言った。

「あ、ま、まあね」

「どうだい俺といっちょうやってみないか。ただし、あんたは強いんだ。素手じゃ勝てねえからさ、俺はこれを使うんだがね」

 若い男は皮肉っぽい笑顔を見せながら、右手に棍棒のようなものを持って、

「ビュッ! ビュッ! ビュッ!」

 振って見せた。バトントワリングのバトンの様に両端に球がくっついている。


「あ、いやいやそれはちょっと、武器と素手との戦いは認められませんぞ」

 マスターがちょっと慌てて割って入って来た。

「しかしこのままじゃ賭けにならんでしょう、天下グループの四天王と互角に渡り合ったほどの男なんですぜマスター」

「ううむ、そ、それならこうしましょう。ヨーキ君、あ、いや、妖鬼さんなんですよね」

「はい、最初からそう言っていますけど」

「はははは、どうも、イメージが違っていたものですからね、まさか君が妖鬼君だったとはね。いや、それはさておき、妖鬼さんも獲物を持って下さらんか」

 マスターには何か考えがあるようである。


「マスターそれじゃあ、勝負にならないと思いますけど、………」

 ユキノが今度は口を挟んだ。

「いや、違うんだ。ここに私のバンドがある。ええと、利き腕は右かね妖鬼君?」

 マスターは自分のズボンのバンドを外して聞いた。


「はい、右利きですが」

「このバンドを右手に持ちたまえ」

「はい、………」

「そのバンドを武器にするのか?」

 今度は黒シャツの男が言った。


「ええい、話は最後まで聞きなさい! 妖鬼君はハンディとしてこのバンドを持った右手で攻撃してはならないことにするのじゃよ」

「えええっ!」

 マスターの提案に当事者ばかりでなく、その周囲の者も驚きの声をあげた。


「へへへへ、有難過ぎて涙が出そうだぜ。まあ、しかし、幾らなんでも飲まねえだろう、ここまでのハンディ戦」

「分かりましたやってみましょう。ああ、でも一つだけ、そのバトンみたいなやつは特別な仕掛けがありますか、たとえば、その球が飛び出すとか」

 ユキオは剛毅との一戦で仕掛けに対して敏感になっていたのである。


「はははは、こいつはただの鉄の棒だぜ。先が丸いのは振った時の威力を増す為さ。どうせ試合は録画されるんだ。からくりがあればすぐばれる。

 それよりあんたが違反しないか俺はその方が心配だがね。ああ、俺はまだ名乗っていなかったな。俺は通称バトラー。バトンを使う者という意味なんだが、執事という意味もあるらしい。しかし、執事じゃねえからな」

「それじゃ、今の条件で試合をして貰うよ。どちらかが気絶するかギブアップするかリングから下に降りてしまうかしたら負けだ。

 ただし、10分経っても決着がつかなければ、両者負けにする。いいね、このルールで。当然のことだが負けたら賞金は出ないからね。さあ、みんな聞いての通りだ。

 四天王と互角の力を持つ妖鬼君と必殺の武器を持つバトラーとの一戦だ。さあさあ、どんどん賭けてくれ、さあ、賭けてくれ!」

 マスターは再びマイクを取り出して、皆の気持ちをあおって賭けに参加させた。40人程の参加者があった。しかも賭け金は先ほどのカイザーの時より一人頭の金額がはるかに多かった。


「だ、大丈夫なの? あれは鉄の棒よ。当たったら骨が砕けるわよ」

 ユキノはいかにも心配そうに言った。

「まあ、大丈夫ですよ。鋼鉄の指と戦ったことがありますから」

「えっ、鋼鉄の指?」

「はははは、そのうちに詳しくお話ししますよ。じゃあ、マスター、バンドをしばらくお借りします。まあ、ただ持っているだけですけどね」

 言いながら、ユキオは相手の戦略を考えていた。鉄の棒に仕掛けはなさそうである。しかし使い方は様々ある。ほぼすべてのパターンをその時点で読み切っていた。


「それじゃ、制限時間10分、さあ、始めてくれ!」

 マスターの合図で試合が始まったはずだったが、

「ビュンッ!!」

 マスターの合図より一瞬早く、バトラーは鉄の棒を激しく縦に回転させて、妖鬼に投げつけたのだった。そのスピードは速くとてもかわし切れそうに見えなかった。


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