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 35 妖鬼のパワー(1)


                    35 妖鬼のパワー(1)


「妖鬼様、お先にお風呂にお入り下さい。広くていいお風呂ですよ」

 自宅に帰って来たウヅキはちょっと遠慮して言った。

「いや、失礼かもしれんけど、ウヅキさんあなたは汗にまみれている。あんたが先に入った方がいいよ。俺はテレビでも見ているから」

「で、でも、………分かりました。じゃあ、お先に失礼します」

 ウヅキは簡単に引き下がった。確かに自分は汗だらけなのだ。しかし床や壁に叩きつけられたダメージはさほど残っていない。日頃の修練の賜物たまものでもあるのだが、

『悔しいけど、妖鬼様が手加減してくれなかったら、今頃大けがで病院送りになっていたわね』

 そう思うとあまり喜べなかった。


 しばらくして、風呂から上がったウヅキは早速妖鬼に声を掛けた。

「妖鬼様どうぞ、あの、夕ご飯の支度をしておきますから、その、湯上りにビールはいかがかしら」

「俺はまだ十八だからね。遠慮しておくよ。ウヅキさんはどうぞ飲んで下さい」

「いえ、妖鬼様が飲まないのに私だけ飲む訳には。夕ご飯はステーキ辺りでどうでしょうか?」

「ああ、お任せするよ」

 夕飯のメニューが決まったところで、ユキオは風呂に入った。


 風呂場の中に大きな鏡が幾つもつけてある。背中の入れ墨を確認して見たり、筋肉の付き具合を見た。

「入れ墨は相変わらず墨で描いたみたいに黒々としているな。ふうむ、筋肉隆々とはこのことだな。日に日に筋肉がついて来ている感じだぞ。

 そのうちに筋肉のお化けみたいになってしまうんじゃないのか? いや、幾らなんでもそれはないと思うが………。それにしても本当はどのくらいの能力があるんだ?」

 ユキオは妖鬼の肉体の限界を知りたくなった。


「えいっ!」

 かなり力を込めて垂直跳びをしてみた。

「おっと、危ない!」

 危なく天井に激突するところだった。両腕で柔らかく天井を押さえてふわりと風呂場のタイルの上に降り立った。一般の住宅より、風呂場の天井はかなり高く、3.5メートルほどはある。


「多分、垂直跳びは軽く1メートルを超えているな。ひょっとすると2メートル以上かもしれんぞ」

 幾ら広いと言っても風呂場は風呂場である。垂直跳びで懲りて、体力測定は断念することにした。その後は普通に体を洗い、湯につかって風呂から上がった。


「さあ、どうぞ召し上がれ。肉厚大判のステーキとてんこ盛りの野菜サラダ。それとこってりしたスープ、更に色々なチーズよ」

 ウヅキは楽しそうに食事を始めた。もやもやした感情は今は忘れている様である。


「でも、妖鬼様はどこで格闘技を学ばれたのかしら?」

 食事も終わりに近づいた頃、突然言い出した。

「ふーむ、特にやった覚えはないけどね。今日やったのは見よう見まねで、と言うか、何となくやってみただけなんだけどね。格闘技は見るのは好きで何回か見たことがあったからね」

 確かにユキオは格闘技は何度もテレビで見たことがあった。


「えっ、じゃあ、本格的に練習したことは無いんですか?」

 ウヅキは目を丸くして驚いている。

「ああ、そういうことになるかな。スイーツ研究所を出てから何故だかどんどん筋力がアップしている感じなんだよ。どの位の能力があるのか一度測定してみたいくらいだよ」

 言ってからユキオは後悔した。

『しまった、言わなきゃよかった。ウヅキさん本気にするぞ!』

 

「そう、そうよね。今日はもう寝るとして、明日は体力測定をしてみましょうよ。ちゃんと用具が揃ったところがあるのよ。体育館のそばにね」

 ウヅキはもうすっかりその気である。


「じゃあ、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 しばらくして、二人は別々の部屋で眠ることになった。ベッドの部屋はちゃんと二つ用意してあったのだ。無論、一緒に寝ようと思えばできなくもないが、ユキオには全くその気はない。

 ウヅキには多少その気はあったが、妖鬼の恐るべき強さに接してからは、対等の意識を持つことは出来なくて、自分から別室で眠ることを提言した。


『それでも、ドアに鍵はかけてないんだから、私の所に入ってくれば来れるんだけどな』

 一縷いちるの望みは持っていたのだったが、結局朝まで何もなかった。


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