34 ウヅキのパワー(3)
34 ウヅキのパワー(3)
「あはははは、参ったなこりゃ」
ユキオは先ほどの戦いで自分が想像以上に素早く動けることに気が付いた。
『まるっきり、スローモーションみたいだったな、あの、伊香来君の動きは。おっと、ウヅキさんはさすがに速いけど、かわしてかわせないことはないね』
ユキオは今度も三分間逃げ切る積りだったのだが、
「卑怯者! 攻撃しろ!」
ウヅキは今までと自分に対する態度が別人のようだった。顔に激しい怒りの表情が現れている。
『最後まで逃げ切れそうだけど、余り怒らせるのもまずいかな。仕方ない、攻撃するか』
そう思って、
「ほれっ!」
目にもとまらぬほど素早い回し蹴りで足元をすくった。骨折などしないための配慮だったのだが、
「あーーーーーっ!」
ウヅキの体はかなり高く宙に舞ったのだった。
「バーーーーンッ!!」
かろうじて受け身を取ったが、床に叩きつけられた形になった。全身が痛くて、十秒余り起き上がれなかった。
「う、ぐ、ぐ、ぐ、ま、まだまだ!」
必死の思いで立ち上がったが、フラフラである。
「そらっ!」
ユキオが今度は後ろに回り込んで手の平で一突きした。これならば宙に舞うことは無いと思ったのだが、
「うわあっ! あ、あ、あ、あ、」
前にのめってのめって、止められなくなった。
「バーーーーーンッ!!」
今度は壁に激突、その反動でひっくり返った。またしてもしばらく動けなかったが、
「はい、時間です。い、今のは、その、妖鬼様の勝ちとなりましょうか」
多良橋は時間切れを伝えた。妖鬼の勝ちと断定しなかったのは、再びウヅキが起き上がって来たからだった。
「ううう、あ、あたしの負けだよ。妖鬼様は本当に強い。男子の四天王でもひょっとすると勝てないかも知れない。ど、どうしてそんなに強いのですか。何だか話が違うような気がする」
ウヅキの目には複雑な思いが見えていた。強いあこがれを通り越して、逆に疑念が生じていたのだ。
「どうしてと言われてもよく分からんな。スイーツ研究所で何かされたのかも知れない。まあ、とにかく、ここはこれで終わりでいいでしょう?」
ユキオは速くその場を去りたかった。多良橋や伊香来は、畏敬の念というよりも、何か化け物でも見るような目に変わっていたのである。その目がユキオには辛かった。
『完全にやり過ぎてしまった。ああ、しかし、ここまで強力なパワーが付いていたとは、うかつだったな、このパワーも心を読めることも、当分は封印した方が良さそうだぞ』
そう思って、控室に入り、着替えて、
「ウヅキさん、大丈夫か。あの、俺、他に用がないんだったら自宅の方に帰るけど、どうする?」
ようやく体力の回復したウヅキを促した。
「ああ、分かったわ。ちょっと汗をかいちゃったし、自宅で風呂に入ればいいわね。それじゃ、多良橋さん、今日は有難うございました。
それでその、妖鬼様の事だけは内緒にしておいて欲しいんだけど、良いわよね。大事なお客様だから、余り事を荒立てたりしないように」
「はい、承知しました。伊香来君もいいね。ウヅキ様のことは言ってもいいが、妖鬼様の事は何も言っちゃいけませんよ」
「わ、分かりました。口が裂けても言いませんから」
半分は本心だった。ウヅキでさえ恐ろしいほど強いのだ。しかし、その彼女を手玉に取った妖鬼の強さとなるともう殆ど神様レベルだと思った。
『でも、誰かに話したい。ああ、誰かに話したい、話したい!』
伊香来はその欲求を必死になってこらえていた。




