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冬に咲く薔薇は、誰のものでもない ── 愛と支配の物語 ──  作者: 宵待 桜


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Chapter Seven La Distance qui Rétrécit


三日後、夜会があった。


いつも通りにやればいい。


微笑んで、話して、人を読んで、盤面を動かす。


私はずっとそうやってきた。


暗殺未遂の一つや二つで変わるものなど、何もない。


そう思いながら、広間に入った。


最初の一時間は、いつも通りだった。


令嬢たちと話し、夫人たちの間に流れる噂を拾い、誰かの婚約話の裏を読んだ。


いつもの夜会の、いつもの私のはずだった。


ベネディクトが広間に入ってくるまでは。


気づいたのは周囲の空気が変わったからだ。


彼が現れると、いつもそうなる。


人々の視線が自然と吸い寄せられて、会話の温度が少し変わる。


私はその変化で彼の存在に気づいたけれど振り返らなかった。


振り返る必要はないと思っているのに、それなのに意識が向いた。



話し相手の令嬢が何かを言っていたので相槌を打った。


内容は半分しか入ってこなかった。


ベネディクトが今どこにいるか、誰と話しているか、なぜかそちらが気になって仕方なかった。


何をしているの、私は…と自分に言い聞かせた。


今夜やるべきことがあるから集中しないといけない。


ダリウス侯爵の動きを私はこの目で確認しなければならないから。


そのための情報をまだ集め切れていない。


これまで一度もなかったことなのに気が散ってしまった。


社交界の場で、私は常に全神経を盤面に向けていた。


誰かに気を取られて集中を欠くなど、考えたこともなかった。


それが今夜に限って、広間の向こう側にいる白銀の髪を、何度も目で追っていた。


気づいた時には、グラスを持つ手が止まっていた。




✦ ✦ ✦




広間を抜けて、テラスへ出た。


少し頭を冷やす必要があると思ったから。


夜風が冷たくて心地いい。


庭園の向こうに、街の灯りが見える。


ここまで来れば、喧騒が遠くなる。


一人でいられる、と思った。


「逃げてきたのかな」


振り返ると、ベネディクトがいた。


テラスの端、手すりに軽く寄りかかって、こちらを見ていた。


いつから来ていたのか、まったく気配がなかった。


「逃げてなどいないわ」


「そう」


彼は特に疑う様子もなく頷いた。


それから手すりから離れて、私の隣に並んだ。


広間と同じ距離感だった。


遠からず、近からず。


しばらく、二人とも黙って庭園を眺めた。


風が木々を揺らす音がする。


広間の音楽が、壁越しに薄く聞こえてくる。


不思議と、黙っていることが苦にならなかった。


「集中できていなかったでしょう」


「……見ていたの」


「少し」


腹が立った。


腹が立って、それと同時に、なぜか少し可笑しかった。


この人はいつもそうだ。


こちらが気づいていないと思っているものを、全部見ている。


「無礼ですわね」


「そうかもしれない。でも、心配していた」


その言葉が、予想外の角度から来た。


この人の口からその言葉が出ると、どう受け取ればいいか分からなくなる。


武器でもなく、駆け引きでもなく、ただそのままの意味で言っているように聞こえるから。


「……慣れていないのです。心配される、というのに」


言ってから、余計なことを言ったと思った。


こんなことを口にするつもりはなかった。


ただ、夜風と静けさのせいで、何かが緩んだのかもしれない。


「知っているよ」


同情でも慰めでもなく、ただ『知っている』とだけ言った。


それが不思議と、どんな言葉よりも落ち着いた。


私たちはまたしばらく、並んで庭園を眺めた。


遠くで誰かが笑う声がする。


夜風が、また髪を揺らした。


居心地が悪い。


そう思ったけどテラスを離れなかった。


離れる理由が、その時の私には見つからなかった。


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