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冬に咲く薔薇は誰のものでもない ─ 愛と支配の物語 ─  作者: 宵待 桜


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Chapter Twenty-Four Les Fils qui se Tissent


翌朝から、私は動いた。


まずレオンに詳細を集めさせた。


外国の商人の名前、どの貴族と接触しているか、ヴァレンタイン家との関わりがどこから来ているのか。


それと並行して、マルグリットに最近の社交界の水面下の動きを調べるよう頼んだ。


ダリウス侯爵が去った後の宰相派が、どう再編成されようとしているのか。


ベネディクトには、その日のうちに文を送った。


新たな動きについて、一度話したい、と。


思いの外、返事は早かった。


今夜、ローゼンベルク家に来るようにと。


夜、訪ねるとベネディクトはすでに資料を広げていた。


私が文を送る前から、何かを調べていたらしかった。


「早いのね」


「レオン殿から話が漏れてきていたからね。情報の流れが早い人だ」


「使いやすい人だから。それで何が分かったことはある?」


ベネディクトは資料を示した。


「商人の名前はヴィクトル・モロー。隣国アルドワの出身で表向きは織物の取引をしている。ただ実態は情報の売買に近い。複数の国の貴族と繋がりを持っていて政治的な仲介を得意としている事がわかったよ」


「なぜ宰相派と?」


「ダリウス侯爵が失脚した後、宰相派の一部が外部の力を借りようとしている。モローはその需要に応えた形だ」


「なるほど」


「ヴァレンタイン家との関わりについては、まだ輪郭しか見えていない。ただ、モローが最近ヴァレンタイン家に関する情報を収集しているという話が入っている」


「ヴァレンタイン家の何を調べているのかしら」


「それが分からない。ただ、表向きの情報ではなく内側の話を集めようとしているらしい」


内側の話。


それはつまり、外からは見えない部分を探っているということだ。


ヴァレンタイン家の内側を知っている人間は限られている。


家族、使用人、そして長年仕えてきた者たち。


誰かを通じて、情報が漏れている可能性がある。


その考えが浮かんで、私はすぐに頭の隅に置いた。


今はまだ証拠がなく憶測で動くのは、ヴァレンタイン家のやり方ではない。


「引き続き調べましょう。モローの動きと、宰相派との繋がりをもう少し詳しく」


「同じことを考えていた。ローゼンベルク家の外交ルートから、モローについて当たってみる」


「ありがとう」


「こちらこそ。いつも、一緒に考えてくれて」


その言葉が、今日は少し違う響きを持って届いた。


一緒に考えてくれて。


この人は、私のことをそう思っているのだ。


対等な相手として。


それが、思ったより深く胸に沁みた。




✦ ✦ ✦




帰る前に、少しだけ時間があった。


話し合いが早く終わったから。


ローゼンベルク家の庭園に出た。


先日の夕方とは違って今夜は月のない暗い夜だった。


でも、寒くはなかった。


春が近い。


空気の質が、少し変わってきている。


「シェリー、最近顔色がいいね」


「そう?」


「ダリウス侯爵の件の前と比べると、随分と」


「色々と落ち着いたから。あなたのおかげでもあるわ」


ベネディクトは、ただ横に立ったまま、暗い庭園を眺めていた。


その沈黙が、今日は重くなかった。


むしろ、温かかった。


「シェリーの庭の薔薇、少し大きくなっただろうね」


「そうね。今朝見たら芽が随分と育っていたわ」


「春が来るのが楽しみだ。必ず咲く」


その言葉が、薔薇の話だけではない気がした。


でも今日は、確認しなかった。


確認しなくても、分かっていたから。




✦ ✦ ✦




翌朝、母の部屋へ立ち寄った。


特に用事はなかったが昨日の情報収集の疲れを少し、母の部屋の静けさで癒したかった。


母は刺繍をしており、私が入ると針を置いて微笑んだ。


「ナタリー、ミシェルローズのお茶も用意してちょうだい」


「かしこまりました。奥様」


母とお茶を飲みながら他愛のない話をした。


その間、ナタリーは静かにそこにいた。


長年この部屋にいる人間の自然な存在感で。


帰り際、私はナタリーに軽く会釈した。


「いつもありがとう」


「もったいないお言葉です。お嬢様」


彼女は柔らかく微笑んだ。


廊下を歩きながら、私は昨夜ベネディクトと話した内容を思い返した。


内側の情報を集めようとしている者がいる。


でも今のところ、証拠はない。


穏やかな朝だった。


でも、どこかに何かが潜んでいる予感が薄く静かに漂っていた。


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