美の神、盛りすぎ。
――異空間。
そこはただただ広く、無機質な白い壁、床。
音も無く、匂いも何も感じない。
「――ナ……」
声が聞こえた。
ダーク (震える声で)
「――クソッ……
ティナ!目を覚ましてくれッ!」
ティナ
「う〜ん……あと5分……」
ダーク
「起きろォォ!!!」
ティナ (飛び起き)
「って、ダーク君!?」
ダーク
「やっと起きたか……」
ティナ (辺りを見渡す)
「わたし、なんでこんなところで寝てたんだっけ……」
ティナ
「たしか、神社でお参りして……
そしたら急にグンッ!てなって……」
ティナ (ハッとして)
「……ダーク君。」
ダーク
「……なんだ?」
ティナ (ジト目)
「もしかして……
わたしのこと、攫った?」
ダーク
「ちちち、違うわッ!!」
ダーク
「……俺も、目が覚めたらここにいた……」
ティナ
「そうなんだ。そういえばカレンは?」
ダーク
「いない。
この空間に連れてこられたのは、どうやら俺らだけらしい。」
ティナ
「そっか……
カレン、大丈夫かなぁ……泣いてないといいけど……」
さっきまで握っていた手を見つめる。
――ほんのりカレンの手汗が残っていた。
ティナ
「……(ふきふき)」
スカートで手を拭う。
ダーク
「……今の流れで拭くか?普通。」
ティナ
「手汗は別問題だから。」
……
ティナ
「さ、じゃぁ出口探そ?」
ダーク
「……フッ
謎の空間からの脱出か……
面白くなってきたな……」
ティナ
「はいはい。
じゃぁ行こっか!」
――2人、出口を探して歩き出す。
---
異空間を壁伝いに歩く2人。
ティナ
「……ねぇ。」
ダーク
「……なんだ?」
ティナ
「多分だけど、一周したよね?」
ダーク
「……そうだな。」
ティナ
「出口どころか、窓すらなかったよね?」
ダーク
「……フッ
ここは閉ざされた空間ということか……」
ティナ
「いやいやいや!
パンドラとか言ってる場合じゃないでしょ!
完全に詰みじゃん!」
ダーク
「……安心しろ。
出口は必ずある。」
ティナ
「どこに!?」
ダーク
「……」
――その時、足音が聞こえた。
――コツッ
――コツッ、コツッ
ティナ
「だ、誰……?」
ダーク
「……下がれ、ティナ。」
2人の呼吸が浅くなる。“足音だけ”が近づいてくる。
――コツ、コツ、コツ
近い。どこからかふわりとバラの香りがする。
ティナ (ガクブル)
「こわいこわいこわいこわいっ!」
真っ白な空間の中、ヒールの形の“濡れた足跡”が1つ――また1つ、2人の前まで。
ダーク
「……ティナ。
何か武器になる物を用意しろ……」
ティナ
「武器になる物って……」
バッグを漁る。教科書、ノート、干し芋――
そして芋けんぴ。
ティナ (芋けんぴを握りしめながら)
「く、来るなら来いッ!!」
……音が止む。静寂。
ティナ (震えながら)
「……どっか行った?」
ダーク
「あぁ、恐らくは――」
その時、背後から微かに――
「いらっしゃ〜〜い♡」
2人、バッと振り返る。
誰もいない。
ティナ
「誰……今の声……」
ダーク、右腕の包帯をほどき始める。
――が、手が震えて中々ほどけない。
ダーク (ガタガタ)
「……フッ
ついに怪異のお出ましか……」
???
「ちょっとぉ、こっちこっちぃ〜♡」
2人が正面に振り返ると、そこには身長190cmはあるであろう、長身の人物が。
黒髪ボブにピンクのメッシュを入れ、紫のスパンコールドレスを着ている。
ドレスの谷間からは鍛え抜かれた胸筋がチラ見えしてセクシー。
???
「やだぁ♡
可愛い子が2人も来ちゃったじゃなぁ〜い♡」
ティナ
「で、出たぁぁぁあ!!!」
ティナ
「てか、男の人!?女の人!?どっち!?」
???
「ん〜♡どっちも♡」
ティナ
「色んな意味で“怪異”!!」
ダーク、やっと包帯をほどく。
ダーク
「ティナ、後ろに下がれッ!」
ダーク
「出でよ!
暗黒竜ダークドラゴンッ!!」
……
???
「あらぁ?♡」
ティナ
「……やっぱ出ないじゃん。」
ダーク
「クソッ……」
??? (指パッチン)
「ふふッ♡」
その時、ダークの右腕に暗黒オーラが集結。
オーラが次第にダークの右腕を包み込んでいく。
ダーク
「……ッ!?
な、なんだこれは……!?」
次第にオーラが大きくなりダークの全身を包み込む!
そして――
――ズドォォォォンッ!!!
オーラが晴れる。そこには漆黒に輝く一匹のドラゴン。
ティナ
「……え、マジで……?」
ダーク (目が輝く)
「……本当に……出た……」
ドラゴン
「……グルルッ」
???
「キャーッ♡
ねぇちょっと見てこのドラゴンちゃんの鱗!
ネイルのグロスブラックよりツヤッツヤじゃなぁい?♡」
ドラゴン
「グルッ?」
???
「しかもこのまつ毛!めっちゃ長くないッ!?
とりあえずビューラーで上向きにしましょぉ〜♡」
ドラゴン、謎のオネエにされるがままである。
???
「お待たせぇ〜♡
世界を救う“向上心爆アゲまつ毛”の完成でぇ〜す♡」
オネエ、手鏡をドラゴンに差し出す。
ドラゴン (鏡を見つめて)
「グルルッ!? (こ、これが我!?)」
???
「さらにさらに、仕上げにちょっとラメ撒きまぁ〜す♡」
キラキラキラキラッ――
ドラゴン 、漆黒の鱗にラメが反射、輝きが増す。
ドラゴン
「グルゥ…… (美しい……)」
ティナ
「何ここ、ペットサロン?」
ダーク
「……フッ
暗黒竜、そいつを焼き払え!
暗黒豪炎!!」
ドラゴン (首を横に振る)
「断る。
“このお方”は我に恐怖せず、我の存在を認めてくれた。」
ティナ
「喋ったァ!?」
ドラゴン
「ドラゴン族にとって会話など容易いもの……
我らを――いや、アタシらをなめないでちょうだい。」
ティナ
「ドラゴンがオネエに侵食され始めた!?」
ダーク
「なぜだッ!
主は俺のはずだろう!?」
ドラゴン
「だってアンタ、美意識無いじゃない。
とりあえず前髪切ったら?」
ダーク (膝から崩れ落ちる)
「……くっ……」
ティナ
「わたしは一体何を見せられてるの?
てか何ここ、美意識で強者が決まる世界?」
???
「そそ、正解ぃ〜♡
ここはアタシが作った世界♡
願ったものがなんでも叶う世界なの♡」
ティナ
「って事は、オネエさんが神様ってこと?」
ガーちゃん
「まっそんな感じじゃなぁ〜い?
アタシの名前はガルブ・メーランゴイス♡
ガーちゃんって呼んでいいわよ♡」
ティナ
「じゃぁガーちゃん!
元の世界に帰してよ!」
ガーちゃん
「だぁ〜め♡
だってアンタの願い、まだ叶ってないじゃない♡」
ダーク
「俺は……“暗黒竜が召喚できるように”と願ったが……」
ドラゴン
「アンタの前髪、アタシが切ってあげようか?」
ダーク
「思ってた暗黒竜と違うッ!!
……ティナは?何を願った?」
ティナ
「わたし?
わたしは――」
……
ティナ (ちょっと恥ずかしそうに)
「もうちょい可愛くなりたい……とか、なんか楽しいこと起きますように……とか。」
ガーちゃん
「でしょぉ〜?
アンタまだ可愛くなれてないじゃなぁい?
ここはアタシに任せてぇん♡」
ガーちゃん、またまた指パッチン。
真っ白の異空間に突然、椅子と鏡が出現。
ティナ
「何これ、美容院セット?」
ガーちゃん
「アタシ、ヘアセットとかメイクアップ得意なの♡
他の神様の髪の毛いじったりしてるんだからぁ♡
ほら、エルフちゃん、早く座って?♡」
ティナ
「こわ……本当に大丈夫……?」
ガーちゃん
「大丈夫大丈夫♡
アタシを信じなさ〜い♡」
ティナ
「じゃぁ……ちょっとだけ、お願いします。」
ティナ、言われるがまま着席。
ガーちゃん
「ちょっとぉ〜!!
見てこの肌!毛先の透明感ぴえん!!
アンタ、十分可愛いのに欲張りさんねぇ♡」
ティナ (緊張)
「いや、まぁ……ははは……」
ガーちゃん、ハサミを持ち出しカット開始。
ガーちゃん
「やだちょっと、緊張してるぅ〜?」
ティナ
「え、あぁ……ちょっとだけ……」
ガーちゃん
「やだぁ〜固まっちゃって可愛いぃ♡
ほら溶けて溶けてぇ〜♡」
ガーちゃん、ティナにぺたぺた触る。
ティナ
「(むしろわたしの精神が溶けそうなんだけど!)」
ダーク (やきもち)
「おい……
ティナから離れろ……」
ドラゴン
「しっ!
今カット中よ。」
ダーク
「……」
ガーちゃん、全力でしゃべりながらハサミを動かす。
ガーちゃん
「ねぇねぇエルフちゃん。お名前はなんていうの?♡」
ティナ
「ティナです。」
ガーちゃん
「あら、良い名前じゃなぁい♡」
ティナ
「エルフ語で小さな花って意味らしいです。」
ガーちゃん
「へぇ〜♡尊♡
でさぁ〜髪ってさ、女の命じゃない?乙女の聖域なのよぉ〜♡」
ティナ
「(語彙がキラキラしてて理解が追いつかない……)」
ハサミの音と共に、ガーちゃんのマシンガントークが止まらない。
ガーちゃん
「でね〜、アタシ今度『髪に愛された女たち』ってエッセイ出そうと思ってるのぉ!
天界の出版社がさぁ〜“オネエ枠”を探してて〜!」
ティナ
「(情報量が多い!!)」
しばらくして――
ガーちゃん
「さぁ〜仕上げよぉぉ!」
指先からふわりと魔法陣が展開され、光の粒が舞う。
ティナ
「え、魔法!?」
ガーちゃん
「うふっ♡
“ガーちゃんスペシャル☆トゥルントゥルンエンチャント”発動〜っ♡」
ティナの髪がキラキラと光り、しっとりと輝く。
ティナ
「うわぁ……サラッサラ……!!
てかトゥルントゥルンしてる!!」
ガーちゃん
「でしょ〜!?あとは、ちょこっとだけラメを振りかけて……
はい、完成っ♡」
魔法のきらめきがティナの髪に星屑のように散る。
ダーク (見とれる)
「……綺麗だ。」
ティナ
「……すごい……鏡の中に“清楚感マシマシの自分”がいる……!」
ガーちゃん
「あとは〜、ツケマつけましょ?♡」
ティナ
「えッ!?ちょっと!?」
ガーちゃん、ティナが断る間もなくツケマ装着。
――5cmはあろう、爆盛りツケマ。
ティナ (眼力ッ!!)
「……どう?
わたし、可愛くなれた?」
ダーク
「……いや……」
ティナ
「瞬きで風を起こせるんだけど……
今なら瞬きだけで空飛べそう。」
ガーちゃん
「あらぁ♡やってみるぅ?」
ティナ
「やらないからぁぁぁッ!!」
…………
ティナ
「……でも――」
ダーク
「ん?」
ティナ
「ちょっと楽しかったかも。」
ガーちゃん、小さく頷く。
ガーちゃん
「でしょぉ?♡
じゃぁ帰りはあちらへ♡」
ガーちゃんが指を指す。“非常口”と書かれた扉が現れる。
ティナ
「ありがと!ガーちゃん!
楽しかったよ!」
ダーク
「……フッ
暗黒竜、お前も来るのか?」
ドラゴン
「もちろん。
アンタの美意識、アタシが向上させてあげる。」
ドラゴン、ダークの右腕に自ら封印される。
ガーちゃん
「ん〜……」
ガーちゃん
「やっぱアタシもついてく〜♡」
ティナ
「えッ!?ガーちゃんも来るの!?」
ガーちゃん
「最近、神社ってあんまり人来ないのよぉ……
だったら、アタシが直接出向けばいいじゃなぁい♡」
ティナ
「すげぇ!アクティブオネエ神だ!」
ガーちゃん
「うふっ♡
さ、お友達も皆心配してるから、早く行きましょぉ♡」
ダーク (右腕を擦りながら)
「……行くぞ、暗黒竜。」
ドラゴン (右腕から語りかける)
「帰ったらアンタ、前髪ね。」
ティナ
「最後までそれ!?」
――非常口の扉がゆっくり開かれる。




