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第5話 相棒に弔いを

「さてと……」



 子供の様だったエドガーの顔が、すっと厳しさを帯びたものになる。


 これはアレだな、師匠としての顔だ。

 レイ先生が俺に筋トレさせる時に似てる。



 エドガーは俺の視線に気付いたのか、またニヤリと笑った。

 『まぁ見てな』ってところか。



「お前ら! ちょっとこい!」


「「おぉっ……!」」



 そうして現れた2人の男女に、ちびっ子2人が揃って感嘆の息を漏らす。



 眼光鋭い狼獣人(おおかみじゅうじん)のお姉さん。

 髭モッサモサのずんぐりさん。



 2人が反応したのは、あのモッサモサのヒゲだろう。断りなく触るなよ?



 と言うかこのモサモサさん……地人……だよな?



 ――地人(ちじん)


 イーヴリス大陸の南。

 広大な魔獣の縄張りを隔てた先にあるもう一つの人類の生息域、『アウローラ』に住むと言う人類の一種だ。


 見ての通り、モジャモジャずんぐりマッチョといった、特殊な容姿をしている。


 特筆すべきは土系魔術への適正と、金属の状態に対する異様なまでの直感。

 そして、その見た目からは想像もできない手先の起用さ。



 要は、鍛治をするために生まれてきたような種族なのだ。



 そんな奴まで弟子入りさせてるとか……やっぱこのオッサンは凄まじいな。



「コイツらは俺の弟子の中でも、特に『できる』奴らだ。今回お前らが持ち込んだ素材は、俺の他にコイツらも触ることになる。

 お前ら! 極上物持ってきたお客に挨拶しな! 『生きた』魔王素材打つ機会なんざ、そうそうねぇぞ!」



 言われて1人ずつ前に出る。

 先ずは狼姐さんから



「あたしはアネッサ。よろしく頼むよ。っても……親方、あたしはマリエルのでいいんだよね?」


「あぁ、それでいい。嬢ちゃんの大棍棒――」


「杖です」


「……杖は、こいつが打ったんだ」



 どうやら稀代の名工の目から見ても、アレは棍棒らしい。



「今回もよろしくね、アネッサさん」


「任せな。ぶっ壊れちまった先代より、もっと頑丈なの作ってやるさ! 名前も決めてある。今度は『ヴォーパルバニー』だ」


「もっと……可愛いのにならない……?」



 『殺人兎』か。なるほどピッタリだ。



「なにかしら?」


「なんでもありません」



 そっとマリエルから視線を逸らすと、ちょうどいい感じに地人のオッサン……兄ちゃん? が歩み出てきた。



「よう坊主! 俺はドドラドだ! よろしくな。見ての通り地人で……っとその前に、嬢ちゃん達! 髭が気になるなら触ってみるか!?」


「「っ!?」」



 割と声が若い。『兄ちゃん』の方だな。

 あと、気前のいいお人らしい。


 おチビ2人は、目をキラッキラさせながらドドラドの髭に群がった。



「あー、うちのチビ共が済まない」


「気にすんな! 子供にあんな目をされちゃあ、ダメとも言えんだろう! んでだ……親方ぁ! 俺ぁ坊主の剣を打たせてもらえんのかい?」


「調子に乗んじゃねぇ! お前ぇは今回サポートだ。ひたすら精製してろい!」


「がっはっはっはっ! こいつぁ手厳しい! まぁ、剣の素材もやるだろうから、よろしく頼まぁ!」


「あぁ、いい仕事を頼むぜ」



 ガシッと握手を交わす俺とドドラド。

 てか、結構力篭ってるな。俺じゃなきゃ折れちゃうよ?



「あとはテオって奴がいてな。そいつぁライルの担当だ。坊主とはライルの工房で会うだろう。とりあえずそいつを入れた3人が、ウチで魔王素材を扱える奴らだ。覚えといてくれや」



 それだけ言うと、エドガーはパンッと手を一つ叩き、声を張り上げる。



「よぉしっ! じゃあ取り掛かれっ! アネッサは嬢ちゃんと『選別』からだ! ドドラドは爪から始めろぃ!」


「あいよ!」


「おうさ!」



 そうして、マリエルと弟子2人は作業場に消えていった。


 ドドラドは、名残惜しそうなチビ共と何か話していた。

 また髭を触らせてもらう約束だろうか。



 残された俺はエドガーと向かい合う。

 エドガーは少し表情を崩して、手を差し出した。





「……見せな。持ってきてんだろ?」





 ――あぁ、やっぱ分かるんだな、この人には。




 俺は何も言わず、1本の剣を目利き台の上に置く。

 真ん中からポッキリと折れ、既に何の力も感じなくなった、俺の『お守り役』。




 ――雨土(アマツチ)



 エドガーは懐かしそうな顔で見つめながら、刀身をそっと撫でる。

 傷の付き方から、コイツが歩んだ道を見ているのだろうか。


 一頻り手触りを確かめると、エドガーはカウンターからこちらに身を乗り出してきた。



「ふんっ!」


 ――ゴンッ!


「あいてっ!?」



 何となく理由のわかる暴力がグレンを襲う!!



「ったく雑に扱いやがって、このガキが!」



 やはり、俺の使い方がお気に召さなかったらしい。

 そりゃ先生みたく上手くはないけどさ……。



「下手くそ、ってんじゃねぇ。寧ろ最近の客の中じゃ、ダントツで上手ぇ方さ。そうじゃなくて、使い方が違ぇんだ。コイツはレイヴィス用に仕上げたせいでな、繊細なんだよ。素材が上等だから、よっぽど無茶しなきゃ刃こぼれ1つしねぇがな」



 ギロリと睨まれる。

 あぁ、折ったとも。ドヤァ。




 ……すんません。




「まぁいい、折れたのはコイツが選んだ結果だ。お前の剣は、もっと頑丈に仕上げてやるさ。でだ……お前さん、コイツをどうしたいんだ?」


「先生の墓に埋めようと思ってる。素材としちゃ優秀なんだろうけど、何か死体に鞭打つような気がして嫌なんだ。ただ『生みの親』の意見も聞いておきたくて……だから、ここに持ってきた」



 剣ならではの供養の仕方とか、あるかもだしな。

 大事な『相棒』の見送りだ。専門家の意見は聞いておきたい。



「あぁ、それでいい。コイツぁもう眠りたがってる。俺に預けな……ピッカピカの死に顔にしてやる」



 ――コイツはサービスだ。



 そう言って、エドガーは穏やかに笑った。



 やっぱり、ここに持ってきてよかった。


 折れた雨土を丁寧に布で包むエドガーに、俺は深々と頭を下げた。

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