6番街領主
おまたせしました!
周囲が歪んで見える程の異様なオーラを放つこの異様な石……間違いない、黒石だ。見ているだけで怖気が走る……。
なんだこの形は……歪な六角形とでも言えばいいか。手触りもおかしい。ざらついているようですべすべしている。
「こ……これは……なんて怨念、はぁはぁ……こんなもの武器に使っていいものじゃ」
「そうか……これでは少々心もとないが、背に腹は代えられないか」
「危険です!こんなものを……こんなものを使うんですか!?」
危険だ、なんていうことは白露の顔に脂汗が滲んでいるのを見れば分かる。だが、ターレンスを倒すならこれくらいの怨念が要る。
あの二人と、俺の腕を奪った挙げ句安息の地までも襲ったあのゴミカスを塵一つ残らぬように粉砕するにはこれでも足りない。
「つ……かれ?」
「主様、そんなものを素手で持つからです。遺物がすべからく魔武器なのは石に起因すると言われてるんですよ!体力くらい吸うに決まってるじゃないですか!!」
「な、るほど……くくくく、ふふふふふふ」
全てを食い尽くす物でなければターレンスを葬る究極の武器は作れない。これだ……これを使えば擬人共を滅ぼせる!!
笑いが止まらない。俺には見える……擬人共の築いた薄汚い同心円状のコロニーが銀白の極光に灼かれる景色が……!!
「はははははははは!!けほっけほっ……!」
「主様……!主s……!!」
──6番街領主テンパランス──
「お疲れ様でございます」
「あぁ……今日も素晴らしい汗を流せた。私の美しい街はどうなってる?何も起こっていないな?」
「はい、今日も均整の取れた美しい街でございました」
「おし、分かった。あ……お前は私のメイドなんだ、それ相応の肉体を作っておけと言っているだろ?」
私の前に控えるいかにもか弱そうな雌……私の身の回りの世話を焼くには少々格が低い。分というものを分かっていない。
能力と肉体が釣り合っていない。私のポリシーに反するが他の者は能力がない。ままならない街だ。
「急報!急報でございます!!」
「テンパランス様の前でみっともない、何が起こったというのです」
「そ、それが……臣民が金品を求めて暴動を起こしております!」
「なんだと?」
馬鹿な、私の街に過不足など存在しない。それぞれの分に応じた最適な環境を用意している。だというのに何故暴動が起こる。
「最近相次ぐ奇病による謎の死を遂げる上層部への不信感から暴動の勢いに拍車がかかっていると思われます……!!」
「なに……?おい、貴様!なぜ報告しなかった!!答えろ!分かっていただろう!!」
「そ、それは……その……なんというか」
「ちっ……折檻は後だ。とっとと詳細を吐きやがれ、早く」
何がどうなっている。私に報告されなかった謎の奇病……私の街にそんなものが蔓延る余地があるわけがない。
この計画都市には十二分も八分もない。そう作り、維持している。だとすれば、原因はなんだ。どこからそんな奇病が流行る?
「さっさと病死体をこっちに回せ!」
「はっ……!!て、ただちにっ!!」
「急げ!早くしろ!!」
血が……手を握りすぎたか。私の究極の作品をぶち壊しやがって……許さない。だが、やるとしてもどこの誰の仕業だ。
敵対勢力が入ったなどという報告はなされていない。ならば内部から……?馬鹿な、私が把握していない人民などいるはずがない。
「病死体、入りました!」
「これは……」
酷い死体だ。焼けただれたような肌……全身が内側から崩壊しているのか?衣服からして上流……
最近顔を見せない者が多いが、この奇病は上流に流行しているのか?いや、だとすればどこから入った。
「なんだこの音は、偵察部隊はどうなっている!」
「報告……!!災害獣の領域付近からとてつもない衝撃が……!!」
「なに?……小賢しい!!無視しろ!今はとになく治安をどうにかするのが先だ!演説の用意をしろ!」
してやられた。この私がっ……!!叛逆者ごときに、してやられたっ!!……歯が砕けたか。この死体はフェイク。
いや、何であろうとこの死体はデコイで有ることに変わりはない。本命は災害獣の死体ひいては呪物の生産だっ……やられた!!
「ほ、報告っ!!上流民が暴動に混じっております!ひどく衰弱した様子でうわ言のように寄越せ、寄越せ、と言っております!」
「なに……?!!早くこの死体を検視官に見せてこい!!」
「は、はっ!!ただいま!!」
私の推測が外れてほしいと願ったのはこれが初めてだ。くそがぁっ……!!私には何もできない事を見越して……どこまで私をっ!!
治安を犠牲にしてまで奴等を取りに行くのは教皇レースにおいて愚策っ……!奴等などたやすく蹂躙できなくてはならないっ!!
「報告!」
「今度はなんだ!」
「居大質量衝突の影響で凶獣が大挙しこちらめがけてやってきております!!」
「私が出る!市民共は催眠ガスで落ち着かせろ!いいな!!」
「はっ!!」
教会のバルコニーから飛び立ち、城門の外に着地、自らの存在意義を忘れた獣共の頭を掴み、喰う。
肉か……外れだな。もっと……もっと喰いたいっ!もっと多くの種類を!もっと多くの量を……寄越せ!私に差し出せ!!
「ぎゅるぅっ」
「記憶・肉・特殊体組織……しけてやがる。もっと、もっとよこせぇぇええぇぇぇ!!」
腹を蹴り、顔を殴り、手刀をめり込ませ、飛びかかってくる獣を叩き落とす。もっと、もっと美味い物をぉぉおぉぉぉおぉお!!
「んもっどぉぉおぉお!私に、もっとよこぜぇぇえぇぇぇええぇぇ!!」
「ぎゃうんっ!」
「来いよぉおぉおおっ!もっと来いよぉおぉおぉおぉぉおぉお!!」
頭を気に打ち付けて正気を取り戻す。いつもながらこの衝動には逆らえない。私の方が獣ではないか……。
次は一週間後です!




