侵入
おまたせしました
「朝、ですね……残念ですけど今回ははここまでにしましょうか」
「……そう、だな」
「さて、切り替えていきましょう」
白露が俺の頬にそっと触れた後、朝日溢れる森に消えた。着替えは……してある。一人でも着替えられるのに申し訳ないな……
薬の完成品はどこだったか。……確か、木の洞に隠しておいた、はず。有った。どこも壊れていない。よしよし。
「そ……それをっ、わたしにぃっ」
「黙れ……貴様は用済みだ」
「か、ぁっ!!」
「お前もな……」
実験体にメスを投げつけて生命活動を停止させる。これからの悪夢を見なくて済んだ分こいつらはまだ幸せだ。
この壊れたカルウェナンもなんとかしなければ……といっても根本から折れているのでは作り直すしかないか。
「主様……光合成終わりましたよー」
「ん、あぁ……」
「その剣、持ってたんですね」
「もちろん」
断面が見事にひび割れている。ここにある材料では作り直すのは……無理だろうな。この剣の材質は特殊すぎる。
白露のエリムサルエにしても持つだけで瑠璃色に輝き出すのは明らかにおかしい。オーパーツの扱いは面倒だな。
「なんとかならないもんか……」
「その石なら心当たりはありますけど、周りの金属は、知らないですね」
「知ってるのか……!?」
「はい、博物館に厳重に展示されてますよ。正式名称は確か怨嗟結晶だった気がしますが……まぁ、全員黒石って呼んでますね」
怨嗟結晶……随分な名前だ。だが、もしその名前の通りの物ならこの武器達は形状の基礎の物より製法は銃に近いのかもしれない。
「まぁ、120年前の大遺失辺りの作品ですからね。簡単に分かれば苦労しませんよ」
「それもそうか……」
「あ、でも黒石なら分かりますよ。多分そこら辺に落ちてます。偽神の再構築に遭ってもあの怨念の塊は消えませんから」
そこら辺、だと……!?そこまで広範囲におびただしい数があることになる。しかし、そんな物を使って副作用は無……
まさか、この武器達はその怨念によって偽神を喰らっているのか?だとすればこの武器の本質は黒石。素材はあくまでもおまけか。
「それはそれとして……まずブツを撒こう」
「そうですね、どういう設定にします?私がドレスに見を包んだ貴婦人として社交界に侵入して上級神官に流しましょうか」
「いや、この街の教義からすればそんな格好は目立つ。それよりも路地裏で待って犯罪組織に売り込む方がいいだろう」
この街の特徴も学習済……この街は節制を是とするB.C.5C頃の……およそ2800年前の古代ギリシア哲学を大言したような街だ。
一言でその様相を纏めるのであれば出来ないことはするな、という思想だ。
農民の資質を持つ者は農民の仕事をすべき王の資質を持つ者は王の仕事をすべき、兵士の資質を持つ者は兵士であるべき。
そのような思想を教会に落とし込んだ結果信者以外の人間がそこらの石並になり高位聖職者は自己管理の徹底が刻み込まれた。
その結果、教会関係者は街で享楽に浸らず、犯罪組織から違法に性奴隷や贅沢品を揃えるようになったと聞いた。
「この街では犯罪組織が蔓延っている。まず適当にブツを売り込み、そこに目を付けられたところでブツを渡ししぶり、奪われるのがいいだろう」
「非常に言いにくいんですが……前半のわざわざ要約した部分は要りませんよ」
「え……?」
白露の伏せがちな顔と八の字に曲った眉が痛い……。ま、まさか口に出ていたなんてことは、ないよな?
まさか、そんな思考レベルの速さで口から言葉が溢れていたなんていうことは、ある訳がない……よな?
「い、行きましょう?ね?」
「あ、あぁ……」
明るく振る舞う白露の気遣いが、痛い……大袈裟に身振り手振りはもっと痛い……やめてくださいお願いします。
「こんな感じの服がいいですよね」
「あぁ、うん、そうだな」
白露に明るくフード付きのコートを出された。まだ心に刺さる……まぁ、数時間で忘れるだろう、忘れるよな……?
「行こうか」
「主様〜、置いていきますよ」
「ちょっ……待って」
「ほーら、がんばれがんばれ」
白露が遠くでぴょこぴょこ飛んでいる。はぁ〜〜〜〜〜かわよ。こんなの取り締まられてないだけの麻薬だろ。
「白露、売り込み……というか吹き替えをお願い。」
「そんなのお茶の子さいさいですよ、任せてください」
「あ、あぁ……」
察する能力いや……元々の地頭が違う。これが人間と半端者の差……これがホモ・サピエンスなどという媚びるだけの種の運命。
諦めるしかない。いや、高度化した思考を争いにのみ使った俺達はその方が建設的なのかもしれない。
「主様の過去にケジメを付けに行っちゃいましょう!」
「そうだな……約束は守らないとな」
まだ俺にはやり残したことがある。それまではあの場所には帰れない。二人を引き摺るなど白露に失礼だ。
裏通りに着いたか。ゴミ、年若い男子の死体、飢えた獣……汚い場所だ。計画的に配置された白亜の構造物の満ちる表とは違う。
この街の司祭の腐敗がありありと現れている。絶滅させなければ、こんな奴等は一匹たりとも地球上に存在させてはならない。
「おらっ……黙れよ。てめぇは私に使われるためにあるんだよ。おらっ、ケツ出せよ」
「かぁっ……くはぁっ……」
「死にかけかよ。チッ、しけてやがる。もっと瑞々しいやつにしよ」
「ぁ、がぁっ……」
死にかけの男が路地に捨てられている。白露が回復魔法で肉体の形を整えたが、もう死にかけている。俺はその首を撥ねた。
かわいそうに……こんな人間は今この街にたくさん居るのだ。こんな人間はもう出ることはない。安心して眠れ。
次は一週間後です




