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第1章 幼稚園時代
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第102話 主砲発射 その二

「アミック隊長に」


 このコールを後三回ほどくり返してようやくグレンとハナダは落ち着いた。

 何しろ現在進行形で主砲の攻撃を受けてるのだから、案外こうしてはっちゃけてないと身が持たなかったのかも知れない。

 大人はいろいろ考える。気楽な立場の幼稚園児とは本来違う。

 ごくりと唾を飲みこむ音がした。そんな音がやけに響く。だがおそらくこれが普通の反応なのだ。


「す、すまない。ちょっと緊張しててな」


 マークが後ろで謝っていた。


「いい。地球人には想像を絶する攻撃だというのはわかってる」

「いや、それを止めちゃうのもどうかと考えてしまうんですよ。それもそんな子供が。防壁? 盾? それを叩く音もしない。熱も感じない。でも圧はある。あれに(あた)ったら死んじまうってのもわかる」

「わかるのか?」

「動物ならわかるだろ。あ、いや、すまん」


 マークがなぜか謝った。オレをステッキでぶん殴った元気はどこに行ったのやら。

 何と言うかマークは今剣が峰に立っていて、狂ってもいいと言われたらいつでも狂ってしまえるような、そんな危ういとこに心があるようだった。ちょっと押せばどちらにも転んでしまうような、そんな感じだ。


「今はそんな事を尋ねる場ではない。彼には集中してもらわないと困る。迂闊に防御が疎かになって弱まりでもすれば、その時死ぬのは我々だ」

「も、申し訳ありません」

「わかればいい。後ろでジッとしてろ」

「はい」


 メアリー副隊長がうまいこと倒してくれたようだ。


「それにしても長い。長くて一分と聞いたがけどもう一分過ぎてるよね」

「それは」

「副隊長はウソを言ってないよ」


 ハナダが裏打ちした。


「本当に長くても一分ぐらいなんだ」

「ということは隣の砲門を開けてると言うことだな」

「たぶんそう」


 ハナダがグレンに頷いた。


 オレもそのことは何となく知っている。弟さまが解析した中に、降下型の惑星強襲制圧艦の武装には全周囲を攻撃できるよう砲門が用意されてるとあった。それがどんな形でどんな性能なのかとかは、詳しく調べるに至れなかったが、それでもとんでもない武装をしてるのはわかっていた。


「魔法で蓋を出来ないかな?」

「どういうこと? 教えて」


 オレはハナダに尋ねた。


「魔法で主砲を散らしちゃってるんでしょ、今」

「うん」

「そこに蓋をしちゃえばいいんだよ」


 ならばダブルで外装と同じ素材をそのまま嵌めこんじゃえば済むな。それで事足りる。


(ダメだよ真司くん。それをしたら撃ちつづけて宇宙船に乗ってる人たちがみんな死んじゃう)

(死んじゃったらどうなると思う?)

(たぶん宇宙から艦隊が全力攻撃してくる、と思う)


 それは地球の消滅だ。

 そんな攻撃を防ぎきる力はオレにはない。狙いを日本から逸らされたらそれでお終い。東京駅から逸らされてもお終い。それが外国を狙われでもしたらもうアウト。本当にどうしようもない。


「ねえ、出来るでしょ。やってみてよ」

「魔法で蓋をする、ねぇ」


 オレが考える素振りを見せたら真理ちゃんが魂の回廊の方で話しかけて来た。


(真司くん)

(わかってる。でもさ、一度見せた方がいいと思うんだ。試さないと納得しないよ、この人達)


 グレンもハナダもやって当然といった顔をしている。メアリー副隊長も否定しない。


(科学立国のセプト人たちだからかな。確かに実験実証をしないと確かに納得しなさそうだね。ここで間違えると……。わかりました。よろしくお願いします)


 真理ちゃんが視線をさまよわせたのは何の意味があったのだろう。

 オレにはよくわからない。だがゴーサインは出た。


「ほら、型の舞とかして威力を底上げするんでしょ。それぐらい私も知ってるよ」


 ハナダが期待で目をキラキラさせながらオレに言った。

 すっかり信用してくれるのは連立相手としては喜ばしいが、型の舞とか正直まどろっこしいんだよな。そりゃ確かに威力の底上げをする型なのだから型の舞というのが共通言語になるのだろうが、オレには魔法の舞とか単なる舞のがしっくり来る。


「それに、オレならこうするかな」


 舞はポイントごとに配置した精素を、発動時に一緒に引き連れてくことで威力を底上げしている。恵風がしていたのはポイント毎に精素ではなく精気を置いてたから、精密性は維持しても威力を弱める底下げだったが、オレがやるなら最初からちまちま精素を置いたりして満足するのでなく、最初から精素の壁を展開してしまう。

 点ではなく面にしてしまうのだ。


(それ、底上げどころかブーストだね)

(そうだね)


 真理ちゃん凄いな。多分解いちゃったよ。


(お手柔らかにね)

(了解)


 そしてオレは現状を確認する。ダブルは発動し終えたけど精霊魔法は未だに発動し続けている。だが疲れは全くない。

 今なら海の奥底にも手が届くだろうか。どこまででも精霊魔法を深められる気がする。

 それから真理ちゃんがオレの背中に手を添えてるのを確かめる。失われたままの左手もオレの背に添えられている。

 こんな状態のまま放って置かれても彼女はまだ主砲への防御に、身を固くしている。


 文句も言わず、何を解いたとも訊かない真理ちゃんが凄かった。


 彼女はもうわかってるのだ。後はオレが実証するだけだが、それはここではないと。オレが負い目を感じることさえ許してくれないのだから、ある意味厳しすぎるぐらい厳しい女の子。彼女は示している。

 今やるべきはただひとつだと。


 オレは両手を広げて気合いを込める。


(風壁)


 魂の回廊で精霊魔法を唱え、新たな風壁を出現させた。


 これまで支えてた風壁より更に厚みが増した風壁。

 そこにはオレのダブルの特性、対象の位置その場に発現する特性が引き継いがれている。そういう異質な精霊魔法。

 恵風に言わせるとオレの精霊魔法は出来損ないだと辛辣に評価されるが、出来損ないだからこその利点もある。


「がんばれ」「押せー押せー」

 軽やかな口振りでグレンとハナダが応援してくれる。だがその表層とは裏腹に、ギュッと握った拳にはタオルで拭き取れるほどの手に汗を掻いている。


 新たな風壁がすでにオレたちを守ってくれていた盾と風壁を通り抜けることは無理だ。盾にぶつかって霧散するのがオチだ。

 だがダブルの特性を活かした風壁なら、すでにある盾と風壁の向こうにそのまま精素を顕現させて、誰にも気づかれずに新たな風壁を作ることも可能となる。


「すごい。煌子力の塊を押し込んでいる」

「そのくせ後ろに下がりもしねー」


 実際ハナダは事象の結果だけを口にし、主砲を押し返し始めたことに心底ビックリしている。グレンも気づかずに反動があってしかるべきオレが踏みとどまってることに眼を向けている。

 そして実際にオレは風壁で主砲を押し返し始めてるのだ。

 これは恵風にやれと言っても出来ないだろう。

 欠陥だろうが使い用はあるのだ。


「魔法は反発とかないのか。セプトの技術ではそういうのを押さえ込むのに相当苦心した歴史があるらしいんだが」


 歴史か。くるるではないが歴史なら在る。


「知らないの? ネリネリする時は足の指でガッチリと土台を噛むんだよ」

「あー、何言ってんだこいつは、お嬢さん」

「えーっとですね。力を入れる時は足を踏ん張れって言ってます」

「お嬢さん。綺麗なセプト語だな。今はもう、くるる人とセプト人は仲が良いのか?」

「えーっと、そうだと思います」

「そうかー、お嬢ちゃんぐらいちっちゃいと、さすがに俺たちと一緒で故郷を知らないかー。それでも時の流れを感じるねー」


 くるるとセプトが仲が良いというのはそれほどのことらしい。

 それは別に構わないのだが、こいつは本当にオレに左腕を切れと申し出たグレンなのだろうか。真理ちゃんは金沢財閥の直系の娘さんだからお前みたいな怪しげな奴がいくら媚びを売ろうとなびく事はないぞ。

 そもそもオレたちは連立してるだけで敵同士だ。そこらへんは若いとは言えちゃんと理解しといてもらいたいもんだ。by四歳児談。


 風壁でティリオーダウンの主砲回りをぐるりと取り囲む。煌子力の莫大なエネルギーがティリオーダウンの砲塔回りを押さえることになる。そこに状態固定をかけてティリオーダウンの周囲に煌子力のエネルギーを走らせて主砲を封殺する。

 撃っても撃っても自分の周りを回る煌子力エネルギー。それは恐怖だろうと思う。ティリオーダウンの外装を削って、削るどころか大爆発を起こしてもおかしくないのだ。

 主砲とはそういう武器である。

 むしろ何故いま大丈夫なのかと慌てふためいてることだろう。


「魔気と煌子力が触れても大丈夫かと、実験をするかな」

「自分の命を代価にですか?」

「ええ、まあそうです」

「しませんでしょ。我々の命は賭けても、自分の命は賭けませんよ」


 ばっさりとメアリー副隊長が切った。


 すると主砲からの攻撃がメアリー副隊長の読み通りなくなったようだ。


 主砲を閉じたのでオレも風壁を解く。

 すると煌子力の残滓が盾を回りこんでオレたちの間を吹き抜けて行く。


「本当に俺たちを殺す気だったんだな」

 グレンが悔しそうにつぶやく。


「思いとどまらせないと。ちょっと乱暴が過ぎるよ。と言うかホース艦長に文句言いたいわ、私」

 ハナダも憤った。

「このまま済し崩しに殺されるのだけはご遠慮願いたいわね」

「そうですよ、副隊長」

 ハナダが頷く。すると兄のグレンが口を開いた。

「でもどうする。力尽くで来られたら、エー・トゥールもないオレたちなんて殺されるだけだぞ」


 そこでアミック隊の会話は途切れた。既に力尽くで事を進めると好戦派は宣言したも同然だ。何しろこちらはまとめて殺されかかったのだから。

 だがここで凹まれても困る。

 何のためのオレたちだ、と言うことになる。


「連立したのは何でだと思う。オレたちだってアミック隊に説得してもらわないと、戦争が終わった後でしか交渉の余地がないことになるからな。

 力押しが何だ。降りかかる火の粉は払ってやるさ。何度だって。そして──、

 何としても生き残って説得に当たってもらわないと困る」


「あー、そのために連立したのか」

「そっちの特になる事って何だろうと思ってたんだけど、そういうことなのね」

「そうだ」


 そしてオレはマークとワルテールの方を見た。


「事情はわかってもらえたと思うけど」

「ええ、よくわかりました」「依頼主が裏切ってたこともですな」


「アミックは裏切ってないよ。別の派閥が地球のことをどうこうしようとしてるだけ。むしろアミック隊を大事にしないと、オレたち人類は、交渉の窓口すら失うことになるんだよ?」


 喋ってて思わぬ事の重大さに胃が痛くなる思いだ。


 だが真理ちゃんはキュッと口を引き結んで弱音を吐かない。


 真理ちゃんはここにいるアミック隊の隊長であるアミックに拷問されたのだ。好戦派からの教唆とはいえ、真理ちゃんの左手が手首から先は、アミックに切り刻まれて失われてるのは事実なのだ。

 そしてオレと弟さまが、そんな真理ちゃんを守りきれなかったのもまた事実。


 アミック隊が真理ちゃんの左手に触れることはもちろん──、

 オレが所思を述べることも許されることではなかった。


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