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シナリオⅣ 4 前章 第8話〈後編〉

(^ー^)ノ開戦編…後編w

シナリオⅣ 4.8〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?

たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉

I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time


草創歴0449年7月(7/15)〈後編〉


第三編隊が地に()ちた同刻(どうこく)、連絡が途絶し、第二編隊艦橋に動揺が広がった。

とは言え、情報は一切、入って来ない。

先行する第一編隊からも指示が(とどこお)っている状況を(かんが)み、ヒビヤは(いぶか)しむ。


ましてや、目標地点は目と鼻の先に迫っていた…。


「テリオ殿!すぐに鬼兵(ドウティアンス・スピン)の起動をして頂きたい。」


むな(さわ)ぎがした。


母体(モタイ)を差し置き、テリオは「応ともよ!!」と、自ら調整槽区画へと脚を向ける。

彼もまた、思うところがあるのだろう。


だが、進行速度を緩めるわけにはゆかない。

速度はこのまま維持し、不測の事態に備え、搭載する「鬼兵(ドウティアンス・スピン)」の生体覚醒を急がせる。


「覚醒した鬼兵(ドウティアンス・スピン)は順次、降下開始。戦術を陸戦対応に書き換えよ。」


ヒビヤの指示を受け、母体(モタイ)躊躇(ちゅうちょ)の態度を見せる。


「ええいっ。退けっ!」


ならばと、直接コンソールを奪い、電算処理の変更を書き換える。

型式は「海府の郷」(ニライカナイ)とは異なるが、おそらくは「天都の郷」(ディウム)」からの流用か。

ヒビヤにとっては造作もなき事であった。


それよりも、それを妨害せんとする母体(モタイ)の動きが()に落ちぬ。

あいも変わらず、得体の知れぬ素顔を布で隠し、その動作も陰鬱(いんうつ)この上ない。


『軍師殿…これは皇女陛下(ツニュイウアンディ)の計画と異なりますぞ…。』


(しわが)れた異声が耳に(さわ)る。


「何を言うか!ヒビヤ殿は正式に軍師として任命されている。そなた等が口を挟む必要はない。各艦に指示を出せ。軍師の命に従えとな!」


駆けつけたテリオ・オーガ・ハナが後押しをする。


テリオも(いくさ)装束の麒麟(ジラフ)紋様の羽織りを(まと)い、愛刀「南海降摩杵剣」を(たずさ)えていた。

各内部艦橋の指揮官級鬼兵に戦闘準備を(うなが)し、即時降下を開始させる。

無論のこと「これが杞憂(きゆう)であれば言うことも無いが…。」


次々と地上300メートルの高度から、鬼兵(ドウティアンス・スピン)等が降下してゆく。

この時点で降下となれば、目標地点に到達時間は徒歩にて4時間に及ぼう。

兵力を用いての平定に時差が生じようが、戦力温存とし、無駄に消費する恐れに比べれば問題は無いとヒビヤは断じた。


蓄積(ちくせき)プラズマバッテリー式磁場反転内蔵「条帛螺髪」防盾が降下着地時の衝撃を無効弱体化し、周囲に砂ぼこりを巻き上げる。

鬼兵(ドウティアンス・スピン)の常備兵装である。


およそ、半数の降下を見届けた頃、衝撃波が空を揺さぶった。


ゴゴゴ…ゴゴゴゴォォォ…ンンン!!


地表より放たれし、綿津見色(わだつみいろ)の閃光。


それは幾筋も続き、ディヴァナガライ粒子の長距離火線が火を噴き、降下する鬼兵(ドウティアンス・スピン)を次々に(ほふ)ってゆく。

火球が中空に生み出されてゆく。


「やはり、待ち伏せされていたか…だが、この高度ならば直接転移は不可能な筈。こちらに回せる綿津見(ワダツミ)の数にも限りがあろう。」


その火線が旗艦「白毫號(バオス)」2號機をもかすめ、内部艦橋が揺れた。


「ぬうっ…鬼兵(ドウティアンス・スピン)の降下を維持しつつ、速度を40ノットに引き上げよ!」


ともかく、距離を広げねばなるまい。

無茶な指示とは分かっていても、やってもらわねば困る。


『おい、兄さん!気をつけろ、やばいのが近付いてるぜっ!』


ヒビヤの影に潜むウリュウ・テウスズウが警戒を(うなが)す。

常日頃、豪胆(ごうたん)なるこの土蜘蛛がここまで言うなど、未だかつてない事だった。


その(とき)、左翼に展開する「大胎蔵級(ケウアンウ・ガン)」の一隻が爆散した。


ドガァァァーーーンッッッ!!!


その衝撃波が、ヒビヤ達のいる内部艦橋にまで到達し、機材をなぎ倒す。


「何事だっ!?」


テリオが血相を変え、外周モニターを凝視する。


それは編隊の左翼に回り込み、次々に「大胎蔵級(ケウアンウ・ガン)」に外傷を加えながら、先頭を()く旗艦「白毫號(バオス)」2號機に追いすがるべく速度を上げる。

モニターで視認するには、あまりに小さく、それを(とら)える事は難しい。


小刻(こきざ)みに飛びつつ、死角からの攻撃を受け、三機目が黒煙を吹き上げて墜落する。

対空兵装を持たぬが(ゆえ)(もろ)さに、それは笑った。


弾倉庫に(かす)りさえすれば、搭載するプラズマパルス拡散弾「雷禅」は連鎖爆発し、また気嚢体内部の「ハイドロニウム」の発火性も極めて高い。


オグ・ザ・ゴグマ専用に調整された機械化装甲「デュエル」が展開し、コート状の装甲が翼形状に変容しつつ、空力場を操作する羽根状結界が数百枚をも重なり()り出す。

主動力源である霊子統制機関「ジ・タリスム」を()って相位空間に固着し、ベクトルに指向性を逐一与えることで、超高速機動を実現していた。


のみならず、そのオグ・ザ・ゴグマの背に乗りて、「ディヴァナガライ粒子砲」の火線を繰り出すのは、綿津見(ワダツミ)たる「ロム・テッド・ラーマス」その人である。

空気抵抗は「イージス」の持つ相位空間障壁によって意味を持たない。


その火線が「大胎蔵級(ケウアンウ・ガン)」の四機目を撃ち落とす。

だが、ここまで接近出来れば問題は無い。

転移の為の距離は掴んだも同然か。


『後は任せたぞ、オグよ。』


『了解だ、親父(おやじ)!』


オグの背中から飛び立ち、ロムは虚空に消失した。

引き続き、オグは急速旋回し「大胎蔵級(ケウアンウ・ガン)」に肉迫するや、その鍵爪(かぎつめ)を突き立てる。


『アグネヤストラ・フィンガぁぁぁーーー!!』


白熱溶解の爪が装甲をやすやすと引き裂き、(ほとばし)る波動が船体を貫く。


ドドドドォォォーーーォォォンンン!!!


爆散する残骸と爆煙とを振り切り、翼を羽ばたかせ、弾丸のように突っ切るオグ。

まるでオモチャを与えられた、無邪気な子供のように破壊衝動を満たしてゆく。


まさに傍若無人(ぼうじゃくぶじん)と言うべきか。

その撃破数は既に6機。

編隊の半数以上に及んでいる。

これ以上の損害は、空爆の有効性を(いっ)してしまう。


バキィィ…ン!!


すれ違い様、その斬撃がオグの羽根状結界の(いく)つかを散らした。


『貴様っ!?』


半透明バイザーに隠された(まなこ)が標的を捉える。

髪を逆立て、オグ・ザ・ゴグマはその者に詰め寄った。


迫る敵に、気嚢体外郭の足場の悪き甲板上にて、「南海降摩杵剣」を水平正眼に構えて迎え撃つ。

テリオ・オーガ・ハナは、 抜き身の奥義「切支刀(きりしとう)」にて、オグの放つ「アグネヤストラ・フィンガー」を相殺せんと斬り込む。


バチィッ…バチバチバチッッ…!!


目も(くら)む衝撃と熱線に焼かれ、テリオは面食らった。

肌がチリチリと焼ける。


「ぬうっ…ここまでの威力とは…。」


敵を眼前に膝を突くなど、鬼兵(ドウティアンス・スピン)の名折れであったが、その鍵爪(かぎつめ)を押さえ込むに用いた「切支刀(きりしとう)」は七合。


テリオは神速を超えた連撃を、その一瞬で放っていたのだ。

それでも、受けたダメージは計り知れない…。

この孔雀庚申塔甲冑の「万物鉱(ケウワンウ)」でなくば、この身は溶解していたであろう。


『どうした?そんなものでは、この我を満足させる事は叶わぬぞ?』


「フッ、(あなど)るなよ。手を抜かずに撃って来い…俺に手加減すれば、死ぬのはお前だ。」


減らず口にも見える。

だが、オグは狂気した。

甲板に降り立ち、その装甲翼をたたむ。


『その減らず口、どこまでもつかな?』


…オグの両手が白熱化し輝く。


片手であの威力を、今度は両手で繰り出そうと言うのか?

だが、それを避けては、この「白毫號(バオス)」2號機に致命傷を与えかねない。


「ならば、このテリオ・オーガ・ハナ!いざ尋常に受けて立とう!!」


立ち上がりしテリオは、その刃を鞘に収め、奥義が為の力を()める。


『行くぞ!!』


「応ともよっ!!」


オグの両手が渦巻く颶風(ぐふう)を呼び、熱線を放つ。

そのままの勢いで追い迫り、襲撃せんと(おど)りかかる。


鍵爪は二つ。

だが、寸前までテリオは動かなかった。


…熱に前髪が燃える。


その(とき)、カッと目を見開きて、テリオは右手の甲の封印を解き放った。

刻まれた宝印、それは『毘』。


ギシィ…ギシギシギシィィィ…!!


テリオの『毘』は瞬時にして、前方に「朱剣」を生み出した。


『何だとっ!?』


この朱色に(いろど)られた剣の紋章に遮られ、一瞬、オグの「アグネヤストラ・フィンガー」が異音を立てて止まった。

だが、その障壁の強度は持って二秒か。

紋章に亀裂が生じる…。


『だが、ここまでだ!』


勝利を確信したのはオグか。

しかし、テリオにとっては、その二秒があれば十分であった。


この「朱剣(ズウホン・ジイアン)」の真の価値は、術者の物理破壊力を神域にまで飛躍させる為の触媒(しょくばい)にある。

テリオの刃が鞘走り、「朱剣(ズウホン・ジイアン)」に触れた刹那(せつな)に、愛刀「南海降摩杵剣」に麒麟(ジラフ)の波動が()つる。


切支刀(きりしとう)神技『随身矢倒(ずいしんやとう)』!」


朱剣(ズウホン・ジイアン)を飲み込みて、その抜き身の一刀がオグの胸部に吸い込まれる。


ズドドドォォォーーーォォォンンン!!!


だが同時に、障壁が消失した事でオグの熱線が衝突し、大音響が甲板上に(とどろ)く。


一方で、迎撃に向かったテリオを止める間もなく、ヒビヤとて直接転移で乗り込んで来た「ロム・テッド・ラーマス」との対峙を余儀なくされていた。

テリオの身が案じられ、ヒビヤとて内心は穏やかではない。

だが、それを悟られるわけにもゆかない。


『ヒビヤよ、今すぐにナウリ・ヴォルケーノ・ラウムの身柄を引き渡せ。さもなくば、後悔する事になるぞ?』


「…何故、ナウリの身にこだわる?」


向けられた「ディヴァナガライ粒子砲」の砲門に(ひる)むべくもなく、ヒビヤは反論の糸口を掴む。

それがロムを苛立たせた。


『貴様の知った事ではない!この程度の国を味方に付けたところで、我ら海府の郷 (ニライカナイ)の裏をかけると思っているわけではあるまい?』


「ならば聞くが、お前達こそ、本気で天都の郷 (ディウム)に勝てると思っているのか?」


こんな禅問答をする為に、ここに来たのではないとロムは憤慨(ふんがい)した。


『ヒビヤ、お前は自分の立場が分かっていない!』


「自分の立場ゆえに縛られているのは、お前も同じはずだ、ロムよ!」


…沈黙が二人を()かつ。


だが内心、ヒビヤはホッとした。

「海府の郷」(ニライカナイ)は未だ、ナウリ達の行方を掴めていないのだ…。

ロムの口振りから察するに、摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)内部に(かくま)われていると思っている。


この沈黙を引き裂き、警告のアラームが内部艦橋に木霊(こだま)した。


ビィィィ…ビィィィ…ビィィィ…ビィィィ…。


この警告は、船体の質量過剰による高度維持の不可能を表示していた。

何か、急激なる質量増加が船内で生じ、浮力限界を阻害していると(おぼ)しい。


ロムを無視し、コンソールにアクセスし、電算処理機構に原因究明を急がせる。

よもや、甲板上で戦うテリオの身に何かあったのでは?と危惧(きぐ)をする。

浮力低下の原因は特定されぬままだ…。


聞こえるか、土蜘蛛!何があった?


『ああ!聞こえてるぜ、兄さん…しかし、ちょっと厄介(やっかい)な事になっちまってるな。』


ウリュウ・テウスズウは、それを前に後退する。

戦々恐々、間一髪で防ぎ切ったものの、左腕がその代償に溶解していた…。


焼け焦げた甲板上にて、無限に膨らまんと続ける細胞を制御出来ず、狂おしくもそれは身悶(みもだ)えていた。


ヒビヤの意に従い、密かにテリオの影に侵入していたウリュウであったが、テリオの一撃は見事に致命傷を与えたかに見えた。

とは言え、それは捨て身の一刀に他ならない。

無防備なテリオを襲う「アグネヤストラ・フィンガー」の破壊力を、ウリュウはどうにか相殺して見せた。


影から飛び出し、テリオを(かば)い、両の手でそれを受け止める。

霊子で造られたこの義躰(ぎたい)では、数分と保たずに限界をきたす。

ならば賭けではあったが、この身体でどこまで保つかも分からぬも、肉体過剰活性化を(うなが)す秘技「八握脛(やつかはぎ)」がこうそうした。

黒く異形化したウリュウの両腕が熱線を押さえ込み、収縮させる。


しかし、その含有熱量は凄まじく、核融合炉の三倍にも匹敵した。

両腕の細胞が焼き切れてゆく。


『ぐっ…かつて、魔王と称された俺様を…()めるなよっ!』


飽和状態にある熱核を、左腕を引き換えに消滅せしめるウリュウ。


ズズズ…ズズズッッッ…。


だが一難去ってまた一難。

オグ・ザ・ゴグマの肉体は、その身を守る機械化装甲「デュエル」を引きちぎり、人の形を成さぬ肉塊となって肥大化し始めたのだ…。

白毫號(バオス)」2號機の浮力低下の原因は、このオグの変質による質量を超えた、加速度的重力変動によるものであった。


「…ウリュウ殿ですな?助けていただき、感謝する!!」


正気に戻ったテリオが、ウリュウに(かしこ)まった。


あれ?俺様のこと、気付いてたの?

ともあれ、これは厄介な状況になったぜ。

ここまでコレを追い込んだ、この兄さんの剣も大したものだが、このままじゃ墜落は(まぬが)れないぞ…。


「おい、土蜘蛛!これはどう言う状況なのだ!?」


やむ終えず、内部艦橋から抜け出したヒビヤがその場に駆け付けた。

何の因果か、ロムもまた、それに続く。

不測の事態であり、猶予(ゆうよ)ならない状況だ。


『…いかん、オグの生体因子に傷が付けられ、暴走し始めているのか?』


ロムは狼狽(うろた)える。

オグの生体抑制コントロールパネルが指示を受け付けない。


入力を受け付けぬ、その胸腺(きょうせん)位置に内蔵されている「起爆劣化遺伝子」。

もはや残された手段は、その細胞一つ残さず滅する他ない…。


「ロムよ、噂には聞いていたが、あれに使われた因子は、まことにあのゴグマのものか?」


『ああ、そうだ。保存されていた肉片から、その因子を摘出(てきしゅつ)し、俺の遺伝子に組み込んで生み出された人造生命体だ…。』


(ゆえ)に、オグはロムの事を親父(おやじ)と呼ぶ。

一種のり込み、洗脳とも言える。


「なんとっ!?ヒビヤ殿、あれがゴグマだと言うのか?」


草創歴100年、およそ300年前、法王院(ファゴンスンディアン)のよって滅ぼされたと伝わる魔性の物の記録は、摩皇軍(モゲウイジュンテウアン)にも残されている。

テリオが知る限り、南東諸島群に降臨したその存在は、白銀色の角を持ちながらも「鬼」に(あら)ず、「御霊ごりょう」の強大な力を喰べて力を増し、破滅をもたらしたとされる…。


時の法王院(ファゴンスンディアン)如来(タターガタ)菩薩(ボーディサット)明王(アヴァターラ)の生命と引き換えに、このゴグマを消滅させたと伝わる。


「汝ら海府の郷 (ニライカナイ)が、それを復活させたと言うのかっ!?」


『フッ、あれはそんな代物(しろもの)ではない。ただの複製品に過ぎぬ…。』


テリオの驚愕を一笑(いっしょう)()すロム。


しかし、その暴走した因子を焼き尽くすには、自身の持つ「ディヴァナガライ粒子砲」だけでは計算上足りない。

ロムとヒビヤの視線が交差する。


「だろうな…どうせ墜落するならば、これを使わぬ手はあるまい?」


既に高度は200メートルにまで降下している。


「ハイドロニウムは元より、積み込まれた雷禅の火力ならば、これを滅せられよう…。」


ヒビヤの計算上、それを一度きに連鎖反応を引き起こせれば、熱核温度は六千度。

一瞬ではあるが、太陽の表面温度にまで到達する。


『だがヒビヤ、起爆装置を仕掛けている時間はないぞ?』


ロムの言う通り、加速度的に落下速度は速まっている。


「テリオ殿!予備の磁場反転防盾は?」


(はた)と、テリオがそれに応え、緊急用保管ハンガーに取り付き、そのハッチを開け放つ。

内部には「条帛螺髪」が4つ格納されている。


「ヒビヤ殿!人数分ありますぞ!!」


その人数に、どうやらウリュウや、ロムまでも含まれている模様…。


「時間が無い。土蜘蛛よ、テリオ殿を頼んだぞっ!!」


『了解だ、兄さん!』


左腕を未だ失ったままも、ウリュウに至っては平然に歩み寄ると、ハッチから「条帛螺髪」を4つ、中空に放り出した。

続けてテリオをヒョイと(かつ)ぎ上げると、造作もなく飛び出した。

呆気(あっけ)に取られ、テリオは中空で足掻(あが)くも後の祭り…。


「さてと…これは私が何とかする。ロム、お前も無事に逃げろよ?」


『お前に心配されるとはな…俺も焼きが回ったものだ。』


相変わらず、人の忠告を素直に聞かぬ男だ。


テリオ達を追い、ヒビヤもまた、躊躇(ためら)いもせずに甲板から身を(おど)り出す。

風圧に(あお)られ、凄まじい速度で体が船体から離れてゆく。


「東方鬼道書」に(いわ)く、ゴグマとは創主降臨の超古代、二柱が契約に(もと)づき誕生させた混血児の一体とされる。

五体のこの新種のうち、二体は人類種ヒューマン魔界種ウリエアエネケンの原型となるが、「大いなる円環」(アルスマグナ)の怒りを買い、一体は大地に還元され魔界を縛る鎖となった。

また一体は無限の闇として分解された。

残る一体は世界の果てまで逃れるも、のちに月を支える柱に吊るされたと言い、それこそがゴグマだと言う。


これはお伽話(とぎばなし)に等しい。

それでも「月世界(ヴェネディス)」への扉を開く(すべ)が「海府の郷」(ニライカナイ)にあるのも事実。

とすれば、300年前の破滅も黒幕が知れようが…。


ともあれ、今は目下(もっか)の問題を解決せねば、この自由落下も如何(いかん)ともし(がた)い。


『…オ…オヤ…ジ…ジ…ィィィ…。』


まさか、あの状態でまだ理性があると言うのか?

その肉塊から、(はかな)げな奇声が()れる。


ヒビヤの瞳に(ほむら)(とも)り、紅蓮の炎が噴き上がった。

その黒髪さえも紅蓮に彩られ、全身が灼熱に包まれる。


「太陽を統べる者 (ジ・ヘリオドムス)、顕現(けんげん)!」


流れ込む「ニライカナイの力」を変換し、炎として具現化する結界因子を極限にまで高め、手の中で昇華する。

そして、この熱核を相位空間へと送り込み、座標点を定める。


見える。我が心眼を()って、もがき苦しむその中に、確固とした理性の揺らめきを感じる。


「出来るのか…この私にっ?」


しかし、導かれたように見出した事もまた何かの因果(いんが)か…。


気嚢体内部と弾倉庫内部に、同時に灼熱の火種(ひだね)が空間転移によって送り込まれた。

白毫號(バオス)」2號機は即座に爆熱に包まれ、外殻装甲が二つにひしゃげ、圧し潰すように肉塊を消し去った。


ゴゴゴゴォォォ…ォォォ…ォォォンンン…!!!


およそ、数千度もの熱に焼かれ、原型も(とど)めず溶解してゆく。

それが地表に到達する5分前であった。


それを見守りながら、テリオは「条帛螺髪」防盾の磁場反転機能と、蓄積(ちくせき)プラズマバッテリーとを接合する。

既にウリュウはテリオから離れ、「条帛螺髪」を一つ抱えたまま、降り注ぐ残骸を足場に飛び跳ね続ける。

その先には、落下し続けるヒビヤの姿があった…。


『おい、兄さんっ!また厄介なものを拾い込んで来たな?』


「すまんなっ!このヒビヤ・ホスヤン、一生の不覚なれど、これも私の性分なのだよ!」


急接近を成し遂げ、ヒビヤはウリュウの背中にしがみ付く。

それも片手で、片方には四肢を失った裸体のオグ・ザ・ゴグマを抱えている。


『…それ、大将のいつもの口癖だぜ?』


これで生きているのも奇跡であろうが、消失寸前で因子を再生したオグを相位空間で切り取り、転移させたわけである。


「まあな…あえて言った。」


後は無事に着地できれば申し分ない。

迫る地表に、しかし思わず互いに顔を見合わせ、笑ってしまった。


そうとも知らず、テリオが地表から上空を見上げて手を振るう。

無事に降下を果たしたようだ。


三人で一つの「条帛螺髪」とは心許(こころもと)ないが、そこに何の根拠も無かったが、まあ、何とかなりそうな気がしたのだった…。

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