シナリオⅣ 4 前章 第5話〈前編〉
シナリオⅣ 4.5〈僕らには皆運命があるのか、それとも風に乗ってただ彷徨ってるのか?
たぶんその両方だろう。両方が同時に起こっているんだ〉
I don’t know if we each have a destiny, or if we’re all just floating around accidental-like on a breeze. But I think maybe it’s both.Maybe both are happening at the same time
草創歴0449年5月(5/30)〈前編〉
「御霊山」、それは本州島アイゾンゲウアイスオ島を貫く「鬼脈」の中心、霊穴を塞ぐ霊山であるとされる。
今は法王院を名乗れども、ジャミイアン島を併合し、この霊山にて興されたのが「鬼道院」である。
即ち、旧世界の文明「南の鬼道」の名称を戴きて興された遺構である。
およそ2500年前より変わらぬその峯 の稜線は玄武岩の溶岩台地であり、丘陵は起伏に富んでいる。
台地の周囲には直立する柱状節理が形成されており、幻想的で圧巻な風景が目に飛び込んでくる。
「御霊」を奉り、畏敬の念に覆われるこの霊山は、法王院にとっては最大の聖域に他ならない。
永き歳月、一度たりとも土足で踏み躙られた事なく、侵攻を許さなかった聖域が、何の因果か?身内とも言うべき「法王院棺護軍」によって討たれんとしていた…。
ケルーナー法治国家が擁する最強の戦闘集団は、言わば法王院の護り手でもある。
飼い犬に手を噛まれる事になろうとは、御霊山を預かる統率者、護法天道(ディ-ヴァ)中位たる「菩薩位」、ドミュニエイティス・アミュレットは憤慨した。
ドミュニエイティス・アミュレットは常日頃、穏やかで皆に慕われる、まさに雲中白鶴な人格者である。
その彼が声を荒立てる事態であった。
あろう事か、法王院棺護軍と同盟を結びて陣を進めるのは、黒貌の重鎧が靦然たる騎馬の一軍。
これは第参帝国総軍に所属する騎士団に相違あるまい。
肆(四)大総統が一画、ハーリィー・ハーピーズと通じていたとの風聞は事実であったと知る。
ケルーナー法治国家が取り込んだものやら、第参帝国総軍に取り込まれたかは定かでは無い。
しかして、その双方を率いる者達を見やれば、もはや交戦止む無しであろう事は難くない。
戦場に異彩を放つ綿津見色の一群。
それは「海府の郷」(ニライカナイ)が使役する綿津見の一群であった。
彼等は一様に、霊子統制機関「ジ・タリスム」を内蔵する機械化された装甲に身を包まれている。
騎士や武者とは一線を画する、優雅ささえもある洗練された武装と佇まい。
その先頭に立つは、かの「オグ・ザ・ゴグマ」である。
となれば、面白くないのはメディウム・パオシアオであった。
無論、大将として法王院棺護軍を率いる立場にある彼は、今回の殲滅戦に際しても陣頭指揮に乗り気であった。
しかし、蓋を開けてみれば、この綿津見等に従えと言う。
「…御館様は、何とする気か…?」
国家当主、キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンに対する疑念。
さりとて、既に不義の身なればこそと忠誠を誓った身。
配下の武者等は、法王院が逆心したとの空言を信じて疑わぬ。
「法王院は前大将、ヒカル・マデュスティック・リユセを押立て、国家当主を排斥せんと目論む獅子身中の虫よ!!」
我が言葉を受けて怒号が飛び交う。
膿を出さねば、もはやこの国は何も変わらぬ。
なれば帝国と組むも良しと、国家当主、キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンは布告した。
「我が命に従い、御霊山を討て」と…。
それは法王院の拠点が僅かになった事と、ここに匿われたとされるヒカル・マデュスティック・リユセを誅殺するが目的とされた。
しかして彼等の意趣は、御霊山に封じられた「御霊」の確保に他ならない。
それにどのような意図があるのかは、メディウム・パオシアオにも知る由もなかった。
戦の直前、オグ・ザ・ゴグマは騎馬を寄せ、こう提案した。
『さて…国家当主より指揮権を預かってはいるが、何分、頭を使うのは性分では無いのでね。ここは一つ、競い合うってのはどうだい?』
怪しげな仮面により、その素顔は覗けない。
ざんばらに伸びた頭髪と、間延びした口調が特徴的で、どこか癇に障る。
「我らを愚弄する気か?これは我が国の趨勢を賭けた戦であるぞっ!」
ともあれ考えてみれば、不本意ながらもその手に乗るのもやぶさかでは無い。
むしろ、望む所だ。
海の彼方から現れし、得体の知れぬ、怪しげで胡散臭い者達の代名詞。綿津見に従うなどと、配下の鬱憤は高まるばかりである。
この男が何を考えていようとも、戦に於けるが武者の本分。
好きにさせてもらうに越した事も無い。
「よかろう!その申し出、受けて立つぞっ!!」
ましてや、何に変えてもヒカル・マデュスティック・リユセを討つは我が約義だ…。
一度ならずや、二度までも取り逃がし、その後の行方は我が「忉利千眼」で見定める事も叶わず。
そうこうする内に、この御霊山に潜んでいるとの御触れ。
事前に間者を潜ませていたものか?
『ならば、見せてもらおう。武者の働きっぷりをな。』
「言われるまでも無いっ!突き進むのみよっ!!」
先端は切って落とされた。
先陣を切って法王院棺護軍が突入し、少し遅れて第参帝国総軍がこれに追随する…。
武者等の大半は歩兵陣形。
厚い雲に覆われた荒天の空の下、血気盛んに険しい岩肌を駆け登って行く。
対しての第参帝国総軍の騎士等は、騎乗にての微速前進でこれを追う。
ゴゴゴゴ…ゴゴゴォォォ…ンンン!!!
先陣のおよそ500の軍勢は、予想だにもせず、突如に開いた大地の亀裂に次々と呑み込まれていた。
「天変地異かっ!?」
メディウム・パオシアオは恐れ慄く。
亀裂から噴き出す鬼脈の赤光。
その赤き波動は徐々に形を成し、巨大な人の形を形成する。
見守るうちに、それらは更に伸び上がり、霊山の頂までも覆い尽くす。
それは一体では無い。
複十数体の赤き巨人が互いに手を結び、円形を成して、御霊山を囲んでいた。
これぞ御霊を秘匿する為の「呪」、『臂釧・腕釧如意珠王』である。
今この刻、御霊山の中枢とも言うべき「御霊曼荼羅」にて、「菩薩位」ドミュニエイティス・アミュレットを中心とした詠唱の儀が行われていた。
ドミュニエイティス・アミュレットを中央に、その周囲に円形を以って囲む者達を「声院の使徒」(ハウグフォルク)と呼ぶ。
「御霊」を奉る祭祀の役目を持つ一族の総称である。
「声院の使徒」(ハウグフォルク)等は詠唱を休まず、総員を以って「呪」と成す。
その人員50名は、丁度、御霊山を囲む赤き巨人の数と重なる。
言わずもがな、彼等の1人1人が鬼脈と精神結合し、魂魄体と化して遮蔽堅守の要と化した。
それを統括し、鬼脈の波動を操作するが結跏趺坐にて瞑想せし、ドミュニエイティス・アミュレットである。
『…邪なる妄執に取り憑かれし者共、1人たりともこの聖域に脚を踏み入れるを許さず。死を覚悟せよ。』
ドミュニエイティス・アミュレットの冷淡な声が全ての者の脳裏に響き渡る。
それは無論の事、ヒビヤ・ホスアンの胸に突き刺さった。
元を辿れば、こうなるきっかけを作ってしまったのは自分自身であり、慚愧の念に堪えない…。
ヒカル・マデュスティック・リユセと共に御霊山に辿り着いたのが3日前の事だ。
迎え入れたドミュニエイティス・アミュレットは、キースヴェルヌ・スウイツエ・シピンの変質を信じようとせぬも、丁重なもてなしを我々に施した。
山内空洞を利用した、迷路の如き石室が連なる生活空間や市場。
与えられた客間との行き来は自由であり、一切の拘束は無い。
もっとも、祭祀空間への出入りは厳しく管理されており、「声院の使徒」(ハウグフォルク)の身内であろうとも、階級管轄は厳重である。
疲労困憊の身を休ませるには丁度良い。
だが、身を横たえれば思い起こされるは、この旅の行く末だ。
あの会談が催された小島の城塞での出来事は、今では遥かに遠き過去の事とも思えた。
「こんな事に巻き込んでしまい、申し訳ない。」
頭を下げるも、我が友は相好を崩して微笑んだ。
「宮廷魔術士殿…お顔を上げてくだされ!これはなるべくしてなった事。きっと、御館様には深い考えがあっての…事と!」
この期に及んでの信じている発言には羨ましくもなるが、そこが彼の前向きな思考の原動力。
その嘘偽りなき性分に、ただ心癒されるばかりであった。
…事態が急変したのは2日前。
鎮政府から脱出した護法天道(ディ-ヴァ)等が御霊山に合流し、ケルーナー法治国家の裏切りが白昼の元に曝し出されたのである。
「如来位」レン・トゥス・セントマリア殿かと見やれば、彼の姿は見出せず。
ヒビヤが見出したのは、「明王位」マカ・ロン・タオと、その肩に担がれた見憶えのある少年の姿であった。
…まさか、と駆け寄る。
「…ナウタなのかっ!?」
「海府の郷」(ニライカナイ)の『結界神殿』に長らく幽閉され続けてきた我が弟「ナウタ・ヴォルケーノ・ラウム」が、何故にどのような経緯を経てここにいるのか?
しかして、レン・トゥス・セントマリアの告げた言葉に相違は無かったのだ。
「マカロン殿!レン殿は如何なされたかっ!?」
力無き憔悴しきった弟の身を支え起こし、マカ・ロン・タオに問い質す。
「レン・トゥス様は…我々を先に行かせるために留まられた。」
それ以降の消息は掴めていないと言う。
「声院の使徒」(ハウグフォルク)を引き連れ、「菩薩位」ドミュニエイティス・アミュレットが祭祀空間の門「天冠台」より姿を現し、我々の会話を押し留める。
「そこまでに。今は、この者たちの治癒が先決ゆえに…ヒビヤ殿、少し、よろしいか?」
「…何か?」
「火種を内に抱え込む事は出来ぬ。故に、そなたの腹中を知っておきたい。」
さもありなん。
ナウタ・ヴォルケーノ・ラウムが「海府の郷」(ニライカナイ)の綿津見であると知られておれば、その兄たる自身に疑いの眼を向けられても仕方あるまい。
「分かっている…だが、せめて弟の身の安全だけは…。」
「そなたの弟殿に関しては、その身の保証は我らが「御霊」が確約しよう。何より、ナウタ殿は自らの意思で「御霊」と契約し、我らが同胞たる護法天道(ディ-ヴァ)となられている…。」
「何だとっ!?」
驚愕せし事実であった。
この子が自らの意思で、それを望んだと言うのか?
その幼い顔が苦悶に歪んでいる。
悪夢を見ているのか?
「そうか…元より、我らが一族は綿津見の禁忌。心残りはただ、囚われの身であった弟の身を案じての事よ…。」
枷が無くば、もはや「海府の郷」(ニライカナイ)の長である「エポナロッド・キロペー」に従う道理はない。
『よくぞ言ったぜ、兄さんっ!これで俺様も存分に暴れ回れるってわけだぁ!!』
今の今まで、出てくるなと命じてあったウリュウ・テウズスウが影から飛び出し、皆を一様に怯ませてしまった。
「こっ、土蜘蛛め!勝手に出てくるんじゃないっ!!」
『いいじゃねぇか。俺様は兄さんの味方で、兄さんはこいつらに味方するって決めたんだろ?』
敵の敵は味方的な了見か?
「…いや、確かにその通りではあるが…。」
『なあ!!大将もそう思うだろっ!』
急に話題を振られるも、ヒカル・マデュスティック・リユセは待っていましたとばかりに、力強くも豪語する。
「左様!真意が何処にあろうとも、今は降りかかる火の粉を被る訳にはゆかぬ!何故なら法王院は我が国の要。これを失う訳にはいき申さぬっ!!」
ヒカルとこの土蜘蛛は馬が合うようで、事あるごとに肩を組んでの豪快な笑い声を上げる。
そんな様子を見れば、周囲の警戒も緩むに一役買うのが唯一の利点か…。
これを見て、ドミュニエイティス・アミュレットは無言で引き下がった。
「お兄ちゃん…僕たち、どうなるのかな?」
ふと、過去から呼び戻され、ヒビヤは弟の神妙な顔を見つめた。
「…大丈夫だ。お前は何も心配する必要は無いよ、ナウタ。」
それは自分自身を納得させるための方便でもあった。
何者かの掌の上で踊らされている、そんな疑心暗鬼にだ…。




